見出し画像

正解だらけのクルマ選び その19【ランチアY③】

杉浦さんの運転するトラックで運ばれて、我が家にやって来た小さな高級車ランチアY(イプシロン)。

その頃は三島市安久という田んぼの真ん中にある文化住宅の立ち並ぶその一軒に、妻の営む《ひむ香》というリフレクソロジーやカラーセラピーを中心とした自然療法の店を住居兼としていた。昭和40年代に多く建造された木造平屋建ての小さな家も、向かいに住む大家さんの好意で自由な改造が許され、インテリアについては《美しい部屋》という雑誌に掲載されたほどだった。しかし錆びかけたトタンに青瓦の『あずまや』でしかなく、古民家とはいえない中古住宅のその外観と、品格あるネイビーカラーに包まれたいかにも高級車然とした佇まいのYとは、アンバランスで妙チクリンな取り合わせだった。

このクルマ実に世話の焼けるクルマで、初っ端は保険の問題。並行輸入の台数が3桁やっとで、さらに片式不明ときてる。世話になっている三枝貴樹君に保険料金を試算してもらったところ、なんと最高等級。Bセグメントの車がフェラーリやレクサスと同じだなんで馬鹿げてる。結局半年間は仕方なく支払ったが、彼が保険会社に掛け合ってくれたおかげで、その後はマーチとほぼ同額になった。

次はイモビライザーの故障。ヨーロッパでは自動車盗難が多いため90年代半ばくらいからコンピューターを活用した盗難防止装置が早くからつけられていた。Yも高級車なので、それが装備されていたのは有り難いのだが、そこはイタリア。ある時から自分のキーにも関わらず、車自身が盗難扱いと判断してエンジンが掛からない。イーグルオートのメカニックに電話口で教えて貰った、インパネボタン操作による謎の暗号コードを、毎回謎解きみたいにしてエンジンをかけるという不便を強いられた。まぁ、しかし、そんなこんなも慣れるもので、そのまんまにしていたら、杉浦さんが菓子折り持って慌てて飛んできてくれた。どうも、その方法は途中でエンジンが急停止するそうで、メカニックの不手際を平謝りしていた。結局はコンピュータの総入れ替えで30万円以上が消えた。痛かったなぁ。

他にも細かいことは沢山あるが、逐一それを気にしているようではイタリア車には乗れまい(最近の車はそこまで心配無いようです)。けれど、おおらかに受け入れると、それをも上回る悦楽をくれるのがイタ車であり、ランチアYもその通りだった。例えばショッピングモールで買い物を済ませ、パーキングで直ぐに見つけ出して戻った時の美しさ。車格を超えた、クロームメッキの艶やかなフロントグリルから伸びるボンネットとサイドライン、バンパーからのキャラクターライン、それとルーフやアンダーパネルのライン。この4つが緩やかに円弧を描きながら、しかも一つも平行でないのにとっちらからないで、テールランプやリアパネルの*コーダトロンカに切り落とされて集約する。それまでの車にはなかったなんとも不思議な形。916スパイダーと合わせてエンリコフミアの傑作だと思う。

走りに移ろう。1.4Lの直列4気筒SOHCエンジンは80psと馬力こそさほどではないものの、1tほどしかない車重のおかげで実にキビキビと良く走った。ホイールベースも若干長めで、シートと相まってなんとも形容しがたい落ち着いた乗り心地。勝手に中世ヨーロッパの貴族の気分になる。ワイディングも全高が低く意外とスポーティにこなし、高速走行も小さい車体の割に、実に安定感があったのは、そこはさすがのヨーロッパ車。

そんなランチアYでドライブや旅をして、いろんなところへ出掛けた。その一つで自分自身の置かれた状況もあって印象深い、高知は四万十川への旅を紹介しよう。つづく

*コーダトロンカ…カム博士が提案した長いテールを切り落としても空気抵抗は変わらないとする理論を元に、後部をスパッと切り落としたデザインがイタリア車を中心に作られた。

画像3

画像2

画像3

#ランチア #カムテールデザイン #エンリコフミア #イーグルオート


読んでくれてありがとう。少しはお役に立てたかな⁉︎。聞きたいことあったら、ぜひ質問くださいな。もし楽しい気持ちになれたなら、ほんの少しだけ応援ヨロシクです。