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【開催報告】1/29(金)「スナックひとみvol.007」獣医師・開発コンサルタント杉野吉治さん

2021年の第一回目。スナックひとみのゲストには、獣医師で開発コンサルタントの杉野吉治さんが来てくださいました。獣医師としてキャリアを積まれ、現在は開発コンサルタントとしてお仕事しながら全国の獣医師とともに「獣医師×SDGsアクションプロジェクト」で積極的に活動をされている杉野さん。スナックひとみは開発コンサルタントによる異業種交流会なのですが、今回は獣医師の視点から色々とお話をしていただきました。

1. 多岐にわたる日本の獣医師の仕事とは

大学では獣医学科に入り、寄生虫(遺伝子)の研究をしてその後動物病院勤務を経て、JICA海外協力隊でガーナに。帰国後、さらに英国のリーズ大学で公衆衛生学の修士課程を修了、現在は開発コンサルタントとしてお仕事をされている杉野さん。さらに、2020年からは酪農学園大学の獣医疫学分野で社会人博士課程を始めているそうです。

獣医学部は、全国に私立を含めて17大学あるそうで、一学年におよそ1,000人程度の人数なのだとか。全国でも獣医師の数は多いとは言えないようです。

日本で獣医師というと漫画の「動物のお医者さん」のイメージが強いかもしれません。一言で獣医師といっても実に幅広い分野で活動しているそうです。「時代のニーズとともに領域を拡大してきたという経緯があります」と杉野さん。

明治時代の軍馬を診療するということから、畜産の発展、ペットの普及とともに動物愛護などの分野にも広がってきた獣医師の活躍の場。「小動物臨床分野が一番イメージしやすいと思います。全体の40%くらい。あとの6割は違う分野で働いています。公務員も24%、食肉検査や食品衛生検査、動物愛護や社会福祉分野、県営の動物園などで働いています。さらに、製薬会社、食品関係など民間企業にいる場合もあります」その中でも、海外技術協力分野もありますが獣医師全体から見るとマイノリティになるようです。

2. One Healthアプローチ

最近、国際的に認識が高まっている考え方にOne Healthアプローチがあります。

「人と動物の健康と環境の保全を担う関係者が緊密な協力関係を構築し、分野横断的な課題解決のために活動していこうとする考え方」

「マルチセクトラルアプローチに近い考え方です」と杉野さん。単に動物の健康ということでなく、人、動物、環境などを総合的に捉える考え方なのだそうです。

「この中でも、最近メジャーなトピックは、人獣共通感染症と薬剤耐性問題。COVID19は猫などにも陽性反応が出たという話があります。人間が感染する感染症の約7割は人と動物の両方に感染する感染症とも言われます。アプローチの仕方は違うが情報共有が進んでいくといい」また、特に途上国など決められた抗生物質を繰り返し使うことが多く、薬剤の耐性菌が増えてきています。今、国際的な議論の中では途上国において成人病よりも薬剤耐性菌による死因が多くなってくるのではないかとも言われているそうです。

杉野さんがこのOne Healthアプローチへの関心を持った背景には、協力隊としてガーナで活動していたときの経験があるようです。「協力隊のときの勤務先が獣医学研究所で、家畜が何故死んだかを解明する仕事をしていました。ヤギの死因のうち多くがゴミ袋など廃棄物を食べたせいだったりすることも。ヤギがゴミを食べているのはよくある風景です」なるほど、確かに途上国の廃棄物の問題は深刻で、村の中で人と動物が密接に暮らしている環境がありますね。そして、家畜は途上国では多くの人にとって大切な財産です。

「異物を食べて緊急手術するというケースは動物病院でも多くあります。お金やボール、紐を食べてしまうことも。紐を食べるというのは消化管に巻きつくのでとても危険です」

そこで、協力隊の先輩隊員(看護師)が感染症対策・予防啓発していたので、協力して衛生環境の予防啓発をしようということになったそうです。ゴミを捨てないということが感染症の予防になるということをアピールし始めました。

「そこで、自分の中で当たり前だったことが実は当たり前でないこともあるということも知りました。だからもう少し人間の公衆衛生について学んでみようかと思いました」そして英国の大学院へ。

2014年、アメリカの医師バーバラ・ホロウィッツ氏がTEDトークで、獣医師と医師が協力していきましょうということを言ったことは話題になったそう。でも、杉野さんとしては依然としてこういう考え方はまだ浸透していないなということも感じるようです。

3. 獣医師×SDGsアクションプロジェクト

獣医師としてもSDGsはまず考えなくてはいけないことと思うが、獣医師業界では、頭の中ではわかっていても実際の動物病院などでSDGs掲げているところはとても少ないと杉野さんは問題意識を持っています。

そこで、同じ問題意識を持つ獣医師たちと「獣医師×SDGsアクションプロジェクト」を始めました。

「獣医師の活躍はSDGsという共通言語に載せればいいのではと考えて賛同してくれた獣医師と活動しています」

具体的な活動としては、「知る」ということ。まずは情報発信。特定のトピックで専門家に話してもらって勉強会をしているそうです。さらに、「おこなう」として、獣医師の知見や環境を生かした独自指標の設定を検討しているとか。さらには「ひろがる」としてネットワークを広げること。

「これまで獣医師が関わっていた部分以外のところで社会と関わっていくのが、もっと広がっていくことにつながるのではないか。One Healthも現実的に繋がっていくのではないか」と杉野さんは考えています。

現在はFacebookページが中心ですが、巻き込んで積極的な活動を起こしていくのにまだまだ工夫が必要とのことでした。

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(獣医師×SGDsアクションプロジェクトより)

