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正解だらけのクルマ選び その12【ルノートゥインゴ⑥】

ガシャン…

ほんの瞬間的に視界がなくなったその先に、凄まじい衝撃と怒号が身体を揺さぶる。

「しまった、やっちまった」

一瞬の出来事にそう思いながら、クルマと僕は水平方向に2回転スピンした。勢いそのままに、バンパーはボンネットごとガードレールにグサリと突き刺さる。くの字にひしゃげたガードレールレールに支えられて、辛うじて崖下への転落は免れて止まった。

「死んでない、助かった…」

ハンドルから手を離し、動かした手指に視線を落とす。間違いなく自分が生きていることを確認して、首を振ると右手方向には深い霧の中に大型トラックのハザードランプが見え、ガードレールすれすれで停車している。今一度、身体を揺さぶるがどこにも痛みはない。誤作動だろうか。エアバッグは開かなかった。しかし、奇跡的に無傷だったようだ。ドアを開けて外へ出ようと左足を投げ出すと、少しだけ膝に痛みがある。ダッシュボードにぶつけたのかスーツの膝小僧が擦れてテカっていた。

ガードレールに垂直に刺さったトゥインゴのリアから回りこんでトラックへ近づき、助手席側の高い窓をノックした。ウインドーが降りた向こうの運的席で中年のドライバーが震えながら目を合わせずにいる。

「大丈夫です、生きてます」

やがてこちらを向いた。まるで幽霊を見るかのような怯えた目だった。

「すいません、でも、生きてます、大丈夫です、怪我もありません。本当にすいません」

ドライバーが僕が死んだと思ったのも当然で、トラックの右バンパーは潰れていた。あの最初の衝撃は正面衝突だったのだ。どうやらセンターラインをオーバーした自分が自爆するようにトラックに突っ込み、避けきれずにぶつかったようだ。証拠にトゥインゴの右前半分は無くなるくらいに潰れていた。もし左ハンドルでなければ自分は死んでいただろう。トラックのドライバーはそう思って僕を幽霊ではないかと疑ったのだった。

少し経って警察の検証が始まった。霧が深く雨で視界が悪かったと答えたが、おそらくほんの一瞬の居眠りだろうと思う。事故と検査通院のために休む連絡を学校へ取り終わると、警察官が最寄り駅まで送ってくれた。妻に連絡を入れ、とりあえず無事で大丈夫だと伝えた。危うく新婚二週間で未亡人にするところだった。早々に帰宅すると妻はまだ寝ていた。大丈夫って言ってたからと、こうだから救われる。大ごとだったことを打ち明けるとそこで初めて目を覚まし、急に心配しだした。

その後、検査も異常なく怪我ひとつなく、けれど『訓戒』という不名誉な懲罰を静岡県から頂いて、松下校長にも迷惑をかけてしまった。レッカー車で運ばれた先の自動車整備工場へ出向き、トゥインゴに対面。無残にも半分が潰れて捨て置かれている。どうやっても廃車だという。帰宅してそのことを伝えた時、僕は涙が止まらなくなった。14000km分の沢山の思い出が蘇った。ますます涙が溢れた。無事だっただけで良いと、まるで母親に慰めてもらっている子供。

こうして、ルノートゥインゴという僕の初めての愛車は、突然の別れを迎えることとなった。

#交通事故 #正面衝突 #幽霊と間違えられる #愛車との別れ



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