いわゆるAV出演被害防止・救済法に関する整理、疑問点について

つい先頃交付された、AV新法ですが、条文を確認したところ疑問点等が浮かびましたので、整理を行ってみました。1条文解釈、2疑問点、3脱法的行為として想定されるの物という流れで書いていきたいと思います。解釈間違い等ありましたらご指摘いただけると幸いです。

法律の全文をお読みになりたい方はこちらご確認ください。



参考:第208回国会 内閣委員会 第26号


1 条文から読み取れること

まとめますと、以下のようになります。

・本法は性行為等の動画に対して規定している。

・出演者の年齢、性別は問わない。

・作品毎に個別の契約を行わなければいけない。

・契約時に製作者に瑕疵がある場合、該当項目は無効となる。瑕疵がない場合であっても、販売開始から1年以内であれば、出演者は無制限かつ任意に契約を解除することができ、当該製品の回収を業者に求めることができる。

(※内閣委員会で、契約解除の際の出演料返金は想定されていますが、製作費の返金について言及がないのが気にかかります)

・作品の公表は契約締結から5か月経過してからでなくては行えず、契約の解除は同様に出演者の任意で行える。

・プロバイダは、動画の削除要請に対し特例として素早く対応すること。

・国自治体は、相談窓口を設けること。

・2年以内に法律の見直しを行うこと。

続きまして、個人的に気になった条文をピックアップします。
二条「この法律において「性行為」とは、性交若しくは性交類似行為又は他人が人の露出された性 器等(性器又は肛 こう 門 ) を触る行為若しくは人が自己若しくは他人 の露出された性器等を触る行為をいう。」

→2条1項で本法律は性行為、性行為類似行為(手淫、口淫等)及び露出された自己または他者の性器に触ると定義されています。なので性器を露出するだけのヌードビデオや性器を露出させないイメージビデオ(着エロ)等は対象外である事が読み取れます。

いくつか例を挙げますと

1.女性を圧縮袋に入れるAVはセーフ、そこからアダルトグッズで触る場合、圧縮袋が透けていると対象だけど透けてなければ対象外。

2.裸体の人間(男性女性)の性器の動画撮影は対象外だけど、アダルトグッズの使用は対象。性器に息を吹きかける行為やエアーブロワーの使用は微妙かと思います。

※参考ですがリベンジポルノ防止法には規定があります。

「この法律において「性行為映像制作物」とは、性行為に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれ に係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するものをいう。」

→2条2項より、本法律は映像が対象であり、写真等は対象外です。

第七条「出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影は、当該出演者が出演契約書等の交付若しく は提供を受けた日又は説明書面等の交付若しくは提供を受けた日のいずれか遅い日から一月を経過した後でなければ、行ってはならない。」

→契約から1月経過しないと撮影はできません。

2 出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影において、出演者は、出演契約において定められている性行為に係る姿態の撮影であっても、その全部又は一部を拒絶することができる。これによって制作公表者又は第三者に損害が生じたときであっても、当該出演者は、その賠償の責任を負わない。

→撮影のドタキャン含め、契約内容のキャンセルをノーペナルティで行える


3 出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影に当たっては、出演者の健康の保護(生殖機能の保護を 含む。)その他の安全及び衛生並びに出演者が性行為に係る姿態の撮影を拒絶することができるようにす ることその他その債務の履行の任意性が確保されるよう、特に配慮して必要な措置を講じなければならな
い。

→製作者は出演者に配慮すること


4 いかなる名称によるかを問わず、出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影に密接に関連する出演者の撮影(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(平成二十六年法律第百二十六号) 第二条第一項各号のいずれかに掲げる人の姿態の撮影に限る。)は、出演者の性行為映像制作物への出演 に係る撮影とみなして前三項の規定を適用する。この場合において、前二項中「性行為に係る姿態」とあ るのは、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律第二条第一項各号のいずれかに掲げ る人の姿態」とする。

→カメラテスト等いかなる呼び名でも、本番前にリベンジポルノ防止法に該当する撮影は禁止。水着でのインタビューも該当する可能性があります。

第九条
「性行為映像制作物の公表は、当該性行為映像制作物に係る全ての撮影が終了した日から四月 を経過した後でなければ、行ってはならない。」

→撮影終了後、4月経過しないと公表ができない。

第十条「性行為映像制作物を特定しないで、出演者に契約の相手方その他の者が指定する性行為映像 制作物への出演をする義務を課す契約の条項は、無効とする。」

2次に掲げる出演契約の条項は、無効とする。 
「二制作公表者の債務不履行により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を免除 一出演者の債務不履行について損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項 し、又は制作公表者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与する条項」
「 三制作公表者の債務の履行に際してされたその制作公表者の不法行為により出演者に生じた損害 決定する権限を付与する条項 を賠償する責任の全部若しくは一部を免除し、又は制作公表者にその責任の有無若しくは限度を決定する条項」
「四出演者の権利を制限し又はその義務を加重する条項であって、民法第一条第二項に規定する基 本原則に反して出演者の利益を一方的に害するものと認められるもの 」

→長いですが、出演者に不利であったり誤解させるような契約は無効だよと。

一三条「出演者は、任意に、書面又は電磁的記録により、その出演者の性行為映像制作物への出演契約の申込みの撤回又は当該出演契約の解除することができる」

→出演者は(販売後1年以内なら)任意に契約を解除できる。これは、出演料の即時返金ができない場合であっても、即契約解除を行えるよう加えられたとのことです。返金プラン等については自治体等が設置予定の相談窓口での対応を想定しているとのことです。

