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兵書『孫子』ー君は戦争を知っているか(19)

 『孫子』第五「勢編」の4回目、まとめの部分です。

【本文書き下し】
 善く敵を動かす者は、之を形にすれば、敵必ず之に従ひ、之を予(そな)うれば、敵必ず之を取る。此れを以て之を動かし、卒を以て之を待つ。
 故に善く戦ふ者は、之を勢に求め、人を責めずして、之を用と為す。
 故に善く戦ふ者は、人を擇びて勢に与(くみ)せしむること有り。勢に与する者は、其の人を戦はすや、木石を転ずるがごとし。
 木石の性は、安ければ則ち静まり、危ふければ則ち動き、方なれば則ち止まり、円なれば則ち行く。
 故に善く戦ふ人の勢は、円石を千仭の山に転ずるがごときは、勢なり。

【本文語訳】
 上手く敵を動かす者は、これを形にすれば、敵は必ずこれに従い、これを備えれば、敵は必ずこれを取る。これでもってこれを動かし、軍隊でもってこれを待つ。
 したがって、よく戦う者は、これに「勢」を求め、人をとがめずに、これをそなえとする。
 このため、よく戦う者は、人を選んで、「勢」に加わらせることがある。「勢」に加わる者が、その、人を戦わせる様子は、木石を転がすようだ。
 木石の性質は、安全であれば静まり、危険であれば動き、四角であれば止まり、円ければ進む。
 だから、上手く戦う者の勢いは、丸い石を千仭の山で転がすようなのが、「勢」である。

☆評釈☆
 いくらか本文の乱れがあり、竹簡本でも一部残欠しているということで、全体にやや解釈しにくい。

 指示語を受ける言葉が、前の段落を見ても見当たらないので、錯簡があるかも知れない。つまり「之」が頻出するが、「之」が何か、明らかになっていない。「之」を章題の「勢」としたいところだが、「故に戦ふ者は、之を勢に求め」とあるので、「勢」とは考えられない。

 また、兵士たちは木石のように動く、と言いたいのだろうが、「勢」を説明するのに、木石の性質をも挙げたため、分かりにくくなっている。
 
 しかし、全体の文意は比較的平易で、簡単に言えば次のようになろう。

"戦いの中では、「勢」に加わる者を選んで、人を木石のように動かす。上手く戦うのは、丸い石を高い山から転がすような勢いをもつ者だ。"
 
 結局、上手く戦うにはアジテーションを行う者を選び、兵士たちを扇動せよ、と言いたいのだろう。
 ……戦争記録映画で、そういう扇動場面を見たような気がする。

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