スニーカー解体新書 #2 「リーボック ザ・ポンプ」
身近な存在ながら、その構造があまり知られていないスニーカーを解体・分解してみるスニーカー解体新書。
第二回は、リーボックの「ザ・ポンプ」です。その名が示すとおり、リーボックを代表するテクノロジー「PUMP」が初めて搭載されたモデルです。
例によって、こちらもサンプルで右足しかないものです。
オリジナルは1989年発売ですが、今回のものは2004年に製造された復刻版のサンプル品。16年前のものとなりますが、未着用状態でありながら、ポンプボタンのゴムが劣化してしまっており完全に取れてしまっています。
ポンプボタン部分が剥き出しとなった哀れな状態。ウレタンの加水分解と並んで、ゴムパーツも経年劣化が起こりやすいものです。ゴムの劣化に関して分かりやすい例は輪ゴムです。放ったらかしにされた輪ゴムがブチブチ切れたり、ボロボロと崩れてしまう場面に遭遇したことはないでしょうか?ゴムの劣化も避けられない現象の一つです。
スニーカーに使用されるゴムパーツに関しては、特に新品状態のままで放っておくと気付いたら壊れてしまっていることが多いです。そんな中でも同じ現象を起こしているザ・ポンプを何足か見た経験があるので、このシューズでは特にその現象が起こりやすいものなのかもしれません。
このゴムパーツ破損が発生してしまっているので、今回こちらを解体対象としました。
サンプルですので市販品とは違う別のサンプル紙タグが付いています。製造年月日は2004年4月28日、生産国は中国です。実際の製品の販売は2005年の第一四半期となっています。
シュータンに付いている製品タグは至ってシンプルです。読み取れる情報は生産国とサイズのみです。
ゴムパーツとともに気づいたら劣化破損していたというパターンに当てはまるのがプラスチックパーツなんですが、今回プラスチックの方は劣化していないようです。解体作業でかなり力を入れて触りましたが、プラスチックの方はびくともしませんでした。この辺、何の素材が、いつ、どんなふうに劣化してしまうのかは、モデル差、個体差、保管環境差等、様々な要素が絡んでくるので気まぐれですが、分からないからこそ、これがスニーカーコレクターの悩みの種だったりします。
ちなみに、プラスチックパーツが経年劣化破損しやすいイメージがあるのはエア ジョーダン 3のかかと部分とエア プレストのアッパーパーツです。あくまで個人的なイメージの見解でしかないですが。
ザ・ポンプのミッドソール部分にはポリウレタンが使用されています。この部分が完全にボロボロになったオリジナルのザ・ポンプを何足も見たことがありますが、今回のものは加水分解はまだ起こっていないようです。(もしかするとオリジナルと復刻ではミッドソールの素材を変更しているのかもしれませんが)
ちなみに、今回のザ・ポンプはカップソールではなく、ミッドソールむき出しモデルです。
解体にあたって個人的に気になるのがアウトソール後足部の「エナジーリターンシステム」というクッション機能。その後のリーボック製品にあまり継承されておらず、ほとんど知られていないシステムになるので、その内部構造がどうなっているのか気になるところです。
「エナジーリターンシステム」のアップ。表面上は劣化は見受けられません。それでは解体を始めます。
今回は加水分解が起こっていないから解体に集中できそうだとまずインソールを外しにかかったら、そのインソールが加水分解を起こしていました、、、最近ではあまり見かけなくなったのですが、以前はクッション性を最大化させるためにインソールにもポリウレタンを使用しているものがあったのですが、今回はそれに該当していました。
完全に加水分解を起こしているインソール。ちょっと粘っこくネチャネチャしており、一気に気分が萎えました、、、加水分解は物理的にも精神的にもかなり不快です、、、
そんな落ち込む気分の中で若干ハイになったのが、インソールの下からサンプル情報が記載された紙タグが出てきたことです。情報的には外付けの紙タグとほぼ一緒で大したものではないのですが、インソールの下に紙タグを挟んでおくというやり方はあまり経験したことがないのでちょっとテンションが上がりました。(他社では、工場情報や製造者、製造責任者の判子が押されたもの、QC=品質チェックを通過した何らかの印などの紙やシールが挟み込まれていたなどの例があります。)
ちなみに、このタグで製造工場が「FUZHOU」=福州市の工場であることがわかります。なお、福州市のある福建省はメーカー問わず、中国におけるスニーカー製造工場のメッカです。
