【考察】楽園の子どもたち

※世長の親愛イベント1「創ちゃんと町ブラ昔話」のスチルに触れています(画像はありません)。
※最終公演のシシアの性別について一部ネタバレがあります(致命的なものはありません)。
※2021.8.8 ふせったー再録。
※2021.8.18 月の王について大幅に追記。


今回はジャックジャンヌの作中に繰り返し登場する、キリスト教のアダムとイブの楽園追放のモチーフに関しての考察です。
過去に秋公演の元ネタの一つになっているという記事を書きましたが、新人公演、最終公演にも同様のモチーフやテーマがあるようなので一つずつまとめていきます。
※参照 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb
まず、そもそものキリスト教の楽園追放の話が分からないと混乱すると思うので、大まかな内容を以下に記載しておきます。


(超要約)アダムとイブの楽園追放 旧約聖書:創世記より
※分かりやすくするために内容をものすごく簡略化しています。

神は土の塵で最初の人間の男――アダムを造り、命を吹き込んで、エデンの園(楽園)に住まわせた。
エデンの園には様々な木が生えており、神はアダムにそれらの実を食べて暮らすことを許した。
しかし、中央にある善悪の知識の木の果実(俗に言う禁断の果実、リンゴ)は決して食べてはならないとした。
その後、アダムには助け合う者が必要だとして、神は彼の肋骨から女――(後の)イブを造り出す。
出会った二人は夫婦となった。
こうして、アダムと共にエデンの園で暮らすようになったイブの前にある日、ヘビが現れて彼女に禁じられた善悪の知識の木の果実を食べるように唆す。
誘惑に負けたイブはその果実を食べ、一緒にいたアダムも同様に口にしてしまった。
二人は善悪を知るもの――神のように知恵を持つ者に変化する。
約束が破られたことを知った神は、唆したヘビと悔い改めない夫婦に罰を下す。
ヘビには地を這う呪いを、イブ(女)には妊娠出産の苦しみを、アダム(男)には労働の苦しみを与えた。
また、エデンの園の中央にあるもう一本の木――食べれば永遠の命を得る命の木の果実にもアダムとイブは手を出す恐れがあるとして二人を追放することとした。
エデンの園はその東に天使ケルビムときらめく炎の剣が置かれて閉ざされた。
これが楽園追放、人が生まれながらにして背負う罪――原罪の物語である。


さらに、本記事の考察では新人公演の掃除番はジャック(女装少年)、秋公演のシャルルはジャンヌ(男装少女)という前提で話が進みます。
この時点では??と思う方は詳しい解説及び論拠をまとめた過去考察の記事へのリンクを下記に載せますのでそちらをご覧ください。
単なるこじつけではなく、論拠があって述べていることです。
また、私は自分の考えを押しつけるつもりは全くありませんので、この時点で不快に感じた方はブラウザバックをお願いします。

(論拠)掃除番とシャルルの性別疑義について
【考察】根地黒門と掃除番とシャルル https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb
この他、秋公演はキリスト教以外の読み方も可能なことが判明していますが、そちらでもシャルルは女性として扱われています。
※参考 https://fusetter.com/tw/uG7BVgW8#all
(掲載許可ありがとうございます。
めちゃくちゃ面白くて丁寧な考察なので、今回の記事関係なく読んで欲しいです。)


では、本題に入ります。


①秋公演「メアリー・ジェーン」
秋公演の楽園追放へのあてはめは以下の通りです。
詳しい解説はかなり長くなるので、下記の過去考察をご覧ください。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb

アダム→フィガロ
イブ→シャルル(※男装少女)
ヘビ→シャルルの衣装に描かれた矢印
※ヘビは真っ直ぐなその形状から矢印で表現されることがあります。
ヘビが唆したのはイブの方なのでアダムにあたるフィガロの衣装には矢印がありません。
詳しくは以下の過去記事を参照してください。
1.https://note.com/snowblossom_jj/n/n4d4daadb2d37
2.https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb
禁断の果実→フィガロが持っていたリンゴ
※本来はシャルルのイブが持っている方が元ネタに近いが、双子は一緒に行動しているので持ち物を共有している可能性が高いです。
元々はシャルルがその辺の森から持ってきたリンゴ、なのかもしれません(野生児か?)。
また、この他に秋公演には複数の読み方が存在しており、フィガロは複数の役割を担っているのでリンゴを所持していたと考えられます(今回は長くなるため割愛)。

