平岡奏

クラシックギタリスト /ウィーン国立音楽大学 mdw Konzertfach

平岡奏

クラシックギタリスト /ウィーン国立音楽大学 mdw Konzertfach

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苦難を乗り越え、星々へ

日頃出不精である私でさえ、春という季節は外に、それもできれば見知らぬ地に赴きたくなる。 この日はある現代音楽のコンサートを聴きに、ウィーンより西方に位置する街クレムス・アンデアドナウ(Krems an der Donau)に向かうことにした。レイルジェットで片道1時間20分。思いつきで行く距離ではないが、どうにもこの頃、日に日に柔らかくなる陽光と花の香りのせいで、逍遥への願望がいよいよ抑えきれなくなっていた事もあり、山ほどの課題や練習を途中で放り出し、夕刻前に家を出た。

    • 祖父と私

      クリスマスの翌日、久方ぶりに祖父の夢を見た。 夢というのは不思議なもので、目が覚めてしまえば、具体的な内容は次第に輪郭がぼやけ、ほとんどを忘れてしまう。ただいつもの椅子に深く腰掛ける祖父と、並んでたわいもない話をしていた。目が覚めてからも妙に落ち着かず、しばらくコーヒーを淹れながら祖父について思考を巡らせた。 祖父は小柄な人だ。 口調は優しく、ゆっくりで丁寧。発言の前には独特な間がある。 誰に対しても低姿勢な態度で接し、物腰は常に柔らかい。私は幼少の頃から祖父と言葉を交わす

    苦難を乗り越え、星々へ