記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

タイザン5作、漫画「タコピーの原罪」第12話を読む

今回はコマ枠の外が始終、黒いままだ。それは描かれている物語が過去の出来事であることを表している。

今まで読者は、小学生のしずか達の出来事を見てきたが、ここからは高校生のしずか達の出来事を見ることになるようだ。過去の出来事のはずが、描かれているのはしずか達の未来の姿だ、というのは少し奇妙な感じだ。

しかし、それは小学生のしずか達の物語を基点に、時間の流れを理解するからだ。本来の基点は、高校生のしずか達の物語であり、その先に、今まで読者が見てきた、小学生のしずか達の物語が接合している。

そしてそれは、基点となった高校生のしずか達が、経てこなかった物語であるはずだ。この隔たった、二つのしずか達の物語を横断しているのが、タコピーなのだろう。タコピーだけが何らかの理由や目的を持って、過去のしずか達の時間へと跳躍した。

読者が今まで物語の始めと思って見ていたのは、そのタコピーの物語の一部ないし途中だったのだ。今回からは、今まで伏せられていた、本来の物語の始まりが描かれる。

まりなにもらったであろう握り飯を食べながら、タコピーは自分に名前を付けてくれるように、まりなに求める。しずかと違ってまりなは、タコピーを見もせず、関心なさ気に「じゃあ ごみくそ」と応える。

高校生となったまりなは、上品な女子校に通っているようだ。しかし、顔の傷によって周囲からの印象はあまり良くない。

そんなまりなに、タコピーはあれこれと道具を差し出すが、まりなは、邪魔だ、とばかりに、それをタコピーごと殴る蹴るで退ける。

まりなが家に帰ると母親が項垂れている。食事の支度をしようとするまりなに、まりなの母は、コンブチャ(昔、紅茶キノコという名称で、日本で流行したもの)を、と言う。

機嫌を気にするように母に話し掛けながら、まりなは冷蔵庫を開けるが、そこにあったコンブチャの容器は空だ。そのことを謝ろうとするまりなに、まりなの母は割れた安酒の瓶の、鋭い欠け口を突き付け、なぜ補充を怠ったのか、と責める。

まりなの母は、アルコールの入ったコンブチャが切れていたので、その代わりに安酒を飲んでいたようだ。

母は、家のことがちゃんとできないから、あなたには男が寄り付かない、とまりなを詰る。まりなは怯えて泣きながら、母に謝る。母は、あなたも、母乳が少なかったせいでそうなった、とわたしを責めるのか、とまりなに食って掛かる。

そんな二人を見て、タコピーはただ「にぎやか!」と思っている。

自室でまりなは、小さい頃に母を怒らせたことがあり、その時にコップで切れて出来たのが顔の傷で、それ以来ガラスが怖い、と心の疲弊を隠す余裕もなく、涙を流しながらタコピーに話す。

この時のまりなは、ぎこちなく「がらす」と繰り返す。まりなが恐れているのは、正確には割れたガラス、あるいはガラスが割れることだ。それがまりなの心と身体を切り裂き、今もまりなの対人関係を阻害し続ける、顔の傷を付けて残した。

まりなの言うガラスとは、割れ易く、割れれば鋭くまりなの心と身体を傷付ける、先刻の母を象徴している。そして、それと正反対に位置するのが、ぷよぷよとタコのように柔軟で、どんな悲惨な状況もハッピーに解釈してしまうタコピーだ。

タコピーはだから、まりなの顔の傷の秘密を聞くことができ、またまりなの殴る蹴るの暴力や暴言を、受け止めることができる。タコピーは決して割れることのないガラスであり、同時に決して傷付くことのない子供でもある。

まりなは、「幸せな お母さんに なりたい」、「幸せな 子供を産んで 幸せに 育てて」とタコピーに自分の願望を語る。そして、そうすれば母とも仲良くなれる、とも。

それを聞いたタコピーは、まりなは母の真似をしていたのか、と納得する。「まりなちゃんが いっつもぼくを 強く触るのは ママのまねっこ」だ、と。

強く触る、とは暴力のことだ。そして、それをまりなが自分にするのは母の真似だ、とタコピーが言っているのであれば、タコピーは母がまりなを「強く触る」のを見て知っていることになる。