さて、この秋公演に使用されている楽園追放の元ネタの表現にはポイントがあります。
ヘビが矢印という形で表現されていることです。
この点に気付くと、新人公演、最終公演にも同じモチーフが使われていることが見えてきます。


②新人公演「不眠王」
作中では不眠王と娘が結ばれるのでこの二人がアダムとイブのように見えますが、この公演の大きな元ネタとなっているのはギリシア神話のオルフェウスの冥界下りです。
神話の内容は亡くなった妻エウリュディケを取り戻すために、オルフェウスが冥界へと足を運ぶというもの。
詳しくは過去に解説済みですので、ここでは役のあてはめのみ記載します。
根地のトラウマもあってかなり捻られており、複雑なため詳細は下記リンクの過去記事を参照してください。
※参照1 https://note.com/snowblossom_jj/n/n4d4daadb2d37
※参照2 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb

さて、新人公演の元ネタはギリシア神話では

不眠王→ケルベロス
娘→オルフェウス(※女体化)
掃除番(※女装少年)→エウリュディケ(※男体化)

となります。
よって、アダムとイブは不眠王と娘ではなく、秋公演の双子と同じ世長と希佐演じる掃除番と娘の組み合わせが正解です。

では、不眠王は一体なんなのか?

この不眠王、元がケルベロスなのでマントに矢印=ヘビがいます。
よって、不眠王はイブを唆したヘビにあたります。
このことは以下の三点からも証明可能です。

1.不眠王を演じるスズの役の元ネタは基本的に何か一つは動植物が取り込まれていることが条件である
※参照 https://note.com/snowblossom_jj/n/ne2ad4d5cd3b2

2.月の王との対比構造
過去の考察で月の王の正体はヘビの王バジリスクである、という指摘を行いました。
※参照 https://note.com/snowblossom_jj/n/n3a79a307ee04
この点を考慮すると、

月の王→「ヘビ」の「王」
不眠王→「ヘビ」を纏った「王」

という共通項が見いだせます。

さらに、この二つの役を演じている継希とスズの髪型、よく見ると似ています。
前髪は眉のあたりの長さで止まっていて、両サイドの二本だけが奇妙に長く、頭の上は少しツンツンしていて、後ろは短い――。
これ、ヘビの頭部と牙のシルエットをアレンジして髪型に落とし込んだものです。
サイドの際だって長い髪がヘビの牙に当たります。
全体として人の頭をちょうどヘビが呑み込んでいるような形です。

また、このデザイン、実はジャックジャンヌが初出ではありません。
スイ先生の前作である東京喰種、そのスピンオフ作品JAILに登場するリオが似たような髪型をしています。
※何ソレって人は公式サイトがまだ残っているのでご自身で検索をお願いします。
リオは継希やスズのようにスイ先生自身の手でデザインされたキャラクターです。
継希やスズと異なり、髪の牙部分が他と異なる色になっているため、ヘビであることがより視覚的に分かりやすいかと思います。
さらに、彼の服の背面には巨大な矢印=ヘビが描かれています。
(余談)この東京喰種[JAIL]はシナリオもスイ先生が書いているのですが、元ネタを含めて丁寧に読み解きを行うとジャックジャンヌと物語や登場人物に大きな共通項があり、ある種のプロトタイプ的な作品となっていることがわかります(後日解説予定)。

3.世長の親愛イベント1「創ちゃんと町ブラ昔話」のスチルなど
2の考察から継希とスズの外見がヘビをモチーフの一つに取り込んでいることがわかると、世長の親愛イベ1のスチルにも元ネタがあることが分かります。
これ、複数の読み方がある面白いスチル(いずれまとめたい)なのですが、そのうちの一つが楽園追放です。
継希をヘビとすると、

アダム→世長
イブ→希佐
ヘビ→継希
禁断の果実(の木)→継希と希佐が手にしている木の棒

という読み方ができます。
時系列的に継希がいなくなった後にスズが希佐と世長の前に現れているので、彼が欠けてしまったヘビの役を担っている――というのもこのスチルを考えるとより分かりやすいかと思います。
※先に述べているようにこのスチルは意図的にものすごく沢山の読み方ができるようになっているのであくまで一例です。

