220202 最終出社日を終えて

 2月1日、19時。「退職のご挨拶」メールを全社宛に送り、拍手で見送られながら会社を出た。

 3年前の4月1日、新卒で入社した日と同じくらい心臓がドキドキした。

 自由だ!!!!

 music unlimitedでスキマスイッチの「ゴールデンタイムラバー」を流しながらメトロに乗り、新宿で降りた。改札前の売店でスポーツ新聞が売っていた。デカデカと第一面に躍る見出しは、「大量失業時代」。

 去年の10月、大学時代にお世話になった先輩ライター(フリーも会社員も両方経験している)に独立の相談をしにいったことがある。その1時間で得たものはとても多いので今後ひとつずつ記事にしたいが、中でも覚えているやりとりがある。

「いきなり独立するんじゃなくて、会社に勤めている今から、自分の本当の考えを文章にする訓練をしたほうがいいよ。noteでもなんでもいいから」

 去年の10月といえば、私は前職でタイアップ記事やらバズネタを紹介する簡単なコラムっぽい記事やらを量産していた時期である。会社の仕事以外では何も書いていなかった。副業禁止だから、と自分を納得させていたが今思えば単に書くのがおっくうなだけだった、報酬が発生しないnoteでもブログでも書く場所はいくらでもあったんだから。

「この業界は『やりたい人』じゃなくて『もうやってる人』に仕事が来るようになってるから。書きたいことがあるならとにかくもう書き始めたほうがいいよ」

 先輩は、フリーランスに一定数いるキラキラ夢物語を語ってきたり意識だけ高い説教をしてきたりする人ではないので好きだ。助言の1つ1つが地に足ついている。私はその金言にこんなふうに返したのを覚えている。

「たしかに、そうですよね……。本当に書きたいなら、独立するしないの前に、フルタイムで仕事してようがそれ以外の時間で書いてますよね」

 先輩と別れた後、私はポメラ片手にはりきってカフェに入った。結局、何も書かず本だけ読んで終わった。

 そして、退職した今。

「1日1本、日記でも趣味の小説でもなんでもいいから何か書く」を日課に決めて、今のところは続いている。先輩の言葉は本当に正しいと思うし、フリーになっても成功するような人は、フルタイム正社員で忙しかろうが自分の時間を削って文章をつくれる人だとも思う。

 でも、私には書くための「スキマ」が必要だった。週5で1日10時間(定時で退勤できる職場ではなかったのでだいたいこのくらいの勤務時間だった)、仕事の原稿を書いた後にnoteをひらく気力がなかった。書きたいことはあったはずだけど、何も形にならなかった。

 ただ記事生産マシーンになって月25万(額面)もらい続けていた当時の私は、名刺の肩書きは「記者」だったけど、お金をもらっているのだからプロの記者なのだけど、自分で自分を「記者」だと思えたことはなかった。

 最終出社日を終えて。スプレッドシートで今後入る原稿料と生活費の計算をしながら各媒体に営業し、noteで日々を振り返っている今の方が、私はよほど自分を「物書き」だと思えている。


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