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好きのカタチ(モノローグ)

※ 男の嫉妬と、女の衝動について。

ーー 室内。足の爪を切っている。

 そうねー。諏訪湖も悪くないねー。

 ううん、行ったことない。

 へえ、特急?

 あ、そうなんだー。

 電車好きだよ。お弁当買って、酎ハイ飲んで。それで窓の外見ながらさー、こんな風にケンジさんにもたれかかって、いつの間にか酔っ払って寝ちゃうの。ふふ。ゴミ箱取って。

ーー ゴミ箱を受け取る。ゴミ箱に切った爪を捨てる。

 切ってあげようか?ほら、手出して。(手を握って、)優しい手してる。私の手よりすべすべだよ。ふふ。

 うん、好きー。

ーー ケンジの爪を切ってやる。

 え?ほんとに好きだよ。好きじゃなきゃ、好きって言わないよ。だから、ケンジさんのこと好きじゃなかった時は、好きって言わなかったでしょ?……そんな顔しないでよ。今はちゃんと好きだって。ほら、反対の手。

 別れないよ、シンイチともテツとも。前にも言ったでしょ。ケンジさんとは別だもん。

 わかるようにって言われてもなー。シンイチは、ほら仕事でもパートナーだし、尊敬してるの。テツは、カラダの相性。ケンジさんは……うーん、明確にこれっていうのはないけど、一緒に居て安心できるっていうかー。心地よい時間を一緒に過ごせる人。だから、旅行誘ってくれたの、とっても嬉しいよ。どうしたの?

 私だって悲しいよ。だって、どれも好きは好きに違いないもん。

 順番とかないよー。私の気持ちに勝手に優劣つけてるのはケンジさんの方だよ。私はぜんぶ大事にしたいよ。切り終わったよ。

 わかんなくはないけどさー。考え方によってはケンジさんは特別だよ。だって、ほらさー、シンイチの知性もテツの体力もいずれは衰えていくけど、ケンジさんは存在そのものが愛おしいから。そう考えたら最強じゃない?

 じゃあ、どういうこと?

 だって今の私には全部必要なんだもん。

 番号がつけばいいの?それって、出席番号とか会員番号以上の意味はないよ。ちなみに、ケンジさんは出席番号なら2番で、会員登録は付き合った順だとすると……とにかく、なんの意味もない!

 私も好きだよ。さっきから言ってるじゃん!

 行動で?一緒に居てこうやって触れ合ってるじゃん?

 他の男にはしないこと?うーん。

ーー 間。

 わかった。じゃあ私、ケンジさんの爪食べる。

ーー 切ったケンジの爪を拾い、愛おしそうに眺める。一つずつ味わう。
ーー ケンジを見る。

 どう?ケンジさんの一部が私の一部になったよ。

ーー 間。

 そっか、今気づいた!私のケンジさんに対する好きは、食べちゃいたいって衝動だったんだ!上手なセックスで満たして欲しいとか、巧みな言葉で口説いて落として欲しいとか、そういう受け身じゃなくて、私のうちから湧き出る欲望。ケンジさんを私の一部にしたい。
 知ってる?カマキリの雌は、交尾中に雄を食べちゃうの。きっと本能なのね。あー、その顔!ケンジさん、美味しそう。ちょっと待っててね。

ーー 一度ハケて、ケチャップを持って戻ってくる。
ーー ケンジの体にケチャップを塗りたくり、むしゃぶりつく。

ーー 終 ーー

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