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タイザン5作、漫画「タコピーの原罪」第15話を読む

父を奪った娘達に復讐を果たした、しずかは、今度はチャッピーを奪った保健所の人に復讐を果たそうとしている。その足下に立ち塞がるタコピーに、しずかは「どいて」と要求する。タコピーは「どけない」と、それを拒否する。

タコピーはしずかに、悪いことをしてはいけない、悪いことをして欲しくない、そんなことをしたらぼくは悲しい、誰かを悲しませたらしずかも悲しくなるだろう、と語り掛ける。

そして、しずかが長い間一人で大変なのは知っている、という言葉をタコピーが言った瞬間、しずかは顔を醜く歪め、黙らせるようにタコピーを踏み付ける。

誰かを悲しませるようなことをするな、と言うなら、わたしが悲しかった時、傷付いた時、困った時、虐められた時、疎まれた時、寂しかった時、つらかった時、責められた時、頼る人が誰もいなかった時、ではどうすればよかったのか、としずかは石を手に、タコピーを何度も殴り付けながら、訴える。

誰もわたしのことを見ていない。誰もわたしの言葉を聞いていない。それを知りもしないでおまえは、どうすればよかったと言うのか、としずかは感情を露にして叫ぶ。

この時、しずかは初めて自分の中に溜まっていた激しい感情を解放できたと共に、それをぶつけることのできる相手に出会えた。だからその瞳は、もう死者のように暗く冷たくはない。しずかは、もう死者のように沈黙する必要はない。

タコピーに強い一撃を加えようと、しずかはタコピーを手で押さえ付ける。タコピーは、しずかのその手を握り締め、「わかんない」と答える。

しずかは「ふざけんなよ(中略)触んなよ」と言って、タコピーの握る手を解こうと石で殴り付けるが、タコピーは「ハッピー握手だ」と言って、しずかの手を放さない。

今までのタコピーは、暴力によって容易にハッピーを弾かれ、それで引っ込んでいた。今のタコピーは、しずかの振るう苛烈な暴力に耐え、そのハッピーを引っ込めない。引っ込めるわけにはいかない。それはタコピーの、しずかに対する強固な意思の表明だ。

タコピーはしずかに「何もしてあげられなくてごめん」と謝る。更に「でもいっつも何かしようとしてごめん」とも謝る。しずかの気持ちを、話を聞くこともせず、分かろうとしなかったこと、しずかを一人にしていたことを、タコピーは謝る。

しずかの目の前には今、自分のことをちゃんと見て、自分の言いたいことをちゃんと聞いてくれる、相手がいる。しかし、だからといって、父やチャッピーはもう戻ってはこない。母ももう自分を愛してくれない。

しずかのその痛切な胸の内を、タコピーはしずかの父や母やチャッピーに代わって受け止め、しずかと共に泣く。

タコピーを抱え、手を繋ぎ、しずかは町をさ迷い歩く。何日も何日も。しずかの帰るべき場所はもうどこにもない。

しずかの髪が伸びると、タコピーが鋏でそれを切って整える。眠る時は一緒に抱き締め合って寝る。しずかとタコピーはいつも涙を流し続ける。

それは哀れみの涙だ。しずかは自分で自分を哀れむことができるようになった。そして、その哀れみを誰かと分かち合えるようになった。

一人で自分を哀れんでも虚しいだけだ。しずかは虚しさを感じないために、自分への哀れみの情も他の感情も、凍り付かせていた。二人の涙は、それが融け出したものだ。

タコピーはしずかに、二人で一緒にいられることが幸せだ、と伝える。タコピーは「それで」と言うと、しずかはタコピーを見て「うん」と応える。

今、タコピーの言葉はしずかに届き、しずかの言葉はタコピーに届く。その嬉しさをタコピーは噛み締める。

タコピーはしずかを、二人が最初に出会った公園に連れてくる。そこでタコピーは、壊れたハッピーカメラを取り出して、しずかに見せる。

タコピーはしずかに、ハッピーカメラの機能と、それが壊れて今は動かないことを、操作しながら説明する。しかし、タコピーの身体が光って消え始めるのと同時に、ハッピーカメラが動き出す。

自分のハッピー力を犠牲にすれば、もう一度だけハッピーカメラが動かせる、とタコピーは言う。それが「ぼくだから きみにしてあげられること」だと言う。しずかは「待って」と繰り返し、タコピーに触れようとするが、その手は空を掴む。

「タコピーまでいなくなったら」と絶望の表情を浮かべる、しずかにタコピーは「きみをものすごい笑顔にしてみせる」と言う。一緒にいられて幸せだったけど、しずかが笑えないのは、やはり駄目だから、と自分の決断の意味を、タコピーは話す。

しずかは「私 笑えるから」とタコピーを引き留めようとするが、ハッピーカメラは止まらない。タコピーは、一緒に遊んでくれて、仲良くしてくれて、パンをくれて、ありがとう、としずかに伝える。そして、さようなら、と。

二人は互いに、まだ何か言おうとするが、それは叶わないまま、時間は遡る。しずかは、タコピーと写真を撮った、その時間に戻った。しかし、そこにタコピーの姿はない。そして、それまでのしずかの記憶も失われているようだ。

ハッピー力を犠牲にして、タコピーは壊れたハッピーカメラを動かした。ハッピー力とは何だろう。

タコピーは、生命や生命力を犠牲に、とは言わなかったが、しかし、タコピーの身体は消え、時間を遡った先にその姿はない。やはりそれは、ハッピー星人にとって生命や生命力に等しいものだったのではないか。

タコピーもタコピーと過ごした記憶も失った、しずかは、この後一体どうなるのだろう。

また、まりなに虐められ、チャッピーを奪われ、自殺を図り、しかし生き延び、死者のような暗く冷たい瞳をするようになるのか。

いやしかし、ハッピーカメラで戻るのは、「二人で」写真を撮った時間だ。ということは、時間を遡った先のしずかは、タコピーと出会った後であり、その記憶は持っているはずだ。なら、きっと何かが違ってくるはずだ。

それとも、タコピーと出会ったことすら、なかったことになっているのか。

だが、なぜタコピーは大ハッピー時計を使わずに、自身を犠牲にしてでもハッピーカメラを使ったのか。大ハッピー時計については、東との最期の会話でも出ていた。使えないことはないのではないか。

大ハッピー時計なら、ハッピー力を犠牲にすることもないし、記憶も持ち越せる。しずかを余計に悲しませることもない。なのに、どうしてか。

もしかしたら、ハッピー力を犠牲にする、というのは、壊れたハッピー道具を強引に動かす、ということ以上の意味があるのだろうか。何にせよ、ここはタコピーの「ぼくだから きみにしてあげられること」を信じるしかない。

果たして、始めの時間に戻ったしずかは、今度はどう生きることになるのか。しずかは、タコピーとはもう会えないのか。少女達は、過酷な運命から逃れることはできるのか。次回の配信を待ちたい。