イラク滞在記 2024.4.8「子は鎹(かすがい)」

イラク滞在記 2024.4.8
今日は朝から、類家さんとランディさんと共に難民キャンプへ赴き、絵本の読み聞かせと演劇ワークショップを行った。
大学時代に、さまざまな応用演劇のWSを企画をプランニングをしていたが、まさか初の実践の地がイラクとは。
 今回伺ったのは、シリアから逃れてきたクルド系シリア人が多く住んでいるキャンプで、PCPも、初めて赴くキャンプだ。
 2011年のシリア内戦の年から開設されたこのキャンプは、難民キャンプ特有のテントやコンテナなどの建物ではなく、コンクリート壁で出来た家屋が並んでおり、彼らが祖国に戻ることの難しさを建物から感じ取れた。

 まず初めに、キャンプのマネージャーに挨拶をしにいって、PCP側のコーディネーターとマネージャーとの会話の中で、日本語で「難しい」を意味する言葉が多発し、まさか今日のワークショップの事を話しているのではないかと類家さんの顔が張りつめていたが、彼らが話していたのは肥えた身体のダイエットの話だったらしく、(なぜその話題になったのかは分からないが)問題なくキャンプ内に入ることが出来た。

 車で進むこと5分くらいすると、小学校の建物にたどり着いた。早速中に入り、校長先生に挨拶。この小学校には1800名ほどの子どもたちが在席しているらしく、その規模感に驚かされた。校長との挨拶を済ませたあとは、ぞろぞろと、外に集まってくる子どもたち。クルド語を話す子もいればアラビア語を話す子どももいて、この地の多様性を改めて感じる。

 僕たちがアジア人だからだろうか、彼らは僕らに興味津々で、早速、屋根のある広場に移動しワークショップをスタートした。
 初めに軽く自己紹介を行った後、Name with Actionという自分の名前を発しながら自分のオリジナルポーズを一緒に出すという、応用演劇では度々アイスブレークとして用いられているワークを行った。ここのキャンプの子どもたちは、皆リラックスしており、初めから伸び伸び参加してくれたので、とても助かった。
 その後に「見えないロープで長縄跳び」というワークを行った。その名の通りだが、僕と類家さんとで、ロープを持っているパントマイムを行った後に、長縄を回すモーションに合わせて、子どもたちに見えない縄を跳んでもらうというワークだ。
 説明しているうちは、困惑顔の子どもたちもランディさんがお手本を見せたら、すぐに理解したらしく、みな見えないロープで縄跳びをしてくれた。前提として、本物の長縄を使っての縄跳びすら、彼らは体験したことが無いのかもしれない。聞いてみればよかったと後悔。

 僕たちと子どもたちとのアイスブレークが終わったのち、教室に入り読み聞かせを始めた。菜穂子さんからのアドバイス通り、集中して読み聞かせを聴いてもらうために、初めに一分の瞑想タイムをいれ、その後ランディさんに「モンちゃん、サバンナへ行く」を子どもたちに読んであげた。

その後、教室の外にスタンバイしていた類家さんが動物のお面を被り、動物の動きをしているのをドアの間から子どもたちに見せた瞬間、子どもたちは大盛り上がり!
 『だれか動物になってしまった彼を助けに行かなくては!』
 『だれか助けにいってくれる人!』
と尋ねるとクラスの全員が手を挙げた。クラスの中から一人ずつ児童を選び、子どもたちに教室の外へ助けに行ってもらうのだが、その子どももお面を被らせられ、「ミイラ取りがミイラなる」状態に。
そうして五人ほど見事ミイラ(アニマル)にしたのち、教室に類家さんとともに動物になった子どもたちを戻してあげた。その後クラスのみんなにお面を配り、みんなアニマルになった後、再び広場にアニマルとして向かう。

