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ツタンカーメンか。インド日記_02

明け方に目が覚めて、隣のベッドで寝ているさおちゃんを見て、ああハズレのホテルやったわ、と思い出した。ツタンカーメンのごとく真っ直ぐで、まるで死んだかのように寝ている。とても静かで身動きひとつしない。私はシャワーを浴びるべく、ボロ雑巾のようなタオルを手に取って顔をしかめた。

昨日の22時過ぎにニューデリーの空港に着いた。飛行機が遅れたことを想定し、空港から徒歩圏内のホテルを予約してあったのだ。さすが私。用意周到である。しかしながら予約サイトを見ると空港から徒歩圏内!と書いてあるが、位置が不明瞭だった。もしかして、と思いgoogle mapで位置を確認してみたら、ゆうに5キロ以上は離れていた。えっ、同名のホテルの支店が空港内にあるとか?と思い、住所を確認してみたが、やはり5キロ以上は離れているのだった。はあ?夜中にタクシーを捕まえるのが嫌だから、徒歩圏内のホテルを予約したのに。

そもそもデリー空港から夜遅くにタクシーに乗るとろくなことがない、と聞かされていた。「コンノートプレイス」という街のセンターに行ってくれというと、怪訝な顔をしてタクシー運転手にこう言われるらしい。「知らないのか?今、街はとても危険だ。だから封鎖されているんだよ。お前が予約したホテルもクローズしているはずだから、案内所に連れて行ってやるよ。俺が安全な場所までお前を送り届けてやるから安心しろ」。しかしながら、もちろん街もホテルも通常営業。街が封鎖されているかのごとく、警官まで出てきて「迂回しろ」という。そして案内所という名の場所に連れて行かされ、ぼったくりツアーを組まされたり、法外な値段のホテルに泊めさせられたりするそうだ。

だからよ。だから徒歩圏内のホテルを予約したんやって!とさおちゃんに訴えると「あそこにUberのピックアップポイントがあるで!」と言った。第3ターミナルの前だ。でかした、さおちゃんの視認性。さっそくUberを呼び、車がつかまったら、すぐにメッセージを送る。「もう目の前におるで!!」と。そこにはものすごい数の車の台数がいて、確実につかまえないとキャンセルされてしまいそうだったから。ぎゅうぎゅうに停滞する車をかき分けて、さおちゃんがナンバープレートを探す。おった!!遠くからそう叫ぶさおちゃんがボンネットをボンボン叩き、開けて!と言うや否や、私が走ってスーツケースを運び、座席に放り入れる。そして自らの身体を滑り入れた。道路はすさまじい渋滞だった。デリーでは互いに進路を譲るなんて行為は一切ない。我先に!車体を先に滑りこませたほうが勝ちであるから、当然道は激混み。けたたましく鳴るクラクションに私たちは苦笑いするしかない。

ホテルの前に着いたが、めっちゃ暗い。今まで見たホテルの中でいちばん暗い。しかも南京錠で施錠されている。私たちが来たことを確認すると、ホテルのスタッフがちんたら出てきて、眠そうな目をこすりながら開けてくれた。予約サイトで必要な情報はすでに送っているはずなのに、めちゃめちゃデカイ宿帳に名前やパスポート番号、国名などを書かされる謎の手間を経て、やっと部屋に通された。夜中にやらす作業か。そして予約サイトの写真とまったく違いすぎてクラクラするほどのうす汚なさ。シーツにはタバコの焼け焦げがいくつもあり、床はザラザラ、タオルは擦り切れんばかりの硬さ。ほんでさ、どこが空港から徒歩圏内なんすか。怒りが込み上げてくるも、夜中やし寝るしかない。お腹が空いたので、さおちゃんが日本で買ってきてくれた激うまパンをちぎり食べ、バンコクのラウンジでパクってきたビールを一気飲みした。そして気絶するように寝た。

そして翌朝、ツタンカーメン状態のさおちゃん。シーツに付着した埃を吸わないように、絶対に寝返りをうたないぞ!と強い意気込みを感じる一直線の身体。枕にはタオルを敷き、もう微動だにしない。ざらざらの床をまともに踏まないように飛ぶようにシャワーに行き、カランをひねると、かろうじてお湯は出たがどぶくさい。ヤスリのように硬いタオルで肌を傷つけないように、ぽんぽんとやさしく拭いたが、全然吸水しないことに閉口する。そして本当に何もない部屋の天井を見る。テレビもねえ。ポットもねえ。冷蔵庫もねえ。Wi-Fiパスワードもねえ。

クーラーはちっとも効かず、こうしている間にももう一回シャワーを浴びなければいけないぐらい、じわっと汗がにじんでくる。むくっと起きてきたさおちゃんに、暗闇のなかから「私の能力すべてを総動員して、このホテルの実情を世界の旅人に暴いてやる」と訴えたが「そんなことに能力を使うぐらいなら、もっと他のこと書いたほうがいいよ」と言われ、溜飲を下げる。

あのさあ、こんなところに泊まるためにインドに来たわけじゃないって。心からそう思う。しかしながら、これが私の初インド1日目だ。アホか!!!

#インド


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