ミドル=プレゼンス

そこで改めてBartoliniのサイトでTCTについて確認しました。いにしえのフェンダーアンプと同じ動作をすることを、しっかりと謳っています。XTCTはミドルの周波数を変えただけですが、フェンダーと同じとは言えなくなりました。読み進めると、見過ごしていたある情報に目が留まります。ミドルはプレゼンスなのだそうです。フェンダーのトレブル/バスとプレゼンス、それがTCTの3バンドの正体でした。

https://bartolini.net/product/tct/

ではフェンダーアンプのプレゼンスとは何か、それもフェンダーの公式サイトに説明があります(英文)

更に驚きがありました。プリアンプ部に存在するトレブル/バスのコントロールは減算式であって、回路上はブーストしていないということ。下げきると音が出ないのはそのためです。上げるということは「元へ戻す」動作であって、なるほど解像度が悪化しない訳でした。もちろんTCTでのバス/トレブルはブーストできますから、実際にカット方向だけの原理ではないのでしょう。

プレゼンスはパワーアンプ部において、フィードバック回路のコントロールであり、高域に効果が聴き取りやすいために、よくトレブルよりも上の帯域をコントロールするなどといった俗説がまかり通っていますが、それは現象の一部でしかないことがわかります。バルトリーニの方では、ミドルとしているパラメータは、実はプレゼンスなのだと説明されます。本来パワーアンプで行っている動作を組み込んだプリアンプということなら、TCTは間違いなくエミュレイションです。真空管を使っているのでもありませんし。

アウトボードにアレンビックF-2Bという歴史的な名器があり、7025を使用する真空管プリアンプですが、そもそもこれがフェンダー"Dual Showman"アンプをエミュレートしています。TCTは、更なる、そのコピーと言えるかもしれません。

アレンビックは70年代に、超巨大なPAシステムを、グレイトフルデッドのために構築しました。最高の音質を最大の音量で、果てしない荒野ですら実現するバベルの塔のようなシステムでした。彼等が元々はフェンダーのアンプを使用していても、そこにマイクを立てるなどとまどろっこしいことはしない、フェンダーアンプの要素たる、スピーカーを駆動する手前のサウンドを抜き出し、ライン信号として、そのPAに突っ込む。そうしたコンセプトのために生まれたF-2Bでした。TCTがそうであるならばF-2Bもミドルはプレゼンスであったはずでしょう。

F-2Bにはブライトスイッチが搭載され、私自身何年も同機種を使用してきた過去がありますが、ツイーターを備えていない当時のベースアンプキャビネットには有効でした。先日ジョン・イーストのプリアンプに搭載されていると語りましたが、TCTにブライトスイッチが加われば、それはF-2Bに比肩するファンクションを得たことになります。

と、少し脱線しましたが、TCTが真似ようとしたフェンダーアンプのトーンコントロールが、そもそもパッシブであった(ブーストできない)という事実と、私が長年感じ続けている、乾電池駆動のオンボードプリアンプで増幅したEQの結果が解像度を悪化させるという事象には関連があるものと推察します。そして、やっぱりTCTは良かったんだなぁと、しみじみ思うと共に、なぜ同じような製品が他に無いのかなと疑問が湧きます。当のバルトリーニ自体が、TCTよりも以降のモデルの方が使いやすいと言っちゃってますよね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?