見出し画像

~赤い悪魔の現在地~ プレミアリーグ第27節 マンチェスター・ユナイテッドvs ワトフォード

今回はマンチェスター・ユナイテッド対ワトフォードの試合を分析しつつ、ユナイテッドの現在地を読み解いていこうと思います。本文に入る前にSNSでの拡散、フォローの方よろしくお願いします。両チームスタメンはこちらです。

画像1

Ⅰ、合理的なビルドアップ

まずはユナイテッドの攻撃面から見ていきましょう。この試合ではワトフォードの4-4-2に対して右肩上がりの3バックを採用してきました。図で表すとこのような形です。

画像10

ショー、マグワイア、リンデロフの3バック。幅はジェームスとワンビサカが担当。グリーンウッドが右サイドから中央に入っていき、ブルーノは主にピッチ左側を縦横無尽に動いていました。3バックにすることで相手2トップに対して1人フリーマンを作ることができ、序盤は相手プレスに混乱していたものの、30分過ぎくらいからはかなり容易にプレスをかわして前進することができていました。

中盤では3vs2の数的優位が大いに作用していました。図は16:25のシーンです。

画像3

ワトフォードの2トップはボランチのコースを切りながらCBにプレスを掛けにきます。そこを3バックで突破すれば、ユナイテッドの両ボランチ+トップ下の3人に対してワトフォードは2人のボランチで対処しなければなりません。そうなるとこのシーンのように誰か1人(この場合はマティッチ)がフリーになり、余裕をもってゲームを展開することが可能になります。

ユナイテッドに関係はないのですが、ここで触れておきたいのがピアソン監督の修正です。どんな修正を施したのかというと、ディーニ―のプレスバックです。前半28分、ピアソン監督とディーニ―が何か話している様子が映ります。ここで修正の内容を伝えたのでしょう。実際にこの後2度にわたってディーニ―のプレスバックからボール奪取に成功しています。修正は的確であるだけでなく、そのスピードも同じように重要なんだと感じます。

Ⅱ、無駄の多い崩し

さて、ビルドアップで前進に成功すると次は崩しのフェーズに入っていきます。見出しにもあるように、ユナイテッドの崩しにはかなり無駄が多かったです。要点を2つにまとめます。

①整理されていない役割分担
②裏への駆け引きをしない前線

具体的にどういうことなのか、1つずつ解説していこうと思います。

まずは①整理されていない役割分担について。特にこの現象が顕著に現れていたのが左ハーフスペースです。役割分担が確立されていないためハーフスペースに人がいない時もあれば、複数人で重なってしまう時もありました。9:25のシーンではハーフスペースに人がいない時の効果が露呈しています。

画像4

マティッチから幅を取るジェームスにボールが渡りますが左ハーフスペースに味方がいないため内へのサポートが全くありません。無理にドリブル突破をしてカウンターを受けるわけにもいかないので、結局守備ブロックを崩す手段がなくなり攻撃が停滞します。では、もしハーフスペースに味方がいたらどのようになっていたのか。

画像10

このようにハーフスペースに走りこんでくる味方にパスして折り返しのクロスを入れることができますし、パスを選択しなくとも走りこむ味方に相手がついていくことでカットインするスペースが空いてきます。このようにハーフスペースに人がいることによって様々な好循環が生まれます

逆に同じスペースを複数人で狙ってしまうことも多々ありました。例えば2点目直前57:43のシーン。

画像6

ここではショー、ジェームス、マルシャルの3人が同じスペースをめがけて走っています。得点にはつながったものの攻撃においての役割が整理されていないことがよくわかります。同じスペースを狙ってしまうとパスの出し手に1つの選択肢しか与えられなくなりますし、守備をする方にとっても選択肢が限定されているので守りやすくなります。実際にこのシーンで右SBのスペースをカバーしているカプエは1人でジェームスとショーの2人に対応できてしまっています。ジェームスかショーがサイドに張るだけでカプエに2つの守備の基準点を与え、迷いを生じさせることができます。一見上手くいったように見えるシーンでも見方を変えると少し不安点が残ります。

続いて②裏への駆け引きをしない前線について。ユナイテッドの前線の選手は味方がボールを出せるタイミングで裏への駆け引きをせず、手前で受けようとします。例えば9:17のシーン。

画像7

ユナイテッドの前線にはボールを持つことで持ち味を発揮する選手が多いためか、後ほど紹介するブルーノ・フェルナンデス以外は皆手前で受けようとします。裏への駆け引きというよりかは自分のマークを外す動きが非常に多いです。そうすると相手全体のDFラインが下がらないため奥行きが作れませんし、最終的に狙っているゴールを背にプレーしなければなりません。奥行きが作れるとライン間が空いてくるので手前で受ける時にスペースと時間を確保でき、持ち味を発揮しながらゴールに向かったプレーをすることができます。現在のユナイテッドには裏へ駆け引きをする選手とライン間で受ける選手のバランスが欠如しています。

結局引いて守ってくる相手に対してはビルドアップがいかに上手くいこうとも、崩しの精度が高くないと点はとることはできません。よく下位のチームに対して勝ち点を失ってしまうのはこのためでしょう。