また、秋公演でスズ演じる予定だったジャン・ホセは、元は希佐たちと同じかりうどでした。
もしかするとシャルル=イブ、フィガロ=アダム、ジャン・ホセ=ヘビの三人トリオでかりうどを演じる未来もどこかにあったのかもしれません。
さらに、新人公演で継希とスズの存在が一部重ねられているらしい部分があることは、イオンの鈴かけの木をこえての考察からも何となく感じ取れるかと思います。
(この辺もどうも捻ってあるようで、どこまでストレートにとっていいのかは難しいのですが……。)

その他、世長=アダム、希佐=イブという図式は世長の親愛イベント1のスチル以外にも取り込まれている節があります。
例えば、ヨドバシカメラの店舗特典である世長と希佐の色紙、ヘビや禁断の果実は描かれていませんが、花の咲く場所=楽園に幼い彼らが二人きりでいる様子はアダムとイブを連想させます。
さらに、この世長から希佐に花を渡すという構図は冬公演のフギオーとチッチのスチルと対比の可能性が高いです。
店舗特典の色紙は背景に「赤」っぽい奇妙な「四角形」があるのですが、冬公演のスチルの背景にはイメージが被る「赤」い「四角形」の窓が確認できます。
体の成長や立場の変化などの子どもから大人へという対比、双方のイラストで世長から希佐に手渡される花は植物の生殖と関わりが深いものなので愛や性行為の象徴(転じて恋人や夫婦を連想させるもの)という見方も可能です。

さて、1~3により、アダムとイブ、ヘビの三役が揃っていることがおわかりいただけたかと思います。
加えてこの新人公演、実は禁断の果実もしっかり登場しています。
娘=イブが手に入れたアプリコットです。
旧約聖書の楽園追放に登場する禁断の果実はリンゴというイメージが強いですが、植物の分布や歴史からそぐわないとしてこれをアプリコット(アンズ)とする説が存在します。
よって、新人公演の楽園追放のモチーフは以下のような図式となります。

アダム→掃除番(※女装少年)
イブ→娘
ヘビ→不眠王
禁断の果実→娘が手に入れたアプリコット


以上、①~②により、新人公演と秋公演は旧約聖書の創世記に収録されている楽園追放が大きなモチーフとして取り込まれており、対の関係であることが分かります。
そして、この世長=アダム、希佐=イブ、スズ=ヘビという図式は実は最終公演にもこっそり取り込まれています。


③最終公演「央國のシシア」
まず、最終公演の大きな元ネタは、旧約聖書のイザヤ書に預言されたイエスのゴルゴダの丘の処刑です。
※参照1 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
※参照2 https://note.com/snowblossom_jj/n/n3a79a307ee04
(補足)新約聖書の「実際に起きた」ゴルゴダの丘の処刑ではなくあくまでこの段階では「預言=これから未来に起きる出来事」なのも実はポイントです(後日解説予定)。

さて、このゴルゴダの丘、実は楽園追放に登場するアダムと縁があります。
まず、イエスの磔刑による死はアダムとイブから始まる人類の原罪を贖うものなので、キリスト教の信仰や思想においてこの二者の関係は切っても切り離せない存在です。
加えて、ゴルゴダの丘は別名しゃれこうべ(ヒトの頭蓋骨)の場所という呼び名があり、アダムの墓所ともされる場所です。
こうしたことから、イエスの磔刑を題材とした西洋絵画ではアダムの頭蓋骨が画面に描かれていることがあります。

では、最終公演のイザク、シシア、チャンスの衣装デザインを順に見ていきます。
まず、シシア、チャンスの衣装はよく見ると前者は足下の裾、後者は右の太ももに矢印が描かれており、新人公演、秋公演から続いてイブとヘビの役を担っていることがわかります。
※シシアの性別はルートによって変動しますが女性である場合が圧倒的に多く、性別疑義が生じているシャルルのように、そもそもの容姿が中性的(どちらかと言えば女性的)にデザインされています。

さらに、シシアの衣装の裾部分には洋ナシのような紋様もあります。
ナシも禁断の果実の正体という説が存在する果物で、冬公演ではミゲル=天使ミカエルが実家=天国や楽園で育てている植物です。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n9d97a7b71149

そして、イザクの骨頭。
作中ではヤギ頭と言われていますが、現実のヤギと見比べてみるとなんだか頭部の形状があまり似ていません。
この怪しい骨頭、実は以下のいくつかの生物をミックスしてデザインされています。

