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#12 雪が溶ける頃には

雪雪雪。外一面に雪が降り積もっている。たまに2日間ほど雪が降らなくて、通りの積雪も溶け始めたかなと思えば、その日の夜にはさんさんと雪が降ってまた地面を覆い隠してしまう。-10°が当たり前の世界からいよいよ出られなくなったみたい。日課にしていた朝の散歩も、最近は億劫でやめてしまった。

古いアール・ヌーヴォー建築の建物の4階にある私の寮は8人まで入居可能だけれど、半期のエラスムス生の子が期末テストを終えて母国に帰ったり、正規学生だけどクリスマスとニューイヤーは自分の家族と過ごすために一時帰国していたりで、今は5人だけだ(うちベトナム人の子は、英語が喋れず馴染めなかったので、今週末には家族がいるスペインに戻るそう。となると4人。とうとうアジア人が周りにいなくなる)。

幸いなことにお互い仲良く過ごしているので、今日は午後からみんなでスケートに行った後バーで飲もうかなどと話している。ただその前に私は来週に迫ったグループプレゼンテーションの自分のパートをある程度形にしておいた方が良さそうだ。授業はつまらないし、グループのメンバーも全然自分から動いてくれないので、嫌々ながら私がTeamsのグループチャットを作り、期限を土曜日までとした。まだ一度も返信してないVincent氏(ここで名前出したって身バレしないからいいだろう)は、当日もミュートを貫くおつもりだろうか。まあよかろう、どうでもいい。オンラインで一度も会ったことない人とグループプレゼンをやらせる教授も教授だから。

留学先の授業がつまらないので、日本の大学の方に「単位非参入でいいからオンラインでやっている授業に参加させて欲しい」と頼み込んだ。すると思ったより柔軟に対応してくれて、「取りたい授業の担当教員に連絡をして、許可をもらえれば」とのことだった。「国際人的資源管理1」という授業が前期取っていた授業の中で特に面白かったので、直接教授に「2も受講したい」と連絡をし、OKを貰ったことを学部の学術院に報告すると、次の日には大学の個人ページから授業の動画が視聴できるようになっていた。単位非参入なので、授業の内容はノートに取るもののリアぺや課題を提出する必要がない。案外いい方向に物事が進んで、最近の良かったことの一つだ。

窓辺によじ登って、下の大通りを見下ろす。私のベッドの脇にちょうど人ひとりが足を伸ばせるほどの窓辺があって、私はいつもそこで本を読んだり、コーヒーを飲んだりしている。夜にはLIDLで買ったサラミやらチーズやらを小皿に盛って、また本を読んだり、ネトフリを観たりする。昨日観始めたベネディクト・カンバーバッチのシャーロック・ホームズがとっても面白い。ベネディクトって15世紀のイングランド王・リチャード3世の血縁なんだ、マジか。sex edの次に見るものが決まったのと、シャーロックはシーズン4まであるのでしばらくこの世界観を楽しめるかと思うと嬉しい。なんかわかんないけど、クリスマスっぽいし。




いつも、日本に帰ったらどうするか悩んでいる。そのことを文字にしたいのだけど、まだあまりにもいろんなことが曖昧で、自分の中で整理できていなくて、文字にするには早すぎるみたい。一つ変化したことといえば、ホームシックがなくなり、今は日本に帰らなくていいな、と思えるようになったことだ。むしろ、来年の六月に帰国するのはちょっと早すぎるな、とまで思えるようになった。自分のペースで生活できる環境がやっと整ったから、より主観的に街を歩けるようになったのだろう。

でも、学生生活と仕事をする生活とではまた全く異なる。仕事をするとなった時、自分の言語レベルでこの地の人々が心から受け入れてくれるかというのはまた別問題だ。かといって日本で仕事をするときっと本当に忙しい。もっとずっと勉強をしたいのに。もっとたくさん時間が欲しいのに。仕事を始めたらあまり時間を割けなくなりそうな生活の楽しみがどんどん増えていく。日本に帰っても、就職しても、私が大学生のうちに見つけた楽しみにきちんと時間を割けるような生活を送れるだろうか。何か、大きな流れに逆らう必要があるのかもしれない。

ストックホルムのiittalaアウトレットで購入したお気に入りのキャンドルホルダーに、火を灯したキャンドルを置く。キャンドルホルダーは傘のような形をしていて、その傘に銀色の星が6つ、均等にぶら下がっている。火の光に照らされて6つの星がクルクルと回り始めると、それを眺めながら私はベッドに潜り込む。星の影を見つめていると、よく眠れたり、全く眠れなくなったりする。帰れても帰れなくても、関係ないのだ。自分の大学生活は、膨大に思える自由時間は、あと2年とちょっとで終わってしまう。雪が溶ける頃には、違う私だろうか。

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