meet joe black

半年ほど前に知り合った方と何度か会っていたら、ふとウィットニー・ヒューストンの歌唱をイメージしたことがあって、その関連が腑に落ちなくて気になっていました。その方は絶対ウィットニーを知らないと思うので、こういう歌手がいるよ、と教えてあげたい、ある一瞬、そう閃いたのですが、それが何故だかはわかりません。

こういったインスピレーションが気になる質なのでアマゾンプライムで"Body Guard "を、公開時のスクリーン以来、超久しぶりに見てみたのですが、今の私にはピンと来る映画ではありませんでした。大谷翔平選手の自宅が話題ですが、レイチェル(ウィットニー)の豪邸が、さもありなん、といった風情でしたので、そっちに興味が持って行かれました。レイチェルの性格が悪すぎて物語が陳腐に見える…、が個人的な感想。ウィットニーは私と同学年になりますので夭折は残念ですし、非凡な歌手であることは認めます。

アマゾンプライムが次に推してきたのが"Meet Joe Black(ジョー・ブラックをよろしく)"でしたので、これまた超久しぶりに見ました。3時間の長編。前者は1992年、本作は1998年の公開。

この映画もスクリーンで見て大好きになりDVDを買って4、5回は見ているのですが20年ぶりくらいになるでしょうか。ブラピとクレアのインティメットなシーンについてはすっかり忘れていて、その時の二人の顔芸が細かすぎて新鮮でした。脚本が良く芝居が素晴らしい。アンソニー・ホプキンスには当時も強い感銘を受けましたが、改めて、これぞ英国人という(個人的な印象です)重厚な表現力に泣きそうになります。写真も音楽もいい。つまるところ、映画というパッケージに収まる全てが完璧に調和していると、私は思うのです。その意味で生涯見た映画の中で、少なくともトップ5に入れたい。

そんな思い入れを更に強くするのが、パーティシーンにビッグバンドが仕事しており、そこで演奏されるスタンダードは自身にとっても馴染み深いレパートリーであり、彼はコントラバスを弾いてはいるものの、そこに居るのが私であってもおかしくない、というような親近感を覚えたからでした。

こんな好きな映画が、DVDよりも高画質な4Kで、見たいときに見られるとは嬉しい世の中になりました。

ビル(アンソニー)は65歳の誕生日を迎えて身罷りますが、現実の、私の母はその翌年、62歳で唐突に亡くなりました。あの時にも、この映画の美しいシーンを見返して、心を宥めていた記憶があります。死に神が主役の映画は、その物語内で旅立ちを覚悟する人間が、その存在をも感服させる強い意志を見せ、私自身にも勇気を与えたのでした。

ボディガードは西海岸、ジョーブラックは東海岸。ニューヨークの方が、私は好きです。スーザンがジョーに出会うコーヒーショップのようなところで、私も実際、お茶を飲みフライドエッグとブレッドを口に入れたものです。それは映画から3年後の事であり、ヘリコプターが飛行するシーンに映り、そこにあった世界貿易センタービルは既にありませんでした。

映画では、21世紀には〜といった会話が交わされます。サブスクリプションで高画質に再生される映像からは、これが前世紀の作品であることをまんまと忘れさせられました。なにか、こう、私にとっては、両親が生きていて、ツインタワーも聳えていた、平和な時代だったのが、二重に感慨深い。

エンドロールに流れる『虹の彼方に』と『この素晴らしき世界』をマッシュアップしたイズラエル・カマカヴィヴォオレによる歌唱は、今さら語ることすら必要がない、鎮魂の響きを湛えます。まだ聴いたことのない方は、この映画を通して経験していただきたいと思います。

ウィットニーのことは、どうでも良くなっていて、別にそんな歌手のことを教えてあげる意味などないような気がして、その代わり、meet joe blackを見て欲しいと願うようになりました。簡単に気分は変わってしまうものです。単純に、個人的に大切な作品であるだけでなく、生きること、死ぬこと、愛、優しさ、といったものの意味を、何度も何度も伝えてくれる映画でした。60歳になった私はクインスがとても好きです。

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