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『米国緩和ケア医に学ぶ医療コミュニケーションの極意』

家庭医ギータです。note3日目にしてようやく本業の「緩和ケア」ネタです。

緩和ケアに関わらず、患者さんとコミュニケーションをとる全ての医師にとっての必読書です。

ギータは毎日のようにこの本を開いています(毎日ではありません)。

1) なぜこの本を選んだのか?

緩和ケアが中心の仕事に就いてから、すぐに気づくことがありました。

「緩和ケアを学ぶことを、コミュニケーションを学ぶこと」

ということです(当たり前かもしれません)。

緩和ケアと聞いてイメージするのは、
モルヒネなど医療用麻薬の使い方や看取りの光景かもしれませんが、
1日のエネルギーのほとんどは、
患者さんや患者さんの家族とのコミュニケーション
に使っているのです。

この本には緩和ケア(≒コミュニケーション)を学ぼうとする医師が知っておくべき技術、考え方がギッシリ詰まっています。

2) どんな人が書いている?

米国の3人の緩和ケア医によって書かれた医療コミュニケーションの本です。緩和ケアなので、必然的に重病患者を対象としてコミュニケーションを扱っています。

著者の1人であるAnthony Back医師は
米国では高名な緩和ケア医です(腫瘍内科医でもある)。

TEDで話す姿をみると、その声に聞き惚れます。
字幕なしでも英語が聴き取りやすいです。ぜひご視聴ください。

見るからに徳が高そうですね。
こういうお医者さん、日本にはあまりいませんね……。

この先生たちが始めたVital Talkというトレーニングコースの日本版が定期的に開催されています(ギータも6月に受講する予定です)。

こちらがバイタルトーク日本版の説明文です。

重い病の告知をする時、泣き崩れる家族に説明する時、
効果が見込めない治療を望む患者に対峙する時、
そんな試練に向き合うためのコミュニケーショントレーニングです。

3) どんな内容の本?

では、この本の第1章の目次を示します。

第1章 あなたの技術を次の段階へ
  ●試練
  ●よりよいコミュニケーションは本当に役に立つのか
  ●本当にコミュニケーションを学ぶことができるのか
  ●よいコミュニケーションはどのように役に立つのか
  ●私たちの考え
  ●大事な原則のロードマップ
  ●感情について一言
  ●この本の使い方

第2章からのタイトルをみると、
この本が実際の臨床の流れに沿って構成されていることがわかります。

第2章 幸先のよいスタートを切る
第3章 悪い知らせについて話し合う
第4章 治療の選択について話し合う
第5章 予後について話し合う
第6章 フォローアップでのありふれた会話のなかで
第7章 家族ミーティングを行う
第8章 意見の対立に対処する
第9章 終末期医療への移行
第10章 死について話し合う
第11章 あなたの技術をさらなる高みへ

4) ギータ的なオススメポイントは?

こうした本にありがちなのは、

「崇高な概念を示してくれている(気はする)けど、明日から実際の現場でどう使えばいいかわからない」

ということです。

が、この本は違います。
「まずこの順番でやってみなさい」と道を示してくれているのです。

例えば第1章は次の通り。

●大事な原則のロードマップ
1. いつも患者さんの議題(agenda)から始める
2. 患者さんから得られる感情データ(emotion data)と認知データ(cognitive data)の双方に注意を払う
3. 患者さんとともに、一歩一歩確実に話を進めていく
4. 共感を明確に言葉にして伝える
5. 患者さんに対して何が「できないのか」を話し始める前に、何が「できるのか」について話す
- 患者さんのために何かしようとしているという姿勢を示すことが必要
6. 個々の医学的な介入について説明する前に、まずは大きな目標の全体像を話す
- 医学的介入についての詳細を説明する前に、あなたの考えているゴールと患者さんのそれを一致させる
7. 少なくとも一度は、あなたの完全で献身的な注意を患者さんに対して向ける

こうした「ロードマップ」が全ての章で示されています。
読み始めて、「これから自分にもできるかも」と思いました
(もちろん、そんなに簡単にいきませんでした)。

4) そもそもコミュニケーションは学べるのか?

厄介なことに、私を含め、緩和ケアを学ぼうとやってくる医師はどちらかというとコミュニケーションに自信を持っていることが多い気がします。

自信をもっていても、実際には患者さんに対して早口だったり、圧迫感を与えていたりします(自分のことです)。
同僚の医師にフィードバックをもらったり、面談の際の自らの映像をみたりするとそのことにイヤでも気づかされます。

そこで大事になるのがアンラーン(unlearn)です。
(↓こちらの説明が最もしっくりきました)

こちらも言うほど簡単ではありません……。

5) 著者たちからのメッセージ

「はじめに」の一部を紹介します。

最後に、コミュニケーション能力を上達させようとしているあなたを私たちは祝福したいと思います。というのも、何事も初めの一歩を踏み出すことがもっとも困難なものですが、あなたはこの本を手に取った事によって、その第一歩を踏み出したのですから。(p4)

緩和ケアでの修業と、note連載を始めたばかりの自分を応援してくれているように感じられるメッセージです。

コミュニケーションの訓練は死ぬまで続きます。


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