気を取り直して解体です。まず、アウトソールとミッドソールの分離です。エアフォース1とは違い、ザ・ポンプのアウトソール縫い込みは爪先部分のみです。しかも、エアフォース1はほつれた場合も一気に解かれないようにロックステッチでかなり念入りな縫い込みがなされていましたが、今回はシングルステッチでした。工程上、もしくはコスト上の理由による意図的な簡易化なのかな?と思いましたが、その理由は後から分かる様になります。
爪先のステッチを解いた後、接着自体は比較的簡単に手の力のみで行えました。
10年以上経っている接着剤は手の力のみで簡単にはがせます。製造して数年レベルのものはこうはいかないため接着はがしに手間のかかる工程を付け加える必要があるのですが、今後そういった場合の方法を紹介する機会があればと思います。
次にミッドソールとアッパーの分離に入るのですが、ここでインソールを外したミッドソールを確認するとアッパーを360°ぐるりとミッドソールに縫い込みで結合しているタイプであることが分かりました。
この縫い込みピッチ外しが一苦労なのですが、この部分の縫い込み方法がロックステッチでした。アウトソールとミッドソールの結合はシンプルでしたが、その理由は、このアッパーとミッドソールの結合をかなり丹念に仕上げているため、アウトソールの結合の方は簡略化しても問題ないだろうという設計思考だと理解できます。この辺り、実際の仕様を体感すると結構合理的なその考え方に納得できます。
かなり大変な作業でしたが、アッパーとミッドソールの結合を分離できました。
分離したミッドソールです。360°縫い込み結合なので耐久面は非常に高いはずです。
とりあえず、ここまでの分離です。左から、アウトソール、ミッドソール、アッパーです。普通ならこれでおしまいなのですが、今回は「ザ・ポンプ」です。ここからポンプシステムも分離してみます。
ちなみに、ポンプシステムに関しては今回のものではまだ生きて(正常に作動する)いました。
シュータン部分のエアブラッダー(空気を注入する袋)を取り出した状態です。上下端部分はシュータンにミシンで縫い込まれていました。
エアブラッダーのシュータンの内足(足の内側)部分がアッパー内部につながっており、そこから内側のくるぶし、かかと、外側のくるぶしを包み込む構造となっています。
少し分かりにくいですが、かかと部分のエアブラッダーはかかと部外側のバルブ(空気を抜くときのバルブ)とチューブで繋がっています。
エアブラッダーを完全に抜き出した状態です。左部分がシュータン内蔵部分、その隣が内足、さらに外足に内蔵されている部分ですべて繋がっています。内足と外足が繋がっているくぼみの赤い印部分がかかとのバルブです。
あともう一箇所気になる点である「エナジーリターンシステム」の解体です。これ自体はミッドソールに埋め込まれていますが、その上に透明なプラスチックパーツがかぶせてあるので、それを外します。
プラスチックパーツを外したところです。内部に何が入っているのだろう?と触ってみると、その触った跡が元に戻らず、まるでカステラに力を入れて押してしまったかのような、、、
そうです、この部分は加水分解していました、、、
加水分解しているので、ざっと触るともうボロボロです。見た目的に中が空洞になっているホース状のチューブが配置されていると想像していたのですが、この部分はウレタン素材の個体パーツが配置されていたみたいです。詳細は不明ですが、最も加重のかかるかかと部分にミッドソールの他の部分とは違うコンパウンド(配合)のウレタン衝撃吸収材を配していたのがエナジーリターンシステムだったと理解しています。
最終的な分解パーツです。
上段がエアブラッダー、下段左から、インソール、アッパー、ミッドソール、エナジーリターンシステムのカバー、アウトソールです。
ポンプの部分は若干複雑でしたが、基本構造はやはりシンプルです。
なお、ポンプのエアブラッダーを取り出すのは一苦労だったのですが、伝説として1989年のクリスマスに合わせて発売予定であったザ・ポンプは、発売直前にポンプシステムの不良が発見され、社員総出で配送センターに行き、シュータンの縫い目をほどき、ブラッダーを直し、またブラッダーをシュータンの中に入れ戻した後にシュータンを縫い直すという作業を何千回も繰り返し販売日に間に合わせたという逸話があるのですが、これ本当なのかどうか、、、一足のブラッダー出すだけでも相当大変だったので、この話は事実なのかどうか機会あれば確認してみたいものです。
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