 こういうワークが珍しいからなのか、広場に到着すると、さっきまで教室に居なかった子どもたちまでもが参加しており、カオスな状態になっていた。
 最後のワークは僕がオリジナルとして考えた、動物マーチだ。川エリア、焚き木エリア、Eatingエリアと三つ広場に作り、そこを動物として行進しながら、それぞれのエリアで動物になりきって貰うというワークだ。
 元のプランでは、5人ずつチームを分けて行進してもらうつもりだったが、統率するのが難しいと分かり、全員でLet’s goをすることに。
 それでもみんな大盛り上がりで動物になりきって、イマジナリーの川で泳いだり、焚き木を暑がったり、Eating エリアでは、ご飯を食べたり、ほかの子たちを食べるために襲う演技をする子がいたりと意図していた通り素直にワークに参加してくれて嬉しかった。
 以上でワークが終了し、本当であればブックドネーションという寄付によって購入された本を子どもたちに配る予定だったのだが、途中でジョインしてきた子どもたちも居たせいで、持ってきた絵本より全然子どもたちの数が多くなってしまった。この状況で絵本を配っても貰える子貰えない子と不平等が生まれることを危惧した類家さんはブックドネーションは今回は諦めるという決断に。
 そしてみなと写真撮影をしお別れの挨拶をするのだが、みんなお別れが惜しいのか、ずっと僕たちの身から離れない。しかも8~9歳ぐらいの子どもにもかかわらずスマートフォンで、いっしょに写真を撮ろうと、ねだってきて、学校の規定は分からないものの、みんな写真を撮り終え、無事、オフィスに帰宅。
 とても疲れたが、本当に経験することが出来て、嬉しかった。

帰宅後は、今回のワークのルックバックを行い、改善点や他のキャンプの子供たちとの違いなども語り合った。

 動物マーチのワークに関しては、作ったエリアが川のエリア、焚き木のエリア、Eatingエリアと3エリアを作ったが、僕たちがいるドホークなどでは絵本などがないため情報源が少なく、子どもたちにとっての共通のコンテクスト(文脈)が日本に比べとても少ない。火山や氷河、春夏秋冬などの季節さえも、地域によっては共通のコンテクストとして把握されていないことがあるため、あまり川や焚き木などのイメージが子供たちとっては想像しづらいことが分かった。

そのため次やる時は、Eating area, Fighting area, sleeping area,など出来る限り動詞を使った方が、こういった地域だと子供たちが取り組みやすいと思った。
加えて他のキャンプとの子供たちの様子の違いについては、類家さん曰く、トルコアディアマンでの震災が起きた地域のキャンプの子供たちが、とくにファシリテーターなどのを自分のものに独占したがる傾向があったらしく、
その子供たちは早いうちに親を何かしらの理由(死別や捨て子など)で失っており、愛情不足が影響していると菜穂子さんが教えてくれた。複雑な思いになる。

最後に今日のワークショップを振り返って、月並みな言葉かもしれないが、本当に子どもたちの笑顔ほど尊いものは無いと感じた。
 今日のワークショップをやるまでうまくいくか不安だったが、子どもたちの楽しそうな笑顔を見ることが出来て本当に嬉しかった。加えて、子どもたちが楽しそうにワークを行っていると、やっぱりそこに居る先生方も僕たちに好意的になってくれて、それも凄く嬉しかった。

 「子は鎹(かすがい)」は、子供への愛情から夫婦の仲がなごやかになり、縁がつなぎ保たれることのたとえだが、近頃になって、子は世界の人々の鎹になってくれる唯一の共通項な気がしてきた。イラクに渡航する途中にも、沢山の子どもとすれ違ったのだが、子どもと目が合うと微笑み返してしまうのが、人間の性なのか、僕を含め僕の周りの外国の方達も幼児や赤子を見ると微笑んでいるのを見て、子どもの存在が大人に与えてくれる影響というものをしみじみ感じた。もちろん、楽観的で理想的な幻想かもしれない。でもそう信じたいと改めて思った。


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