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裁判官殿!態度が悪いと裁判は不利になりますか?|裁判官の頭の中ってどうなってる?

「態度が悪いと、裁判は不利になるのか?」という質問について。

といっても民事裁判では、本人はあまり裁判に出席しないので。。。。基本的には刑事裁判(何か犯罪に関わっちゃった場合)をベースにお話しますが、どちらの裁判にも共通する話です。

刑事裁判の場合って、裁判に至るまでの間に、留置所や拘置所に長いこと入れられていたり、捜査で警察や検察に辛い目に遭わされていることもあって、その後の裁判に向かう段階では、決して前向きな気分ではないものです。自分がこの後どうなるのかの不安もあって、ちょっと卑屈というか、反抗的な態度になるのも、無理もない部分があります。

でも、もし自分の態度が裁判の結果に影響あるんだとしたら?その振る舞いには、ちょっと気をつけたいところですよね。

1:三審制の下で働くサラリーマンなので・・・・

判決を書くのは裁判官ですから「裁判官は、何を考えながら判決を書くか」というのがポイントです。裁判官の頭の中・・・「そんなエリート中のエリートの頭の中なんてわかるはずなくないか?」という気もしますが、裁判官も人間で、普段置かれている状況から、その頭の中に入り込んでくる要素は決まってくるものです。

裁判所というのは、そこに勤める人にとっては会社みたいなもの。裁判官であっても、いわゆる「社内の評価」からは自由でいられません。露骨に言ってしまうと「出世」に響くような、判決は書きにくいのが裁判官のサガだということです。

裁判官が嫌がることの一つ、キャリアに傷がつきかねないことの一つに「自分が担当した裁判の判決が、控訴されてひっくり返されること」があります。

日本の裁判は「三審制」ですから、裁判を2回まで、やり直してもらうことができます。上級の裁判所に事件が行って、判決内容が変わるというのは、要は「元々の判決は妥当でなかった」と上が判断することですから、それが本人のキャリアにとってプラスなわけはないですよね。

なので裁判官は、完全に自分の知識や感覚で判決を書くわけではなくて、常に「上級裁判所で再度判断されたらどうなる?」という「上司の目線」のようなものを気にしながら判決を書くことになります。

つまり裁判官の判断というのは、最終的には、最も裁判所の上層部である「最高裁判所」の判断を意識しながら行われる「不自由な判断」なんです。これは裁判官によって、やたらに判断にブレがあっても困りますから、裁判所全体として、判断がある程度統一されるという方向で、良い面もありますよね。

2:「悪性格の立証」は絶対禁止!

元の話に戻って「態度が悪いと、判決に影響あるの?」という話ですが、これについての最高裁判所の基本的姿勢は定まっています。

これは「悪性格(あくせいかく)の立証」という有名な論点でもあるのですが、簡単にいうと「悪そうなやつだから、犯罪をやったんだろう」と認定するのは「絶対禁止」ということになっています。そんな乱暴な認定が許されるなら、あれこれ証拠を集めて裁判をやる意味がないですよね。。。

このルールはさらに、被告人に前科や前歴があっても「起訴している事実と関係ないものは、そもそも裁判に持ち込んではいけない」というところまで厳密なルールとして運用されています。

当然「裁判の態度が悪いから、こいつはきっとやったんだろう」みたいな認定は、絶対にできないわけで、それを原因に有罪になるということはありえません。

唯一考える必要があるのは、有罪が他の証拠から確定しているときに「どのくらいの刑にするか、執行猶予をつけるか」と言う判断をする段階で「被告人の反省の程度」について判断する一材料になる可能性です。

でもこれも、裁判官にとっては結構ハードル高いんですよ。法廷での態度って、ずーっと、ビデオ撮影したりするわけでもないので記録に残りませんし、質問に答えなかった程度であれば、そもそも被告人には「黙秘権」があるので、ペナルティの対象にはなりえません。

そんな状態で「判決に裁判での態度が悪いことを考慮して・・・・」なんて判断したら、刑事弁護人が「量刑不当」で控訴してきたときに、非常に面倒なことになるわけです。

どこにも記録も証拠もない「裁判での態度」がどうだったかとか、それを考慮していいのかとかが、上級の裁判所で審理されることになる。高等裁判所で被告人が出席して、大人しく殊勝な態度を見せたらどうなるんでしょうね、って話ですw 

「なんだ、下級審の判決に書いてあることと違うじゃないか」ってことになりかねないですよね。裁判官は、ひっくり返されるのがおっかなくてそんな判決書けないんです、やっぱり。

3:良識ある裁判官の思考

そしてそもそも良識ある裁判官は、被告人の態度で、判決理由を左右したりしないんです。

というのは、それって、本人にとっても、どうにもならない部分もあることだからですね。人が取る態度や振る舞いって、生まれた家庭や育った環境の影響とかも大きいじゃないですか。心理的にも、態度の悪さや反抗的姿勢は、不安のあらわれとしての防衛行動であることが多い。

そういったものを取り上げて、判決上不利に扱うことはそもそもどうなのか、弱い人を社会的にさらに追い詰めることじゃないかって、まともな裁判官だったら、考えるんですよね。

そもそも、裁判所っていうのは、多数決に支えられた権力である国や政府とは違って、少数派の人権を守るために存在する独立の権力機関。多数派と同じように振る舞うことの難しい少数派の人たちに、寄り添って、その権利を守ることも裁判所の使命です。

そんな裁判所が「あいつ悪そうだから厳罰」みたいな、乱暴な判断をするってことは、ありえないんですよね。もちろん、被告人が裁判に対してあまりに侮辱的な態度を取ったりすれば、大人しくするように迫ったり、退廷を命じたりという秩序維持はするかもしれませんが・・・・

それでも、被告人の人生を左右する「判決の内容」にそれを反映するということは、その役割/使命からしてありえないんです。また、先ほどあげたような、最高裁判所の判断方針や、上級の裁判所でひっくり返されるプレッシャーからも仕組み上も難しいんですね。

4:態度は気にしなくていいけれど・・・

ということで、やたらに反抗することをお勧めするわけじゃありませんが、被告人は、裁判官からの見方を過剰に気にする必要はないというのが結論です。

ただし、最後にワンポイント。被告人に有利な方向についてのこと、背景事情を説明することや、反省を自ら示すことについては、裁判所は、前向きに考慮してくれるもので「疑わしきは被告人の利益方向に考慮する」という刑事裁判上の原則もありますから、材料があるのであれば、示しておくことがお勧めだとは、付け加えさせていただきます。

以上、日本の裁判官は、被告人の態度では、簡単に判決を動かさない。そこには様々な理由や事情があるというお話でした。ご静聴ありがとうございました。

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