つまり、タコピーがまりなにされているようなことを、まりなはまりなの母にされている、ということだ。

「まりなちゃんも きっといいお母さんに なれる」とタコピーは無邪気に、まりなに言う。「いいお母さん」とは「子供に強く触るお母さん」のことであり、「子供に暴力を振るうお母さん」のことだ。

衝撃を受けて俯くまりなにタコピーは、「ぼくが ママになる お手伝いを する」と言う。そして「いいパパを 探しに 行く」と言って、タコピーはまりなの腕を引っ張っていく。その末に、まりなは東と再会し、二人は付き合うことになる。

東と付き合い出したことを、まりなは母に報告する。母はそれを歓迎する。そして、家を出ていった夫(まりなの父)もそろそろ戻ってくるだろうから、皆で食事をしよう、と話す。

まりなの父の、まりなに宛てた電子メールの文面の一部から、まりなの父は離婚したがっているが、まりなの母は調停に応じようとしていないことが窺える。

まりなの両親の仲は決裂している。にも拘わらず、まりなの母は、まりなが配偶者を得れば夫との関係が修復される、という根拠のない希望を抱いている。

子供を産めば母との関係が修復される、と根拠のない希望を抱くまりなは、その点で母と似る。

後日、学校内で「ママとこんなに 楽しく話せたの 久々かも」とまりなは、その時のことをタコピーに語る。そして、顔の傷を気にしないでくれる東への、熱い関心を吐露する。

まりなは、父が家を出ていき、それで母が変貌し、仲の良い友達もおらず、ずっと一人だった、と自身の悪い遍歴を振り返る。そして、東と出会えたことで「最近は ちょっと 悪くない」と語り、東と出会う切っ掛けを作ったタコピーに、感謝の言葉を伝える。

下校時だろうか、まりなと東は道を並んで歩いている。まりなは東と手を繋ぎたいようだが、それを言い出せず、東の手に自分の手を、それとなく寄せる。その時、周囲から、何年か前に自殺未遂したことがあるらしい転校生の噂が聞こえてくる。

そして東の手が、急にまりなの手から離れる。まりなは、手が触れてしまったことが不快だったのか、と東に謝るが、そうではない。東は、今擦れ違った、見覚えのある美しい女性に気付いて身を竦めたのだ。恐らく、その女性は、あのしずかだ。

首を吊った小学生のしずかは、ロープが切れて未遂に終わり、生き延びた。それから地元を離れていたようだが、彼女は再び帰ってきた。なぜなのか。その理由は何となく察せられる。まりなへの復讐だろう。

小学生のしずかが自殺を企図した理由は、作中では明らかにされていないが、チャッピーと離れ離れにさせられたことが、やはり考えられる。そしてその事態を主導したのは、まりなだ。

しずかの着ている制服のリボン・タイと、まりなの着ている制服のリボン・タイは違うもののようだ。しずかの転校先は、まりなの通っている学校とは別だろうか。

しかし、転校生が前の学校の制服を着続けることは、ままあるのではないか。まして、創作では転校生という特異性を表現するには、そのほうが効果的だ。

まりなへの復讐のために、しずかは帰ってきたのであれば、彼女は一体どのような方法で、それを成し遂げるのだろうか。それも何となく察せられる。それは、まりなが最近手に入れ始めた「ちょっと 悪くない」生活を壊すことだ。そのための力を、しずかは持っているはずだ。

まりながチャッピーを、しずかから奪ったように、しずかは東を、まりなから奪うことができる。それも、とても容易に。そのことを読者は既に見て知っている。

何だかこれから東は、とんでもなく、ろくでもないことを仕出かすような気がしてならない。まりなが作ってくれたパンケーキを台無しにするとか、あるいはパンケーキどころか、まりなの命を台無しにするとか。東、眼鏡の度は合っているか? とても心配だ。

果たして、しずかは何を企むのか。まりなと東の関係は、しずかの出現でどうなってしまうのか。その時、タコピーの取るべき行動とは。次回の配信を待ちたい。