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道の真ん中で
暇な日曜日の昼間に、何するでなく田舎の住宅街で自転車をふらふらと漕いでいたら、お婆さんが十字路の中心に立っているのが見えた。そのお婆さんは黒いコートを着て寒そうに杖をついて立っていた。やや困った顔をしていたものだから、いくら僕でも放ってはおけない。
彼女が言うにはいつものうどん屋さんに行って、その帰り道に頭がぼやけて自分の家が分からなくなったようだった。けれど自分の家の住所は番地まできちんと覚えていた。スマホでその住所を調べたところその十字路から直ぐ近くだったから、彼女の家まで僕らはゆっくりと歩いて行くことにした。
彼女は歩きながら僕に向かって、情けないわね、情けないわね、と繰り返した。自分の家の近所で道に迷うことが恥ずかしいことだと思っているのだ。困った時は誰かに頼ってみたらどうかと僕は提案した。彼女はその事について少し考えてから、何かを決意したように、そうね、頼る事にも慣れていかないといけないわね、と言った。
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