第1話 大根レンジャー・切り干し大根

あらすじ

ごく普通の小学生タカシと乾物戦隊・干すんジャーが環境問題に挑む物語。タカシは、不思議な大根老師と出会い、ビジネス重視のムダラス博士が引き起こす食品の無駄遣いと自然破壊の現場を目の当たりにし、衝撃を受けます。フードロスを減らし、持続可能な未来への道を探求する中で、彼らはムダラスの野望を阻止する決意を固めます。この物語は、日本の伝統文化「かんぶつ」とその現代的な利用が、いかに地球の未来に貢献するかを描き出し、自らの行動で地球は守れるという重要な気づきと希望を与えます。家族全員で共感し、楽しめる内容が展開されます。物語に登場する乾物をテーマにした料理レシピは災害への備えとしても活用できます。

第1話・大根レンジャー・切り干し大根

僕はタカシ。普通の小学5年生だ。

最近、学校で、持続可能な世界のことを勉強した。
地球温暖化とか、貧困とか、戦争とか、この世界にはたくさんの問題があるらしい。
「地球と環境のために、自分に今すぐできることを考えてみよう」って先生はみんなに話してくれた。でも、あまりにも話が大きすぎて、できることなんて思いつかなかった。
とりあえず宿題のレポートには、電気をこまめに消す、って書いて出した。先生は花丸をくれたけど、僕の毎日は何も変わっていない。相変わらず、ゲームとYouTubeで電気を使って楽しんでいる。

けど、どこかで心に引っかかっている。
このままでいいのかな。
僕にも何か、できることってないのかな、って。

まあ、そんなことを考えてもすぐに思いつくわけもなく、今日も相変わらず平和な日だ。
きっと、数日後には持続可能な世界のために、なんて、すっかり忘れていただろう。

夕方、あの大根畑の横を歩かなかったら、きっと。

母さんに言われて牛乳を買いに行ったのは、寒くなってきた11月の夕方だった。
一番近くのコンビニまで、歩いて15分かかる。YouTubeがいいところだったから本当は嫌だったけど、おつかいに行かなかったら母さんの機嫌が悪くなる。長期的に考えたら、さっさと買い物に行った方がいいと判断した。

コンビニの冷蔵棚からいつもの牛乳を取り出してレジに並ぶ。
お店の中はライトが明るく点っていて、壁一面、冷蔵庫。
世界はたくさんの電気を必要としていて、みんな、じゃんじゃん使っているんだから、僕1人が節電したって、やっぱり意味ないんじゃないかな。
そう思いながら、電子マネーで決済した。お店の人の「ありがとうございました〜」の声はまるで機械のようだ。

エコバッグに牛乳を入れて家に向かう。
来る時は大通りを歩いてきたけど、帰りは畑の中の細い道を通り抜けていくことにした。少しだけ近道になるからだ。
早く帰って動画の続きを見よう、そう思って早足で歩く僕の目に、違和感のある光景が入ってきた。

遠くで数人の男の人が、大きな大根を大量に畑に埋めているのが見える。
大根はツヤツヤしていて、とても悪くなっているようには見えない。
指示を出している人は科学者のような格好をしていて、周りの作業員たちに指示を出している。作業員たちは変なマスクをつけて、黙々と大根を畑に捨てている!
なんで捨てているんだ!?もったいない!!

僕は思わず駆け寄って「ちょっと!どうしてこんなことしてるんだよ!」と言った。
すると、科学者風の男がこちらをゆっくりと振り向いて僕を見た。
メガネの奥の目はギラギラと輝いていて、僕は、声をかけてしまったことを後悔した。

「ははは!これがビジネスだ、少年!もっと大量に作れば、それだけ利益も大きいのだ!」
「でも、こんなにたくさん捨ててたら、作る意味がないじゃないか!それにもったいない!」

僕の言葉を聞いて、科学者男はもっと胸を張って、こう言ったんだ。
「ふん、わかってないな。たくさん作れば作るほど、見栄えのいいものだけを選んで売れる。見栄えの悪いものは捨ててしまえばいいのさ。そうすればお店には常にきれいな野菜だけが並ぶんだよ。それこそがビジネス!人が求めるものを作って高く売るのだ!!」

大人たちのやり方が全部間違ってるとは思わない。でも、この光景を見ていると、何かが違うって感じるんだ。
僕はなんとかして大人たちを止めようとした。けど、僕はただの小学生。手下たちに追い払われてしまった。

「くそ…僕には何もできないのか…。」
打ちひしがれる僕。男と手下たちが去っていくのを、見守るしかなかった。

「若き勇者よ、大根はただ捨てられる運命ではない。我々はもっと長く、もっと価値を持って生きられるのだ。」
「うわあっ!」急に耳元でおじいちゃんのような声がしたから僕は飛び上がった。
見ると、そこには紺色の作務衣を身にまとった、大根みたいな顔をした人が立っていた。

「私の名前は、大根老師。勇者よ、君に、乾物の力と持続可能な未来について教えてあげよう。」

僕は牛乳のことが気になった。冷蔵庫に入れないと腐らせちゃうんじゃないかな?
けれど、スタスタと歩いていく大根に興味があった。なんか、転生アニメみたいじゃね?
いざとなったら走って逃げよう。走るスピードには自信がある。

