音楽記録メディアの今昔といっても、そうたいした話ではない
今からおよそ40年前に、CDというメディア・フォーマットができて、それを再生するプレイヤーが現れました。世界初のポータブル機として世に出たSONY D-50を父親が買ってきて、私はそれを鳴らすために発売間もない"The Pros And Cons Of Hitch Hiking / Roger Waters"(1984年)を買いました。それが生まれて初めてデジタル音源を聴いた瞬間でした。
それまではターンテイブルにビニールの円盤を載せ先の尖ったカートリッジと呼ばれるピックアップで刻まれた溝の上を走らせて音楽を聴きました。イギリス人の音造りの嗜好が自分に合うと思っていたので、アンプは山水のAU-D907Xでプレイヤーはビクター製と国産でしたが、カートリッジはDecca Mark5、スピーカーはRogersのLS-3/5Aを使用していました。
BBCが、主に移動する中継車両の中で使用する目的で開発したポータブルモニタースピーカーは、人声の完全なる忠実再生を目指す狙いが、私のように狭い自室で音楽メディアに意図的に収められた音の全てを漏らさず聴きとりたいと願うマニアにとっては理想的でした。
飽きることなく時間を費やして、楽器に触れる奏者の手先の動き、その声を出す時の表情、収録に使われたミキサーのフェイダーを操作する指先、使用されているマイクやギターアンプ、それらの距離感、残響は部屋のものか、プレートのものか、そうした、この結果に至るまでのあらゆる事象に想像を働かせて、音の向こう側にある見えない風景へ思いを馳せ、この表現に昇華させた主体の意図を探ろうとしました。
いまで言うアナログオーディオ、つまりは「レコード」がデジタルオーディオ、即ち「CD」に変わったことは、もう一度言うけれど、人がそこに残そうとして収録した音の全部を聴くためには夢の具現化に他なりませんでした。
なんか、アナログ盤が、CDを上回る音の良さだとか言うではないですか。レコードを愛してきた人間からして、その存在を貶める気持ちは毛頭ありませんが、音質が良いという言説には同意できません。それしか存在しない時代において、まともな音を聴くためにどれだけの努力と投資を重ねたか、それでも果たせなかったノイズの無い、忠実な音質(比較してですが)を手のひらに載る5万円に満たない機材が再現せしめた現実にはひっくり返るほど驚き、浮き上がる笑みが止まりませんでした。
アナログ盤が奏でる音にノスタルジーを感じるし、私のコレクションには、その後CD化や再発売されずに、そのオリジナルしか残されていない音楽作品が少なくありませんから、廃れてしまうのには忍びないと心底思うだけでなく、時折、やはりそれを聴いてみようという気持ちにすらなります。
ただ、やっぱりCDは音がいいなぁと普通に思うし、CDよりビニールが上、と屁理屈を並べ立てるのは、この人、自分の耳で判断しているのかなと疑いたくなります。
CDプレイヤーも黎明期から始まり、数年毎にとっかえひっかえすることで、音質を上げていくことができていたと思いますが、21世紀にはパーソナル・コンピュータの性能が上がり、今さらのお話ですが、CDから音声データを抽出して、コンピュータ内の機能によって音を出させる方が、CDを再生するだけに特化されたコンポーネントよりも高品質であることに気付きます。
物理的に円盤を回転させてデータを読み出しながら、リアルタイムで音声信号に変換していくよりも、メモリ上に読み込ませたデータから生成させていく信号の方が劣化が少ないことがわかり、高音質で聴くためのリッピング作業が欠かせなくなります。
CDプレイヤーは不要となり、正確にデータを拾い出せるPC用の光学ドライブとプロ機材としてのD/Aコンバータが必須の外部機器となり、その橋渡しは最新の音楽再生アプリケーションが担います。
となればCDに焼いていなくても、データはダウンロードで入手できればそれで良しという、コンビニエント化も進みました。その辺りの功罪はまた別の話になりますので割愛しますが。結局のところ44.1kHz/16bitのデジタライズ(CDフォーマット)が、今もって必要十分な性能を発揮していると私は確信しています。
巷には、ハイレゾリューション、つまりサンプリング周波数とビットレートをそれ以上の高密度で行ったデジタライズを正義と見做してCDの音質を不足と宣ったり、ここでもアナログの勝ちと主張する論調が溢れています。言っていることは理解できますが、そのような理論を実体験されておっしゃっているのでしょうか。私には不信感しかありません。音楽を聴いて、その違いがわかるのかと。CDに収められたデータを、今私が実践しているような方法で再生して、どんな不満があるのかと。正直問いたいのではありますが、それがわからぬ私の耳が悪いと思ってくださって結構ですので、どうか議論はふっかけないでいただきたいです。無知で結構、私は逃げます。
音楽制作の現場に携わる身から述べさせて頂くと、録音、さらにその編集、ミックスとかマスタリングとか、それらをデジタルで処理する中で、機材の能力が追いつく限りのハイレゾリューションで行っていくのは当然のことです。弄れば弄るほど非可逆的に劣化するであろう、という想定があるからです。CDに焼いて販売するならば、44.1kHz/16bitへ落とし込むのですが、その直前までは高密度なデータで作業していく。その作業時の音質を覗き見する、という意味合いでハイレゾフォーマットでの作品頒布の意義を認めてもいいと思っています。だからと言って、例えばBluetoothのワイヤレスイヤホンでスマホから飛ばして、その違いはわかるのかよ?と問うてみたいだけのことです。
さて、アナログの話、ハイレゾの話ととっちらかっていますが、元々何の話をしようと書き始めたかと言えば、一昨日の「キーボードを探している」の続きをやろうとしていたのでした。まるで思わぬ方向へ飛びました。でもまぁ、そう言えば楽器音源の世界でも同じだなと感じたもので、こうなってしまいました。
電子ピアノって、上で述べた単体CDプレイヤーと同じような立ち位置に居ない?ってことを語ろうとしました。推敲なし、アドリブの放談ということでご容赦ください。今日はここまでにします。ありがとうございました。
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