ごみ箱に捨てる①

捨てる。
ごみを捨てる。
“ごみ”という、時代によっても個人の感覚によっても様態を変化させられる柔らかい言葉。

「外」に置くべきものと考えられたもの。
生活の、仕事の、感覚の、グループの、プライドの、外。
ある時描いてみた集合の外側にいたもの。
それを決める線はある日突然に現れたりもするし、徐々に形を変えて内側だった領域が外側になったりもする。


環境によってその線が変わる、捻じ曲げられる瞬間に立ち会うときに、吐きそうになる。

食品を売ることが仕事の人は、否が応でもその場面に出くわす。
商品に近しい、ただ売り物としての基準に達しないものを、何かの理由があって捨てることは珍しいことではない。だけれども、食品は特に、時間が過ぎただけで商品の外側になることがある。

完成品が、ごみになる瞬間というのは、作り手がなるたけ見たくない瞬間であることは間違いない。ただこればっかりはどうしようもなくて。
どうしようもないから、完成品であったはずのものを、無理やりごみとみなしてごみ箱に捨てる。

世界が決めた線と、自分が脳で認識している線の、二線の揺れに酔って吐きそうになる。

食品のバイトを、もうできなくなった理由がそれです。


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