道しるべ (掌編小説)
勇者の卵が、荒野の三叉路で道標を見ながら眉を寄せていた。
【左:魔物の住む森。右:魔物の住む絶壁。】
しばらくたたずみ、どちらへ進むか迷っている様子だ。
そんな勇者を、少し離れた藪の中から覗き見ている小さい魔物がいた。
上役からは勇者に手を出すなと言われていたが、道標を書き換える
位は良いだろう。
何しろ卵とはいえ勇者だ。
強くなって魔王様を害す前に倒せれば、万々歳というものだ。
勇者の卵は心を決めたようだ。
晴れ晴れとした顔で、道のない荒野をまっすぐ進み始めた。
「あれ?」
勇者って魔物に引き寄せられるんじゃないのか?
小さい魔物は仕方なく、真っすぐの道を作って道標を書き換えた。
【左:魔物の住む森。右:魔物の住む絶壁。真ん中:魔物の住む洞窟】
二人目の勇者の卵が、荒野の四叉路で道標を見ながら眉を寄せていた。
しばらくたたずみ、進む方向を迷っている様子だ。
いいぞいいぞ。
どっちへ進んでも強い仲間のいるテリトリー。
勇者の卵なぞひとひねりだ。
しばらくのち、勇者の卵は晴れ晴れとした顔で空を見上げ。
バビューン!
魔道具で空を飛んで行った。
「あれれ~~??」
小さい魔物は知らなかったのだ。
勇者とはとても偏屈で頑固で、人の言う事など聞かない人間だという事を。
でなければ魔王の為に人生を棒に振る『勇者』など、
とてもやってはいられない。
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