441Hz

フレットの有る楽器は構造上、完璧なピッチを得るのは難しいと思います。私はウクレレも弾きますが、弾き始めればすぐに狂うし、あんなに短いスケールにポリエステルだかナイロンだかの細い紐を張って、人の耳に知覚できない範囲で安定させるなんてことは無理でしょう。ギター、ベースも少なからず同様です。

私は、長年携わった職場がアコースティック楽器が多く居る現場でしたため、まずもって440Hzで演奏することがありませんでした。よく行っていたレコーディングスタジオのグランドピアノは441Hzでしたし、生演奏の場で調律されるピアノも管楽器とのアンサンブルを考えてのことか442か441であることが当たり前でした。

というわけで、自身のデフォルトは441Hzにしてしまって数十年です。足元にセットするチューナーも、常時携帯しているt.c.のクリップチューナーも基準値を441Hzにセッティングしてあり、レッスン現場で備品を合わせるときも、私の時間は441にしてしまいます。

ウクレレ教室で、生徒さんが自ら合わせた調律が危なっかしくて、貸して、と言ってやってあげる場合も、自分のチューナーを使いますから441に(内緒で)合わせてしまいます。ご自身でちゃんと440Hzに合わせた方々と合奏しても、所詮はウクレレ、全然平気です。それくらい、みんな狂っていて。気持ち悪いけど慣れました。個々の楽器がそれなりに綺麗なコードが弾ければ、440と441が混在しても大丈夫ですね。でもないか(笑)

まぁウクレレの話は、あの楽器固有の性格もあるので置いておいて、自分ではベースが441Hzを基準にしていることで、聞こえに対して平穏で居られます。

ベース教室でやったことがありますが、ある日は伴奏機器も含めて全てを441で、別の日に440で、とこっそりセッティングを変えてみました。その結果、明らかに441の方が、空気が平和です(私の耳には)。440に調和した世界は、たぶん気のせいでなく、暗鬱な模様です。自分でやったからプラシーボの可能性はありますが。

弦楽器の世界で、非常に精度の高いネックのスキャンニングと、その狂いを治すための自動化されたフレット(あるいは指板)の切削が行える、ドイツ生まれのPLEKというマシンが浸透してきています。私も日本に上陸したときから、何かとお世話になっています。

弦を調律したときの引っ張りと、ネックに備わる、それに耐える力を拮抗させたときの、弦が振動するのに理想的な空間を、ネック上で精密に確保するための調整を行うのが目的です。当然のことながら、マシンが超高精度であるわけですから、基準ピッチをおろそかにできません。当然、必ず「441Hzでお願いします」と伝えます。

先日、ギターお二人と、ドラム&ベースの四人でリハーサルがあって、こういうとき(例えばここに電気ピアノやシンセサイザーが加わったとしても)、暗黙の了解で440Hzで調律されると思うのです。で、久しぶりに、本当に久しぶりに、足元のBOSSチューナーの基準ピッチを440Hzに下げ、1日、それで演奏を行いました。

なんかやっぱり、どこかしら、いつもと違う感じはありました。すごく441に戻したくなりました。自分だけでも。もちろんしませんでしたけど。こうした編成では滅多にやらない、というのが大きいかもしれませんが、でも、この不慣れな感じってピッチによるものかなぁ、と録音したエアの音を聴いて思った次第です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?