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「薔薇が枯れた」に寄せて(箔塔落

 なんだか久しぶりになんの腹案もなく作品を作ってみたくなった結果、「薔薇が枯れた」という小説は出来上がりました。性的指向や性自認が自身にとってもよくわかっていない、そんな自覚すらない時代というのを、性的マイノリティの方がどのくらいの割合で経験するのかはわからないのですが、少なくとも性的マイノリティ当事者であるわたしには、そういう時代は確かにあったと言えます。とはいえ、「『ぼく』にこれといった特徴がないのは、もしかすると、『ぼく』の性が現在進行形で無色透明だから」、と断言するのをためらうのは、ややもするとその言い条では「性」というものに過大な期待を押しつけすぎなように感じられるから――むろん性自認、性的指向は他者に害なさない限りにおいては個々人が好きに選び取るものであることは大前提として、です――かもしれません。(Qの中に「性自認を決められない」という方々が含まれることは重々承知していますが、本作の「ぼく」はその段階にもまだ至っていない、すなわち「性自認を決められないかどうかもわからない段階にある」と作者は考えているとお考えください。そうして、作者の考えが絶対ではないこともあわせてご承知おきください。)最後の一段落を経て、ふたたび時間が動き出したとき、「ぼく」が何を思い何を見るのかはわかりませんが、その答えがどんなものであっても、世界がそれを尊重するよう祈るばかりです。

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