4. SDGsに「動物の健康」や「One Health」はカバーされていない

「SDGsの自分ごと化」も重要な課題という話に。多くの人が、例えば環境など個々の問題への意識はあるが、それ以上、SDGsへ意識がなかなかむきにくいとのこと。

「残念なことに、SDGsの中に人の健康はあるけれど、動物の健康はないんです」

動物愛護の関心は高まっているが、まだ日本だとペットはモノ扱い。その先に行き着いていない部分もあるようです。

動物と結びつけた指標などに取り組んでいる世界の団体もあるそうですがが、獣医師はペットや家畜だけでなく多方面なので、統一するのがなかなか難しい面もある反面、色々な貢献の仕方があるのではとも感じているとのこと。

「今後、獣医師×SDGsももう少し意識調査をしっかりして大きなところに持ちかけたりできるようにしたりしたい。まとめたものを発信や申し入れできると面白いと思っています」

5. 獣医師業界におけるジェンダー課題

お客様の関心を引いたもうひとうの話題に「ジェンダー」がありました。

「ジェンダーも関心がある中心メンバーがいたので、アンケートをとりました。女性側からは、職場における女性差別がある反面、担当の獣医師が男性だと動物が怖がってしまう場合があるなど、なかなかジェンダーの問題は多様です」

現在、獣医師に従事する女性は、全体では3割強。20代から40代だと半数が女性だそう。「歴史的な背景は、今まで畜産系が多く畜産は男の仕事というイメージがあったが、近年はペットブームがきて女性も増え半々になったようです」

6. 身近な問題から国際的な課題、そしてSDGsへ

「身近なことからボトムアップのようにやっていってもらえるといいなと思っています。例えば国内では、都市部など台風で避難勧告があったところでもペットと一緒に避難ができないという問題もあります。そういうところから問題意識を持つ。それを訴えていく上でSDGsは一つの場になると考えています」

さらに、身近な問題といえば「保護猫」「保護犬」があげられるのではないでしょうかと訊いてみました。

「保護犬猫を殺処分するのは獣医師の役割。保護犬猫自体あってはならないことです。公務員などでその職に付いている人もいますが、彼らも動物を助けるために獣医師になったのに家畜として食べる訳でもなく動物が殺されてく様子を目の当たりにしているわけです」動物愛護法は去年改正されたが少しずつ飼い主に対する制限が厳しくはなっているそうです。でも、大切なのはマインドチェンジ。「コロナ禍で動物を飼う方が増えていますが、寂しいからなどの理由で飼うひとも少なくありません。それをどうしていくかは僕らのこれからの課題だと思います。根深い問題もある」

獣医師業界は、可能性はとてもある一方で狭い世界でもあるようです。「なかなか接点がなかったりして活躍の場が広がりにくい環境になっているところもある。活躍する、つまり社会との接点をいかに増やしていくというのも一つの考え方。そのためにSDGsを使うというのはいいのではないかと考えています。獣医師も活躍できるし、SDGsにも貢献できる」

そういえば最初は大学で寄生虫研究をしていた杉野さん。なぜ興味を?「獣医学部獣医学科で研究室に分かれるとき、たまたま入りました。途上国でも顧みられない熱帯病と言われている病気のひとつが寄生虫です。それも海外に目を向けるひとつのきっかけになったかもしれない」とのこと。その後、公衆衛生の世界へ。One Health的な関心があったので感染症の勉強をしていたが、このことで各論を学ぶというのではなく包括的な勉強はできた気がしたとのことでした。

今後、杉野さんはどういう活動を考えているのでしょうか。

「獣医師×SDGsでもう少し活動をうまく乗せ、獣医師の人が関心を持ってくれて、自分ではなく上のひとが関心を持って動いてくれると底上げになっていくのではないかと思っている。そこに対してうまくアプローチをやっていきたいと思っています。今後SDGsの意識調査をやっていきいたいと思い学生さんと一緒にやっています」

なるほど、本来は異業種交流のスナックひとみですが、実は杉野さんは開発コンサルタントの知見もあるからこそ、こういう活動に応用できるという側面もあるのかもしれません。

別の顔を持っている方だからこそ、開発コンサルタントと獣医師の両方として、国際的な課題に向かっていく力となれるのではないでしょうか。今後の獣医師×SDGsアクションプロジェクトの発展がとても楽しみになりました。

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■ゲスト

杉野吉治さん

獣医師/開発コンサルタント(保健・医療)

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「動物を助けたい」。そんな純粋な想いを胸に田舎の町で育った少年は、夢叶い動物のお医者さんに。動物病院で働くも、いろいろあっていつの間にか国際協力の道へ。

「動物も人も環境も健康に」というOne Health 、そして持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を通じ、昨年生まれた娘の世代が一人でも多く希望を感じられる未来にしたいと思う一児の父。

SDGsへの貢献を通じて獣医師自身も成長し、活躍の幅や可能性を広げることを目的とした獣医師×SDGsアクションプロジェクトを獣医師・学生の有志で運営中(現在FBグループのみ)
最近自分がHSS型HSP気質に強くあてはまることが判明したため、そのあたりも勉強中。

keyword
動物のお医者さん、Onehealth、動物全般、寄生虫、SDGs、HSS型HSP気質、子育て、趣味多め、世界遺産検定一級

獣医×SDGsアクションプロジェクト
https://www.facebook.com/groups/276408150427913

株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング
https://www.k-rc.co.jp/

===スナックひとみとは===

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国際協力のお仕事に従事する開発コンサルタントであり、
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