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ノックの回数 〜新人の益田君との攻防〜

私は都内某企業で女社長をしている者です。

先日、社長室で書類の整理をしていたところ、”コンコン”と扉がノックされ、「失礼しまーす!」と、新人の益田君が入ってきました。

全く、最近の子はビジネスマナーがなっていません。

部屋を訪ねる時のノックの回数は、コンコンコンと3回が適切です。2回コンコンとするのは、トイレの個室をノックする時の回数なのです。
社会人なら常識ですよね?

私はその旨益田君に小一時間に渡り説教しました。益田君は納得した様子で去って行きました。


それからしばらく経ったある日の朝、いつものように出社し社長室に入ると、そこにはものすごい異臭が立ち込めていたのです。

よく見るとなんと!私の机の上にウンコが乗ってるではありませんか!!

「おいおいまじかよ。こんなカゲヤマの二本目みたいなこと現実にあるのかよ」と思いながら、どう処理しようか奮闘していると、コンコンと扉がノックされ、「失礼しまーす!」と益田君が入ってきました。

「今取り込み中なの!後にしてくれる!?」
そう言って追い返そうとした時、私は「アレ?」と思いました。


今益田君、コンコンって、ノック2回だったな。


私は益田君に言いました。
「ちょっと益田君?部屋に入ってくる時はノック3回だって前教えたわよね?」

「え?社長トイレに入る時は2回って言ってましたよね?」

「は?」

「だって机の上にウンコがあるじゃないですか!ウンコがあるってことはここトイレですよね?」

何を言ってるのでしょうかこの子は。
色々疑問は残りましたが、ひとまずはウンコの処理が優先です。その日は益田君をさっさと追い出し、机を掃除しました。


次の日、少しビクビクしながら社長室に入ると、机の上にウンコはありませんでした。一安心です。まあ、こんなことが二日連続起こるはずがありません。

するとまたコンコン、「失礼しまーす!」と益田君が入ってきました。

「益田君、ノックは3回だって何度も言ってるでしょう?」
私は呆れて注意しました。

「え、だって…」益田君は言いました。
「だって、机の引き出しの中に…」

「引き出しの中?」
私が机の引き出しを開けると、そこには見事な一本糞が入ってました。

「ウンコがあるのでトイレかと思いました…」

「どういうこと!?なんでウンコがあるって知ってるのよ!」

「え、だってここトイレですよね…?」

「その、だから、トイレだって思ったのはどうしてなの!?」

「え、だってウンコがあったので…」


こんな感じで小一時間益田くんを問い詰めましたが、トイレだと思った理由が「ウンコがあるから」、ウンコがあるとわかった理由が「トイレだから」と、一向に議論が進みませんでした。

しかしどうやら、仕組みはわかりませんが益田君は部屋にウンコがあることを感知できる能力を持っているようです。


そうは言っても、私はまだどこかで益田君の能力に疑いを持っていました。

そこで次の日は、机の上にウンコそっくりのかりんとうを置いておきました。

すると案の定、益田君はコンコンと2回ノックをし部屋に入ってきました。

私は益田君に「騙されたわね!これはかりんとうよ!あなたの能力ではウンコとかりんとうの区別もつかないのね!!」
と言い放ちました。

「え、でも、カーテンの裏…」益田君は言いました。
「カーテンの裏?」

カーテンをめくると、カリカリに乾燥したウンコが日の光を気持ちよさそうに浴びていました。
恐れ入りました。どうやら益田君の能力は本物のようです。


次の日から、私は毎朝益田君を呼び出し、ノックの回数で部屋にウンコがあるかをチェックすることにしました。

益田君がコンコンと2回ノックして入ってきた日は、一見ないように見えても探せば必ずウンコが見つかりました。

天井裏、観葉植物の鉢の中、歴代社長肖像画の額縁の上、あらゆる場所にウンコは出現しました。

逆に、益田君がコンコンコンと3回ノックする日は、本当にウンコはありませんでした。そういう日はノックだけさせて帰しました。


っていうか益田君、いつの間にかノックのマナー身についてんじゃん…!
私は部下の成長に一人嬉し涙を流しました。


そんなある日、益田君がコンコンとノックをしたのでいつものように部屋中を探索したのですが、一向にウンコが見つかりません。

探せど探せど見つからないウンコと、社長にまで上り詰めたのに毎朝ウンコ探しをしている自分自身にイラついてきて私は思わず
「おい益田ァ!!ウンコどこにもねえじゃねえかよ!!」とブチ切れてしまいました。

すると益田君は
「うるせえ!毎朝毎朝意味わかんねえ理由で呼び出しやがってよこのクソ社長!!こんな会社もうやめてやるよ!!」
そう言って部屋を出てってしまいました。

クソ社長…。
そうです。毎朝理不尽に呼び出す私自身がついにウンコ判定されてしまったのです。かりんとうですらウンコ判定されなかったのに。


そしてそのまま益田君は本当に会社を辞めてしまいました。

そしてその日から、部屋にウンコが出現することは無くなりました。




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