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寂しさを味わう

小さい時の家には、もうすでに内風呂がありました。
当時は近所の家ではまだ、近くに2軒あった共同風呂へ行くのが普通でしたが、前述の3歳の時に引っ越して来た家には木で出来た風呂があったのです。薪でたくお風呂は勝手口の横に薪をくべるところがあり、母親がなたで薪を割りながらくべている光景を覚えています。

さて、私がいつお風呂に入っていたかというと、年齢のわりには遅い時間に入っていました。まだ当時は母親に入れてもらっていたのですが、その時間は10時くらいではないかと思います。そして、その時間帯は私にとってはあまりここち良くなかったのです。
なぜなら、父はいつも結構帰りが遅く、母も当時昼間仕事に出ていて、夕飯が7時とか8時でした。母が家に帰ってきて夕食の支度。食事を済ませて他の家族が入った後、母がお風呂に入る時に私が入れてもらっていたのです。
しかし、幼稚園に入る前の私でしたから、テレビもない時代、当然先に一回布団の中で寝ていました。そして、いよいよ母親の風呂の時間になるころに改めて寝た子が起こされるわけです。

眠っている時に起こされるほど気分が悪いことはありません。それだけではなく、特に冬の湯船に10数えるまで入っていると、決まって聞こえる音があるのです。
それはシーンと静まり返った夜なかに遠くから聞こえるある笛の音なのです。
それは、まさに“悪魔がきたりて笛を吹く”の音のように、こどもながらに聞こえました。
それはなんとも物悲しく、小さかった私のこころに寂しさをさそいました。
いつか、母親にその笛の音が何か尋ねたことがありました。
母親は「あれは人さらいの音よ。。」と言いました。要はなまはげのように、悪いこどもはその笛の人にさらわれてしまうというのです。
その笛の正体が、当時冬の時期に町内を歩きまわっていた夜泣きそばやの“チャルメラ”の音だと知るのには、そうは時間がかかりませんでした。
しかし、あの寂しさの感じは、今でも記憶に残っています。

皆さまにとっては、なんの音に寂しさを味わうのでしょう?


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