Ⅲ、全てをこなすブルーノ・フェルナンデス

公式戦8戦無敗(3/1日現在)と好調のユナイテッドを支えているのはやはりこの男、ブルーノ・フェルナンデスでしょう。この試合ではユナイテッドのすべての攻撃に何かしら関与していたのではないか、と試合後に思わせられるほどの活躍でした。戦術的にどのような良い影響を与えていたのか解説していこうと思います。

まず、前述したユナイテッドの崩しにおける2つの問題点(①整理されていない役割分担、②裏への駆け引きをしない前線)を解決してくれるようなアクションを起こします。4:58ではポジショニングを微調整しながらハーフスペースで受ける動きが見られますし、8:34ではCBの死角を突いて裏に駆け引きをしています。後者の動き出しには相手右SBがつられるので大外で張っているジェームスをフリーにするという効果もあります。

ブルーノはこれに加えてワトフォード守備陣の弱点をあぶりだすようなパスをだします。ワトフォードは4-4-2でボールのある位置に合わせてスライドし、相手をブロック内に入れないような守備でこの試合に臨みました。CLのレアルvsシティ戦でシティが採用していたのと似たような守備です。この守備を攻略するにあたって重要になってくるのがサイドの揺さぶりです。サイドに揺さぶることによって相手守備ブロックをスライドさせます。すると、スライド中に選手の間にギャップが空きます。そのギャップを突いてブロック内に侵入するのです。1度の揺さぶりで守備ブロックに乱れが生じない場合は2度3度と揺さぶりを繰り返すことで選手間のギャップを作り出します。ブルーノは主にピッチ左よりでゲームメイクをしつつ、右サイドへのサイドチェンジも頻繁に行っていました。

画像8

この他にも相手サイドハーフとボランチの間に流れてきてビルドアップの手助けをするなど、ブルーノがユナイテッドの攻撃には欠かせない人物であることがよくわかります。ただし、ブルーノ1人で効果的な動きをしたとしても、それがチーム全体に与える影響の範囲は限られてきます。スールシャール監督にはチーム全体の攻撃整備をするとともに、ブルーノにできるだけ多くの選択肢を与えられるようなチーム作りが求められるでしょう。

Ⅳ、4-2-3-1で囲い込む守備とその不安点

見出しにもあるようにユナイテッドはこの試合で用いたのは4-2-3-1で囲い込む守備です。

画像9

トップのマルシャルが片方のサイドに誘導、トップ下と左右サイドハーフの3人でスライドし、相手が縦に急いだところを狙いボールを奪います。実際にこのプレスがワトフォードに対してハマるのですが、試合を通して時折不安要素も見受けられました。それはサイドハーフの絞りです。

画像10

サイドハーフが絞っていないことにより、人数を掛けていない逆サイドにパスを通されプレスが無効化されてしまします。今回は相手選手たちのプレス耐性が低くかったこともあり図で示しているような1つ飛ばすパスがあまり見られませんでした。しかし、ビッグクラブ相手だと各々のプレス耐性も高くなりますので、上位のチーム相手にもこの守備の仕方で臨んでくるのか、そしてその守備がハマるのかは今後の注目ポイントになってきそうです。

Ⅳ、総括

今回の記事ではユナイテッド対ワトフォードを分析しつつユナイテッドの現状について分析していきました。これまで述べたことを端的にまとめます。

Ⅰ、合理的なビルドアップ
・相手2トップに対して左肩上がりの3バックを採用
・中盤で3vs2の数的優位
・ピアソン監督の修正力
Ⅱ、無駄の多い崩し
①整理されていない役割分担
・ハーフスペースをとる人がいない
・ハーフスペースをとることによる好循環
・同じスペースを複数人が狙うことで攻撃が停滞

②裏への駆け引きをしない前線
・奥行きが作れない
・手前で受けようとしてしまう前線
・下位チームに対して勝ち点を落とす理由
Ⅲ、全てをこなすブルーノ・フェルナンデス
・ビルドアップの手助け
・相手守備陣の弱点を突くパス
・スールシャールに求められること
・ユナイテッドの崩しにおける2つの問題点を解決する動き
Ⅳ、4-2-3-1で囲い込む守備とその不安点
・ビッグクラブ相手に通用するのかどうか
・スライドに合わせて絞ってこない逆サイド

現在のマンチェスターユナイテッドは合理的なビルドアップや4-2-3-1で囲い込む守備をするあたりから相手を分析してそれに合わせた戦術を使ってはいるのですが、然るべき時にハーフスペースに人がいないであったり守備時に絞りが甘いように、最後の細かいディテールの部分が不足しているように感じます。崩しの問題点をどう修正するのか。最大限にブルーノ・フェルナンデスを活かすためにどのような策をとるのか。今後のユナイテッドの動向にも要注目です。

今回は読んでいただきありがとうございました。面白かったよ、って思ったもらえたらぜひSNSで拡散よろしくお願いします。意見などがあればぜひコメント欄、Twitterにドシドシ寄せてください。今後とも記事をアップしていきますので次回も読んでいただけると幸いです。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?