1.表向きの呼称であるヤギ
黒ヤギは悪魔のシンボル。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n4aae5212c3da

2.下向きで巻き気味の太い角はヒツジ
イエスは聖書の記述から良き「羊」飼いや神の子「羊」と呼ばれることがある。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4

3.顔面(特に目元)はヒトの頭蓋骨を変形させたもの
ゴルゴダの丘はしゃれこうべの場所とも言われ、西洋絵画ではイエスの磔刑とセットでアダム(ヒト)の頭蓋骨が描かれることがある。

1~3よりイザクは世長の元ネタである悪魔の王サタン、神の子イエス、人類の始祖アダムの三つを合わせた存在であると考えられます。
(とんでもないものをレッツ・ラ・まぜまぜするな根地黒門。)

(補足)イザクのデザインは、実際は黒ヤギの悪魔バフォメットが一番のベースです。
しかし、もともと魔女の集会サバトに描かれる悪魔の王サタンを意味していた黒ヤギが、エリファス・レヴィの描いたメンデスのバフォメットの図像に影響され、以降はバフォメットに置き換わっていったという歴史があります。
また、世長は作中で古今東西のありとあらゆる悪魔をシンボルやモチーフとして取り込んでおり、それらを統べる王である――というような隠喩もあったりします。
こうしたことから、ここでは悪魔の王サタンという名称を使用しています。

以上により、最終公演の楽園追放のモチーフは以下のようにあてはめが可能です。

アダム→イザク
イブ→シシア
ヘビ→チャンス
禁断の果実→シシアの衣装の紋様(暫定)

ちなみにこの最終公演、骨がアダムのシンボルということに気付くと、フミのアドラ、田中右のがしゃどくろもあてはまり、世長のイザクと何らかの対比構造にある可能性が見えてきます。
これについては、どうも玉阪や大伊達山信仰の歴史が関係しているようなので、また改めて整理して考察したいと思います。


さて、央國のシシアにも楽園追放のモチーフが混ざっているとなると、もう一つ怪しいものが出てきます。
月の王です。


④プロローグ「月の王」
以前、この月の王に関しては以下のようなことを指摘しました。
※参照 https://note.com/snowblossom_jj/n/n3a79a307ee04

・月の王のキリスト教での元ネタはバジリスク(蛇)であること
・最終公演の央國のシシアとは旧約聖書のイザヤ書、ギリシア神話のペガサスとクリュサオル繋がりで対比構造にあること
・月の王に挑む希佐と世長の役は、きょうだい、対の衣装、戦闘描写などの共通項から秋公演のシャルルとフィガロと同じ男女の近親相姦カップル(→アダムとイブ)である可能性が高いこと
※シャルルの性別などについては https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb

さらに、先述した通り世長の親愛イベ1のスチル=継希のいた頃のスチルのモチーフは

アダム→世長
イブ→希佐
ヘビ→継希
禁断の果実(の木)→継希と希佐が手にしている木の棒

という図式で楽園追放をイメージの一つに取り込んでいます。
よって、月の王にも同様のモチーフが混ざっていて

アダム→世長
イブ→希佐
ヘビ→継希(月の王=ヘビの怪物バジリスク)
禁断の果実→(おそらく)無し
※禁断の果実が存在しないのは、まだ希佐と世長が幼く互いの性への自覚が薄かったためという解釈が可能です。
さらに、最終公演とは無し(ナシ)と梨(ナシ)をかけている可能性があります。

という風に読むことが出来ます。


①~④を参考にさらにジャックジャンヌの物語や大伊達山信仰について考えることが可能なのですが、まだ分かりやすく説明するのに必要な記事が足りないので今回は以上です。
ここまでお付き合いありがとうございました。





(余談)イザクについて
イザクの骨頭、謎の緑のペイントがついていますが実はこれにも意味があります。
少し変形していてわかりにくくなっていますが、おそらくあれは悪魔崇拝のシンボルである逆十字です。
さらに、世長のイメージカラーでもある緑色は、クリスマスカラーなどにも起用されている神聖な色であると同時に、悪魔の肌や目の色ともされています。
こんなところでもテーマBGMのHeads Or Trails(=表か裏か)のように、どこまでも二面性な男なのだった。
~完~