第十四条「出演契約が解除されたときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。」

→制作会社は商品回収等の義務を負う。


2 疑問点について

・法第二条において、なぜヌード着エロ等のイメージビデオが対象外なっており、どの点で線引きが行われたのかが不明です。菅野美穂の写真集発売記者会見での涙とかは無かったことになっているのでしょうか。

また、これだけ製作者側の負担が重いと、信頼・実績がまだない新人に対しては、重要であるはずのデビュー作を、リスク低減のためイメージビデオにするという事が考えられます。そうすると本来女優が得られたはずの経済的利益を損なうことになるのではないしょうか。

・四条で作品ごとに契約が必要となると、単価が安く数をこなさねばならない男優の負担が大きくなるのではないでしょうか。

・七条、九条で契約の「最後」から5か月以上経過しないと公表できなっていますが、なぜこの日時設定なのかの根拠が不明です。撮影後、一般流通までの間に契約を破棄できることは素晴らしいと思いますが、5か月というのは業者の負担が重すぎるように感じます。

※クーリングオフが八日間なのは、どこかに必ず休日が入り、そこで熟考できるとの考え方によります。

・同じく、13条で作品の公表後の無制限契約解除期間が1年であることの根拠が不明です。業界団体で定める5年ルールとの調整の形跡が見受けられません。

※5年ルール:AVの販売期間を5年とし、以降は女優の申請により販売の中止等を行える。蒼井そら氏、森下くるみ氏が申請を行っています。FANZAで確認したところ、蒼井氏の作品は見つかりませんでしたが、森下氏の作品は何点かレンタル可能でした(R4.7.2時点)。

・このような業態は短期で高価な報酬が得られるというのがメリットの一つと思うのですが、このような法律があると、出演料の支払いが撮影後、販売後、一年後と段階的になることも想定され、この場合出演者の経済的利益を損なうことになるのではないでしょうか。

・契約の日付の証明はどのようになるのでしょうか。例えば、契約場面を撮影したとしても、出演者が契約日を捏造されたと申し出た場合、出演者に有利な判断が下されるのではないかという不信が拭えません。

・7条2項でノーペナでドタキャン可能ってのはおかしい話かと思います。上限10万円とか常識の範囲内で違約金を設定すべきではないかと思います。

・緊急性があるため、パブリックコメントの公募無し。議員立法なので不要ではあるのですが、「契約」という概念をひっくり返すような法律なのに、緊急性があるからといって、国民の意見を求めないのはおかしいのでしょうか。立法者がもっと早く取り組んでいれば、緊急性のある事態とはならなかったのではないでしょうか。

・適正AV参加業者へのヒアリングが行われていないように見受けられます。というよりも、ヒアリングの対象が偏りすぎているのではないかという疑念が拭えません。https://twitter.com/misatonakayama/status/1536953660160475136?s=21&t=6Mnwo3xCo7WpjiFTgs9GCw

・適正AVの倫理委員会であるAV人権倫理機構のヒアリングが1分と5分の計6分だけというのは短すぎるのではないでしょうか。https://twitter.com/yyyysinger/status/1542028511560765441?s=21&t=6Mnwo3xCo7WpjiFTgs9GCw


3 脱法的行為として想定される行為

やるつもりはないですし、実際にやれもしませんが、あまりにもザル過ぎるのではないかと感じたので、この法律の穴と思われる点をつついていきたいと思います。数字等は適当ですし、穴も有ると思いますがご了承ください。

また、当該行為を推奨する意図は一切有りません。

①(契約解除の際の損害金を含めて)出演料として高額(1千万円等)を女優に支払い、女優が製作スタッフを雇うという形態でAVの作成を行う。男優は5分前に恋に落ちたという設定にする。

→出演料を高額にすることで、契約の解除を難しくします。また、恋人同士の情事の撮影は本法の対象外と思われます。リベンジポルノ法で引っかかってくると思いますが、男優からの申出のリスクは低いかなと思います。

②契約の日付を過去に遡って記載する。

→そのまんまです。出演者の申出だけで証拠が無くても、ひっくり返る危険性は有りますが……

③海外鯖で禁版YouTubeを運営する

→視聴数(DL数)に応じて支払いをするという形態にすれば、契約解除による損害を抑えることが可能かと思います。撮影等に関しては、①と同様です。主体が女優に有れば、こちらの責任は薄くなるかと思います。

④海外で会社を設立して、留学生や現地の日本語学校の生徒をスカウトする。法律等の曖昧な状態を多くして時間を稼ぐ。

→ただ、これやられると日本の評判がクソほど悪くなると思われます。

⑤ツイッターで出演者に呼びかけ、実際のやり取りはtelegramで行う。撮影後、telegramの履歴は消去する。年齢確認、契約シーンを含めた動画を海外サーバにアップロードする。出演者が連絡取れないようにして時間を経過させる。

→タチが悪いですが、よほど悪質(児ポ法等)でなければ、警察もそこまで手が回らないのではないでしょうか。海外のサーバーに対しても本法の適用は不可能ではないとのことですが、どこまで削除に対応してくれるのか疑問です。


4 最後に

色々ごちゃごちゃと書いて有りますが、こんな検討の足りないザル法案を、ほぼ全会一致で通した国会議員に怒りを感じざるを得ない、ただそれだけです。

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