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大喜利チョコ

皆さんこんにちは。
僕は高校を卒業後すぐ、芸人を目指し吉本の養成所であるNSCに通っている者です。

2月といえばバレンタインデーですね。

僕は今までの人生全くモテたことがなく、結局一度も彼女ができないまま高校を卒業してしまいました。

だから、僕にとってNSCは第二の青春なんです!

今年こそは義理じゃないチョコをもらうんだ!
先日の2月14日は、そんな頭の中がチョコでいっぱいの状態で、NSCに登校しました。


その日は、大喜利の授業でした。
講師の先生が教室の僕ら生徒に向かって言いました。

「いいですか皆さん。大喜利というのは団体戦です。あくまでお客様に向けたショーだということを忘れないでください。
それでは、今日はバレンタインデーということで、チョコレートにちなんだお題にしましょう。
第1問。『えっ!どうしてこんなところにチョコが!?』さあ、お考え下さい」

うわあ…チョコのお題か…。
ただでさえ頭の中はチョコでいっぱいなのに、大喜利までチョコだなんて、頭がおかしくなっちゃいそうです。

そのせいか、全く良い答えが浮かびません。
悩んでいると、同期のチョコレートプリンネットの長田君が手を挙げ、
「向かいのホーム!」
と答えました。

続いて同期のチョコリコの遠藤君が
「路地裏の窓!」
と答えました。

僕は「キタ!」と思いました。
山崎まさよしのワンモアチャンスの流れです。大喜利は団体戦。この流れに乗れば間違いなくウケるはずです!

僕は「はい!」と手を挙げ、元気よく
「こんなチョコにいるはずもないのに!」
と答えました。
教室が静まり帰りました。

先生にはため息をついて
「君ぃ、今のは普通に『こんなとこにいるはずもないのに』でいいじゃん。ちょっとチョコに引っ張られすぎなんじゃない?」
と、ビターなダメだしをされてしまいました。

隣の席の女子生徒も
「プー!怒られてるやん」
と僕をからかってきました。悔しいです。


「さあ、気を取り直して次のお題いきますよ。
第2問。『あれ?このチョコなんだか変な味がするなぁ。どんな味?』さあ、お考え下さい!」

先生が仕切り直して第2問を出題しました。

例によって良い答えが浮かばず悩んでいると、同期のハイツチョコの会の西野さんが
「牛角のカルビみたいな味!」
と答えました。

続けて同期のチョンチョコチョン万博のタフガイ君が
「牛角のカルビ専用ご飯みたいな味!」
と答えました。

さらに続けて同期の岸カカオのカカオ君が
「牛角のカルビ専用ご飯専用カルビみたいな味!」
と答えました。

僕はまた「キタ!」と思いました。
牛角の幼稚メニューの流れです。この流れに乗って出せば…!

僕は「はいはいはい!!」と手を挙げ、元気よく「チョコ角のチョコ専用チョコ専用チョコみたいな味!」
と答えました。
教室がさっきより静まりかえりました。

先生はまた大きなため息をつき
「君さぁ~、せっかくいい流れだったのに、マジで脳みそチョコに侵されてんじゃないの?後で職員室来なさい」
と痛烈なダメだしをしてきました。説教確定です。

僕は頭を抱え
「ダメだ、もうチョコのことしか考えられない。そもそも何で僕の同期はチョコみたいな名前のやつばっかなんだ」

と嘆いていると、隣の席のチョコロヒーにもまた

「やーい、また怒られてやんの」
とからかわれてしまいました。


そして放課後、時刻はすっかり夕方でした。
先生には怒られるし、結局誰にもチョコはもらえないしでトボトボしながら帰り支度を済ませた僕は、玄関で自分の靴箱を開けました。

するとそこにはなんと、小包に包まれたチョコがひとつ置いてありました。

『えっ!どうしてこんなところにチョコが!?』
そう驚いていると、

「びっくりした?」
と聞き覚えのある笑い声が聞こえてきました。
そして靴箱の陰からひょこっと、同期のチョコロヒーが顔を出しました。

「なんだよ、別にびっくりしねえよ。お前からの義理チョコなんて」

「義理ちゃうで。私、好きやから」

「え?」

ぎ、義理じゃない!?好き!?
そ、それって…え!?

僕は動揺しました。

それを見た彼女は
「プー!やっぱびっくりしてるやん。マジおもろいわ」
と、膝を叩いて笑ってきました。

「ちぇ、嘘かよ」
僕がそう吐き捨てると、彼女はスンと真面目な顔になり、

「嘘ちゃうで。私、あんたの大喜利好きやもん。今日はなんか調子悪そうやったけど、いっつも笑わせてもらってるんやで。それに大喜利してる時のあんたの真剣な横顔、ちょっとカッコええしな。…って、なし!今のはなし!!

んー、まぁー、だからあれやな。
これは義理チョコじゃなくて、私からの『大喜利チョコ』ってことや!ありがたく受け取りや!じゃ、そゆことで!」

そう言って、タッタッタと走って行ってしまいました。
去り際、夕日のせいか、彼女の顔が少し赤らんで見えました。

なんだよあいつ。
いっつもからかってきてるくせに、こんな時だけ。
はぁ~あ、大阪の女はよくわかんねえな。


…くそ、何だよ、この気持ち…

僕はモヤモヤしながら彼女からもらったチョコを一粒口に運びました。


『あれ?このチョコなんだか変な味がするなぁ』


何でだろう
チョコなのに、なんだか少し、甘酸っぱいや







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