番外編:タップできるシングルコイルとか

プレシジョン・ベースのスプリットコイル、つまり2個のマイクを直列に繫ぐか並列に繫ぐかで音の違いを楽しむことができます。これを汎用性と捉えても良いのですが、どちらかに的を絞った設計にして、他方は飛び道具として使った方が良いでしょう。直列にしてちょうど良い音量・音質に作ったとすれば並列にすればボリュームダウンし、低域は弱まります。そうなれば切り替えるメリットは薄いと考えられ、並列に設計されたものを直列に切り替えてブースターにする、というのがセオリーでしょう。

同じようにジャズ・ベースの2個のマイクを、普通はそれぞれにボリュームを与えるくらいですから並列接続用に設計されているものですが、音量アップの秘技として直列接続に切り替えるスイッチを設けた楽器を目にすることがあります。その時の音をかっこよいと思うかどうかは人それぞれで、その恩恵にあずかれるかどうかは、音楽次第と言ったところです。個人的には実用の機会は無いんじゃないかなと思います。

汎用性は楽器を劣化させると考えるタイプの人間なので申し訳ないですが、それでいて、今日は真逆の話を展開していこうと思います。

NordstrandのソープバーシェイプのダブルコイルPUは、注文時に並列接続用か直列接続用かを指定します。ワイヤリングのターン数を変えるのだと思います。キャリーの言葉は正しく、直列用をタップしてシングルにすれば音は小さすぎ、そう使うなら並列用を推し、並列用を直列に繫げばブーミーでハイ落ちすると言います。物理ですから当然のことです。ちなみにジャズベースのPUを直列接続するのは後者の状態です。

だから私は、ベース用のハムバッカーから4芯出ていて、お好きに使ってください、というモデルは感情的には敬遠します。いや、そうあるならば直列は使えないんじゃないかと想像します。

少し話題を変えますが、サイドバイサイドのハムキャンセルシステムで直列接続した時の音が、シングルコイルに迫れると思っていることを数日前に書きました。飛躍するのですが、ジャズベースも直列を前提に各PUが設計されたらいかがだろうかと思い立ちました。ジャズベースが事実上の1PUになる接続です。

それには通常のコイル設定では駄目ですので、簡単にはコイルタップできれば良いという話です。昔Schcterがアフターマーケット用のピックアップを製造する会社として存在していた頃、各モデルにタップできる機種を用意していました。コイルの途中からワイヤを分岐させ、フルターンからハーフターン(1/2ではないでしょうけれど)へ切り替えられるようにしてありました。

ジャズベース用はMoonに搭載されたもので試した記憶がありますが定かではありません。たしかハーフで普通、フルでパワーアップを目指していた気がします。そうした構造は、スタック・ハムキャンセルなどよりもずっとシンプルに作れると思いますし、既製品からの改造も比較的容易かと思います。やってみたいことの一つです。

4ポジションのロータリースイッチにて、ハーフターンの直列、フルターンの並列、それぞれフルターンでのフロント・リアを切り替えるようにします。なんか私はこれで満足するような気がするんですが…。もちろん目指す設定を見つけるにはトライ&エラーが必要です。期待は直列での音です。

そんなことを考えている時、ふとまた別のことを思い出しました。そもそもハムキャンセルってどう? ということ。ジャズベースって2個1でハムキャンセル稼働ですが、そうじゃない方が音は絶対良いはず。

ストラトキャスターの3シングルのうち、真ん中を逆磁逆相に製作して、ハーフトーンミックス時にハムをキャンセルさせるアイディアは、もはや一般化し普遍的にすら思えます。私が、ある時入手したとても古いSeymoure Duncanの3Sセットは、3ポジションのスイッチを想定しているのか、全て同相であり、ハムを打ち消すことのできないシステムでした。これを5ポジションのスイッチで配線した時のハーフトーンは、痺れるほどのかっこよさでした。こういう言い方は語弊がありますが、「アメリカン」な肉食の力強さ。ハムキャン・ハーフトーンは較べれば草食です。枯れてるとも言いますが。

以来、ジャズベースにも逆特性でないフロント・リアの組み合わせを試したいなぁとずっと頭に置いていたのですが、実際にありました。EMGです。純然たるシングルコイルでありながら各筐体内に個別のプリアンプを置き、微量な信号を一人前に仕立てて出力することでノイズレスを達成しています。フロント用、リア用とあるのはサイズのみの違いで、たしか極性は一緒のはずです(この論考、この前提を誤解していたならば本当にすみません)。EMGのジャズベースにおけるミックスは、打ち消しあいの無いパラレルだから鮮明である、私は常々そう思っていました。

前半に喋ったハーフターンでの直列配線とはベクトルの異なる欲求になりますが、EMGも一度はちゃんと探求したいと思っています。あれだけバリエイションを用意するには理由があり、みな音が違うはず。中にはフィットするモデルがあるでしょう。問題は、買って付けてみなければわからない、ということ。1セット購入前提で全モデルを装着して比較できるプランなどないですかね? ちなみに最初期から続く、ベーシックモデルたる"J"は好みではありません…。


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