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パキラの戦略的な生き方

義父の定食屋は川と海のつながる、いわば河口に位置している。
南国の潮の香りを含む風は、いつもどこかベトベトしていてカラッとした過ごしやすさとは無縁の土地。

定食屋の玄関をくぐると、そこはやや日当たりがわるくて薄暗い。
昔ながらの瓶ビールやジュースを冷やすためのショーケースがあって「ブーン」という低く震える機械音が迎えてくれる。

その玄関には、170センチ以上あるわたしの背丈よりももっと大きな鉢植えのパキラがある。
プラスチック製の鉢に植えてあるのだが、その鉢は26センチ径のカレー鍋程度の大きさしかなくて、お世辞にも巨大パキラにとって充分な栄養と水分を与えるだけの大きさであると言えない。
しかも劣化したプラスチックの側面は一部割れていて、そこからのぞく土は硬く、崩れてくる気配はない。

結婚して13年(多分)、一度もパキラを移動させたところを見たことがない。
だからパキラはじっとそこで息をひそめ、静かに与えられた環境に順応しいまに至るのだと勝手に想像している。

こうやって置かれた場所でじっと契機をうかがうように順応していく生き方と、自分にあうように環境を変えていく生き方。
どちらも尊いし素晴らしい、戦略的な生き方だとおもう。

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