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状況の変化がもたらした「新しい形」

独自の音楽性を持ちながら、演劇、映画、ダンスなど垣根を越えて活動しているスリーピースバンド・空間現代。2016年、拠点を東京から京都に移し、左京区に自ら運営するスタジオ/ライブハウス「外」をオープン。去年に引き続き、メンバーの野口順哉さん(guitar / vocal)、古谷野慶輔 さん(bass)、山田英晶さん(drums)に新型コロナウイルスによる影響と文化芸術分野への支援についてお話を伺いました。

新型コロナウイルスによる「外」への影響

――昨年に引き続きありがとうございます。2020年4月に緊急事態宣言が出されましたが「外」にはどのような影響がありましたか。

野口:とりあえず通常営業はやめようということになりました。
古谷野:3月末に空間現代のライブをやって、それ以降の4月頭から人を呼んだイベントはやっていないという状況です。
――配信で行っていますもんね。
野口:最初のライブ配信いつだっけ。
古谷野:4月12日に空間現代のワンマンライブを配信しました。4月頭から配信の準備を始めて。4月からは配信をしたり、これまでのライブ録音のアーカイブを販売したり。あとはTシャツを作ったりとか。
野口:配信でのライブと、物販を増やす、ドネーションチケット*をwebショップに並べる。その3本立てで乗り切ろうという風に決めてやるようにしていました。
山田:配信は、有料と無料と両方やってみたり、いろいろ試してみながら。ライブ配信のタイミングで通販を買ってくれる人がいたり、通販で買うのといっしょにドネーションしてくれる人もいたり。いろいろなパターンで支援をいただいています。

――以前と比べて厳しくなったなとか、あまり変わらないなとか、何か感じたことはありますか。感覚的につらいと感じることでも。
古谷野:大体、毎週末に自分たちでイベントをやっていたのですが、それがなくなってからは、ある意味、制作的なところを集中してやっているというか。他のライブハウスと違うのは空間現代のスタジオとしても機能させている点。毎週ライブをやるというより、何か音源を作る時間に充てていました。それにシフトしていったという印象ですかね。
野口:考えてみれば、とにかく「バンドとしてやれること」はあって、外で音源を作ったり、作曲したり、やれることはいくらでもあるので。お金に関して言えば、補助金や給付金、融資も申請しました。それが通ったので、直近の金策はなんとかなりました。ただ、今後が厳しくなっていくだろうな、と。
古谷野:また第2波、第3波みたいに続いていくと、どこまでやっていけるかというのは見えないですね。
野口:それから融資を受けるといっても、使ったら使った分だけ返さなければいけないので。みんなそうでしょうけど、今後どこまでこの状況が続くのか見通しがついていないので、そういうモヤモヤっとしたつらさみたいなのはつねに抱えています。今のところはまだ即閉店というほどの状態には、うちらの場合はまだなってない。だからこそ、まだクラウドファンディングみたいなことをやるタイミングではないし、今やれることを粛々とやっていこうと話し合いで決めました。

――なるほど。ライブ配信の試みについても教えてください。
山田:空間現代で言うと、配信のライブをほとんどやったことがなかったので、客席にお客さんがいない状態でやることに慣れていなかったんですね。以前、DOMMUNE*に出たときは、スタッフやお客さんもいたから、全く人がいない状況でライブをやるというのは多分初めて。それがすごく不思議な感覚でしたね。明らかに違うなという感じがありました。
――コメント欄はすごく盛り上がっていましたが、やっている側は見えないですもんね。
古谷野:あとはライブ中にドラムが壊れたりとか(笑)。
野口:初配信でそれやったからね(笑)。
山田:多分変な力が懸かって、普段起きないようなトラブルが起きました。
野口:配信だったけど、やってるこちらは今まででいちばんライブ感あったんじゃないかな(笑)。
山田:あとは、やっぱり演奏中にフロアを見ても、お客さんがいないというのは、相当不思議な感覚。
古谷野:空間現代の配置だと、山田がいちばんフロア見えるしね。
野口:レコーディングとライブの中間みたいな感じだよね、お客さんがいないから。でもしっかり集中してやる。例えば、演劇だったら、その場にいないお客さんが観ているということがそもそもないだろうけど、うちらはレコーディングという体験があるから、まだ親近感あるのかな、と。
古谷野:でもレコーディングだったらドラムが壊れたら絶対にやり直すけど、やり直しがない。
野口:そこはライブ。
古谷野:“微妙なゾーン”でやるということに、まだ慣れていない感じはありました。

