『経営者』永野健二(新潮文庫)

ブックライター塾で仲良くしていただいた同期生の大野貴史さんから、お薦めいただきました。

話題作『バブル』で大注目の「伝説の記者」が目撃した壮絶なるドラマ
なぜ今、日本を代表する企業で不祥事や内紛が相次ぐのか。戦前のカネボウから現在のソフトバンクまで、日本をリードしてきた企業の栄枯盛衰と、その企業の命運を決した経営者達の決断と葛藤を描き、日本企業と日本の資本主義のあるべき姿を問う。

登場するのは、土光敏夫、中内功、小倉昌男、藤田田、稲盛和夫、鈴木敏文、出井伸之、柳井正、豊田章男、孫正義といった、著名な経営者たち。この顔ぶれを見ただけでも、興味津々ですね。もちろん、中味も期待に違わず、著書にしか書けない内幕話が次から次へと書き連ねられており、瞠目の連続でした。しかし、本書の真骨頂はそういった暴露話ではありません。

その魅力は、あとがきに書かれている通り、『渋沢資本主義』と名付けた、「会計」と「市場」から「経営」を考え続ける視点から見た、冷徹なまでの経営者に対する評価です。

あるころまでは経営者の意識の中に確かに息づいていた、国家や社会の利益に対する想い、高い倫理観や理念といったもの、すなわち『渋沢資本主義』は、バブルの崩壊とともに消えていきました。経営者は、「いまだけカネだけ自分だけ」の刹那的な世の中にあって、自らの利益の拡大だけに邁進している、と指摘しています。

その観点から高く評価されるのは、小倉昌男と稲盛和夫だけです。三菱、東芝、トヨタ、ソニーといった長らく日本を代表してきた企業には、私の感覚的には「罵倒」に近いトーンで厳しく糾弾しています。この20年の有力な経営者としてピックアップした柳井正、孫正義についても、
「柳井正が中内功の晩年に似てきたと思うのは私だけだろうか」
「近年の孫正義の行動に、何か投資抑制の制約が吹っ切れてしまった狂気を感じるのは私だけだろうか」
と全く同一の文末で、切り捨てています。

 そして、私が尊敬してやまない稲盛さんに対しては、“手放しの絶賛”と言っても過言ではない筆致で綴っています。
 「稲盛の哲学と現実の人生は、日本の資本主義が生き残る上で、そして「会社」がそのエンジンであり続けるための「一つの道」を指し示している」
 そこまで言うか。稲盛びいきの私でさえ、引いてしまうほどの“全面礼賛”ですね。我が意を得たり、と、全面的に共感しました。

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