大根老師は、畑の中にポツンと立つ、ぼろ小屋の前まで来て立ち止まった。
ドアをノックすると、中から「はーい」と返事がして、ガチャリとドアが開いた。
なんか変なのが出てきたらすぐ逃げよう。
身構える僕の目に飛び込んできたのは、ピンピンの大根だった。

「・・え?」
作務衣もきていない、真っ白な大根。
僕と同じくらいの背の高さの大きな大根。
手と足が生えている。

アンパンマンで、こういうキャラ見たことある。長ネギのやつ。
あまりにも現実離れしていたから僕はイマイチピンと来なかった。

「大根老師、おかえりなさい!」
「うむ、大根よ、ついに見つけたぞ、この世界を救う勇者を。」

大根同士が会話してる。どういう光景なんだ。
「おお、この少年が勇者なのですね!これで地球の食糧危機を救える!」若い(?)大根がそう言った。

「僕が勇者?どういう設定なんですかこれ」いまいち現実味がないままに僕は聞いた。そもそも大根がしゃべる設定についてはいまだにピンときていない。

「その者、秋の夕日に照らされて、廃棄される野菜を救うべし。」
大根老師が急に芝居がかった口調でそう語り出す。
「さっきお主は、大根を捨てている大人に向かって勇気を出して間違っていると言ってくれた。まさに伝承の通り。そなたこそ、世界を救う勇者じゃ。」
大根老師はボロボロ泣いている。なんかわかんないけどウケるくらいに泣いてる。
「この国には、昔から受け継がれてきた食品保存の伝統がある。わしらはその中の1つ、切り干し大根族じゃ。今から見せよう、伝統の食品保存の技を!世界を救う、勇者の剣を!!
さあ、大根よ、変身してみせい!」

いやまじで何言ってるかわからん。
けど、大根たちは大真面目だ。相変わらず号泣しながら大根老師は大根を指さす。
若い大根は真剣な表情でうなづくと、仮○ライダーのような変身モーションをはじめた。
「変〜身、とう!!」

その瞬間、まばゆい光に僕は目を閉じた。
一瞬の時間の中で、走馬灯のように、僕は人間の歴史を見た。

初めてマンモスをとった日、初めて稲を収穫した日、たくさんの人たちが嬉しそうに笑っている。
そして、飢饉の様子・・・。痩せ細った人が、正気のない顔で座っている。子供が泣いている。
人が辿ってきた食べ物の歴史を映画のように見ながら、豊かでいろんな食べ物がある現代のレストランの様子が見えた。そして、工場のような場所でたくさんの食品が廃棄されている映像が見えた。さっきの科学者のように、無表情のマスク姿の人が食べ物を捨てている・・・。

光が収まると映像も見えなくなった。
目を開けると、そこには、驚くべきものがあった。

ヒョロヒョロでガリガリになった大根が、フラフラしながら立っていた。

「えええ〜〜〜っ!!」僕がびっくりして叫ぶと、大根老師は満足そうにうなづきながら言った。
「うむ、これこそが、世界を救う乾物ヒーロー、干すんジャーの姿。
勇者殿、この切り干しレンジャーを連れていってくだされ。きっと、フードロス削減や環境保護のお役に立つじゃろうて。」

いやいやいや!さっきの大根の方がまだ強そうだったよ!?
変身後、めちゃめちゃガリガリでフラフラじゃん!

あわあわしている僕を見て、元・大根、現・ヒョロガリ大根はこう言った。
「見た目で判断しちゃダメさ。僕たち乾物の力を信じてみなよ!」

こういう者です、と、ヒョロガリ大根は僕に名刺のようなものを渡してきた。

乾物名「切り干し大根」:切り干しレンジャー
解説:大根を切って天日で干したもの。水分が抜けて栄養素がギュッと詰まりました。生でも食べられるのでサラダにも使えます。
パラメーター表記「切り干し大根と油揚げの煮物」:カルシウム106、鉄1.7、カリウム400、食物繊維2.7

乾物読本 著・星名桂治 日本かんぶつ協会

なにこれ。

唖然としている僕に、「切り干しレンジャー」は言う。
「この世界には、乾物という食品ジャンルがある。日本人はたくさんの乾物を料理に使ってきた。それは、食べ物を捨てないための技術だったんだ。今、この世界は危機的状況にある。今こそ、食べものを大切に、みんなで分け合うために、伝統を復活させ、地球を救うチャンスなんだ。勇者よ、どうか、僕を連れて行ってください。きっとあなたのお役に立ちます!」

いや、フラフラだよ。

「勇者殿、我らの一族は、あなた様を待っていた。どうか、世界の危機を救ってくだされ。」相変わらず泣きながら大根老師は言う。

いや、意味わからん。

=====

学校で習った世界の危機。
持続可能な世界のために、何ができるだろうか。

そう考えていた僕に訪れた、出会い。

世界を救う僕の旅が、今、始まってたまるか〜!!

【続く】

第2話以降のリンク

第2話 切り干し大根の煮物で必殺技、発動!

第3話・旨味を追加だ!シイタケンと森の仲間たち

第4話・森の危機!乾物ヒーロー反撃だ!

第5話 お堅いぜ!海のヒーロー昆布マスター

この後のお話も執筆中!
ぜひスキ&フォローしてね!


おいしいコーヒーを飲みながら執筆がんばります!コーヒー代のサポートよろしくお願いいたします☕️