文化芸術分野への支援について

――京都市が文化芸術活動緊急奨励金*など芸術分野に関する支援を実施していますが、そのような支援政策についてどのようにお考えでしょうか。

山田:京都市の緊急奨励金については、法人は対象外だったので申請していないのですが、京都市の補助金*とか、企業向けのものは申請しましたね。
野口:法人化しているアーティストは少ないだろうからね。
山田:京都府も京都市も支援を始めるのが早かったと思います。今回のコロナの影響があってから、給付金とか助成金を出すのがさすがに早いなと思いました。
野口:文化芸術という分野で、フリーランスでやることが軽視されているような風潮の中、逆行して対応しているのはすごいなと思いますね。
古谷野:おそらく他の県とはちょっと違うんじゃないですかね。
山田:わりと早い方だと思う。少なくとも大阪よりは早かった。早い上にちゃんとしているなという印象はありましたね。こういった支援があることはめちゃくちゃ良いことだと思います。
古谷野:他にも京都府の給付金*にも申請しました。本当にありがたいです。

――Save Our Space*など、民間で立ち上げた文化施設保護、アーティスト支援の動きがたくさんあると思うのですが、そういった動きに関してはどうでしょうか。
古谷野:ああいった運動をやることによって、実際に国や自治体に伝わっていることはかなりあると思うので、それ自体は素晴らしいことだと思います。ただハコとか、個人についてもそうですけど、それぞれ異なる事情の中で一つのステートメントで動いていくのは結構難しいことだなとも感じています。お金周りのやり方って、ハコによってそれぞれ違うと思うので、その辺はちょっと難しいところだな、と。でもミニシアターや演劇でも支援プロジェクトがあったり。それぞれでやっていくことは素晴らしいなと思います。
野口:声を集められることには意義があると思う。文化芸術分野でこれだけ集まってやっている中で、逆にそれができない業界もあるわけですよね。ホストとかってそういうのあったりするのかな。ホストとか板前料理屋とか。そういったところで連帯しやすいというのは“文化芸術に関わっている人たち”と括れる強みでもあるなと思います。夜の街はどうなんだろうね。Save Our Spaceみたいなことが起こりうるのかどうか。性質が全然違うから。経済の論理だけではないと考えると、つながりやすい。逆に考えると、経済の論理でいくと、そういう人たちの声は埋もれやすいことにもなってしまう。その埋もれがちな声が団結することによって、声をあげることができたというのは良いことじゃないかと思います。
古谷野:連帯から溢れちゃったところとか、そういう給付金とかわからないという人にも届いてほしいという気持ちもあります。
野口:声を上げられない人をどうするか。
古谷野:だからそういうところをフックアップしていきたい気持ちもありますね。
野口:結構そういう例もある気がするけどね。つねに「じゃない方」がいるということ。
古谷野:そうそう。連帯することが良いとか悪いとか、そういうことではないのだけれど。そうじゃない人もいますよねっていう。そういうところを大事にしたいなという気はします。連帯できなかったことが悪い、とならないように。
山田:それはそうだね。
野口:「連帯が超重要なことだ」となり過ぎると、じゃない方たちが今度は埋もれてしまう。
古谷野:そこで対立構造を生んでしまうのが一番よくないなと思います。
山田:「連帯してないやつはダメだ」みたいなね。
古谷野:一時期結構危惧していたことがあって。まあSave Our Spaceだけの問題ではないですけど。
野口:社会に対する違和感。
古谷野:「黙っていることはおかしい」と言うのは個人的には難しいなと思いますね。それぞれがやれることをやった上で、声を上げるということに重要性があると思うので。

配信でのライブ

古谷野:配信とか結構見ますか。
――授業が始まるまでの時期は割と観てました。配信の話に戻りますが、配信でライブをする状況に突然移行するのは大変ではなかったですか、準備とか…。
古谷野:自分たちの私物の機材や、あとは友達から機材を借りたりとか、いろいろ寄せ集めてなんとかしました。
山田:どこまでクオリティを求めるか、という話もありますよね。求めたらキリがないし。とにかく早くやった方が良いだろうと。割と最小限の機材でやっている感覚です。
古谷野:でもやはり有料にするという前提で考えられたら、と。この状態がいつまで続くかわからない。全部無料でやっていくと、こちらはこちらで潰れてしまうのではという危惧もあるので。お金を払ってもらえる一定のクオリティになるように、音と映像と、準備を進めていきました。
山田:幸い準備をする時間は結構あったので。僕らの場合、イベントをやらないとなるとライブスペースを自由に使える環境にあるので、そういう点は自分たちの場所の良さだったのかなと思います。短い仕込み時間でなんとかしなきゃ、とか別になくて。でも当初は集まるのもよくないという感じもあったので、オンラインでミーティングしていました。「なるべくここに集まらないで」という時期もありましたね。
古谷野:なんだかんだ準備があって外に来ても、個別でとか。
山田:来てはいけないことにはしていなかったけど、来るときはバラバラで。用がない人は行かないでという感じでしたね。
――スタッフさんの数も多くないですもんね。
山田:最小限で。機材周りは外のスタッフの植松がずっとやってくれていました。他の配信している人たちが、みんなどんな感じで、どれくらいの人数で、どんな機材でやっているのか、そういった状況もあまりわからないですが、最小限でやっているつもりです。

これからについて

古谷野:音源を制作しているので、近々何かしらの形で出せたらなという感じです。
野口:今回やれることが絞られて、今まで時間や予算をかけられなかったことにつぎ込むしかない、と。そういうこともあって、音源制作の機材を買いました。もちろん補助金もありますし。今までもやりたいと思っていたけど、なかなか実現できなかったことをできるようにしていこうとしています。配信もそうですし、これまでの外でのライブのアーカイブの音源*を出すことも含めて。今までできなかったことができるチャンスだと前向きに捉えているような感じです。ただ見通しがついていないので、いつまでそのポジティブさだけでやっていけるのか、まだ全然わからないですけど。でもネガティブに捉えすぎずに、なんとかやって行けたらと思っています。
山田:外のイベントに関しては、お客さんをいつ入れられるようになるか、本当に見通しが立っていなくて。今回ライブ配信をしたことで手応えというか、希望を感じることもあったので、配信とお客さんを入れるイベントを上手いバランスでやっていければと思っています。今みたいな状況だとその時その時で良いバランスって変わると思うけれど。それをとにかく見つけながらやっていくしかないですね。それこそソーシャルディスタンスを守って、人数制限をかけて……みたいなことになると、明らかにイベントに対する収入が少なくなってしまうので、配信も同時にやってみるとか。いろいろなやり方があると思うので模索していきたいですね。
古谷野:7月14日から、以前外で開催した展示作品を再展示*という形で行うので、そこで人数制限をしながら、お客さんを呼ぶというのを再開してみます。イベントという形ではないですけど。
山田:展示の場合はたくさん人集めなくてもできるから、人数を制限しつつまずやってみよう、と。
古谷野:それ以降はまた状況を見ながらという感じになっていくのかなと思います。
――今日はありがとうございました。

展示写真1
展示写真2

7月に開催された「吉増剛造×空間現代『背』」での展示
photo by Katayama Tatsuki

Zoomによるインタビュー
2020年7月4日

*ドネーションチケット:購入すると「外」の運営費への寄付になる。
*DOMMUNE:2013年、宇川直宏が開局した日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネル。国内外から様々なアーティストが参加し、日本だけでなく世界的な人気を誇る。空間現代の出演は2015年9月29日「空間現代 collaborations Day0」など。
*京都市文化芸術活動緊急奨励金:京都市による新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人・グループに対する支援制度。
*京都市の補助金 :京都市中小企業等緊急支援補助金 。京都市による新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業や個人事業主に対する支援制度。
*京都府の給付金:京都府休業要請対象事業者支援給付金 。京都府による新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業や個人事業主に対する支援制度。
*Save Our Space:DJ NOBU、スガナミユウ(LIVE HAUS)らにより立ち上げられたプロジェクト。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う文化施設への助成金等の支援を求める署名活動や要望書提出、議員との面談を通し文化芸術分野の窮状を政府に訴えている。
*外でのライブのアーカイブの音源:bandcampにて、これまでに行われた外でのライブ音源の一部を販売中。Moe and ghostsと空間現代の共演、Kazumichi Komatsu、荒木優光など。
*再展示:「吉増剛造×空間現代『背』」。2020年1月に発表された、吉増剛造と空間現代による初の展示作品「背」の再展示。2020年7月17日から26日まで外にて開催。

空間現代 Kukangendai
 野口 順哉 Junya Noguchi
 古谷野 慶輔 Keisuke Koyano
 山田 英晶 Hideaki Yamada


インタビュー・構成:鈴木 奈々
本記事は立命館大学映像学部川村ゼミ編集「関西×アート 芸術文化を支える人たち Vol.11」(2020年発行)に掲載されたものを一部修正したものです。

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