見出し画像

【雑記】話題のロックリー トーマス本(じゃない方)を読んでみた【弥助】

よく槍玉に上げられているのは、「信長と弥助 本能寺を生き延びた黒人侍」(ロックリー・トーマス著、太田出版)


しかし、今回読んだのは、「英語で読む 外国人がほんとに知りたい日本の文化と歴史」(ロックリー トーマス著、東京書籍)

ゲーム「アサシン クリード シャドウズ」を発端とするいわゆる弥助問題で話題になっているロックリー トーマス氏(本人の希望で、日本式に姓名の順で表記しているとのこと)
戦国時代に日本にいた黒人弥助が、外国で知られるようになり、アニメ映画ゲームへと展開されているのは知っていたが、この人の存在は知らなかった
しかし、外国で弥助が広く知れ渡ったのは、氏の英文著作が一因であるのはまず間違いないであろう

そこで、興味にかられて氏の本を読んでみた
自分は日本史の専門家でもなく、一次史料で論破するまでの気概もないので、一般日本人の視点から気になったところにツッコミを入れていく感じで行きたい


事前に

予め明言しておくが、犬笛を吹いて個人攻撃をするようなつもりは全くない
本書は、総体的に見ればいい本である
多少不正確な(少なくとも一般日本人にはそう感じる部分がある)だけで、日本を貶めてやろうとか、悪意のあるものではない
日本が好きでないなら、労力をかけてここまで広く日本の文化歴史を英文+和訳で解説し、300頁もの本にする気にはならないはず
あくまでお互い言論の自由の中で、本に記載された事実等に言論として主張反論すべきで、無用な誹謗中傷、人格攻撃はやめましょう


本の構成


一言で言うと、英文+和訳で日本の文化歴史に関する雑学を解説する本
英語で日本を知りたい外国人、日本を英語で説明したい日本人、両者に向けた本で、どちらかと言うと、日本人の英語学習書の側面が強い
構成は、特定のトピックスに関する英文→和訳、当該トピックスに関する予備知識、トピックスに関係する外国人からよくある質問例
予備知識、質問部分も含めて英文和訳併記となっている


弥助関係

「中世の日本で最も強かった男 
 弥助
 昔の日本の中で最も大きく、最も強かった男は実は日本人ではなかったと聞くと驚くかもしれません。弥助という名のその男は、1579年にヨーロッパ宣教師の護衛としてインドと中国を経由して来日したアフリカ人でした。」
 「弥助は、身長188cm、その剛力は十人力とも言われていました。そして容姿端麗で愉快、賢い人物だったと伝えられています。信長は弥助を身近に置いたとされますが、恋仲であったという説もあります。彼はすぐに昇進し、歴史上初めて外国人として侍の身分が与えられました。彼にはお金や刀、信長の屋敷内にある家、そして下人も与えられました。」

本書237頁

「信長のお供として参加した戦では信長の護衛として彼を守り、二人は友情を深めました。」
「信長は切腹しましたが、自分の首が敵の手に渡らないよう弥助に命じました。アフリカの侍はそこからなんとか逃れましたが、後に捕えられました。しかし伝説によれば妻と子どもと幸せに暮らしたそうです。」

本書239頁

英文部分も引用しないと、外国人である著者本人の正確な意図ニュアンスが伝わらないかもしれないが、以下すべて最小限、日本語部分の引用にとどめている。より正確な意図ニュアンスを知りたい場合、本書で確認を

この辺は結構論争になってますね
ネット上で、一次史料から詳しく反論している人もいるので、そちらを参照

「16世紀の日本には用心棒や水兵、使用人として、また商人として300~1000人のアフリカ人が住んでいました。」

本書240

どうなんですかね?
フィリピンなど東南アジアの日本人より肌が褐色の人まで広く含んでいるような気もしますが

「弥助は信長のお供として2、3の戦を経験しています。一つ目は信長が複数の忍者に襲われた時、二つ目は信長が富士山周辺の地域を制圧した時、三つ目が本能寺の変です。弥助の主な役割は信長の護衛と、国外の事柄についての助言でした。」

本書243頁

アサクリ シャドウズでは、弥助と敵忍者が戦うんでしょうね
弥助は、1年ちょっとで信長に助言できるほど日本語ができたのか?(追記:「信長と弥助」を読むと、氏は、弥助は信長に合う前の2年間、九州で過ごしていたと解釈している)
そもそも黒人奴隷であった弥助が、信長に助言できるほどに国外の事情に通じていたのか?

追記:「信長と弥助」を読む限り、ロックリー氏は、氏なりにできる限り日本語ポルトガル語の史料から、自分なりに弥助の生涯を解き明かそうとしている
たとえそれが推論に推論を重ねる「歴史小説」にすぎないとしても、本人が一生懸命考えてそう結論付けたのであって、学問的に不誠実という話ではない
やはり、あくまで歴史的事実を歴史論争として主張反論すべき


鎖国の理由

「この政策がとられた主な理由は、国家に多大な損害を与える日本人の海賊行為をやめさせることでした。キリスト教の布教を禁じたのは、日本の神聖な場所での破壊行為など社会問題を引き起こすからでした。また銀と銅の生産量が減ったため、政府 (幕府) はこれらの海外流出を制限したいと望んだのです。」

本書87頁

一番の理由が、日本人の海賊行為(倭寇)の禁止?
むしろ、キリスト教禁止の方がメインな気が

前期倭寇は、文字通り日本人による海賊行為
しかし、それが日本「国家に多大な損害を与える」ということはない

それなら、後期倭寇の取り締まりということになる
確かに、後期倭寇は、中国人をはじめ外国人を主として密貿易をしていた
それを取り締まって、日本国として貿易利権を取り戻すという意味なら分かる
善解するとそうなるが、少し説明不足


日露戦争

「1904年、ロシアは中国北部と朝鮮半島に勢力を広げつつあり、日本にとって大きな脅威でした。日本は、自国に不足している天然資源を確保するために朝鮮半島を支配下に治めようと目論んでいました。」

本書93頁

朝鮮半島の天然資源を巡って日露で戦争になったとでも言いたいんですかね?
少なくとも当時は、朝鮮半島に戦争にまで発展するようなすごい天然資源は発見されていないと思うのだが
むしろ日本側が、銀や銅を朝鮮半島に輸出していたくらいだし
朝鮮半島に日本がぜひとも手にしたい天然資源があったなら、国家として困窮し、最終的に日本に併合されることもなかったのでは?

日本では普通、不凍港を求めて南下してくるロシアの脅威を防ぐという安全保障の目的が主たる理由とされている
その背景には、アヘン戦争後、欧州各国により分割植民地化された中国の有り様を見ての恐怖感があった
安全保障の状況は、中国ロシアに支援されている北朝鮮の南下を防ぐため、韓国を(日米同盟を通じて間接的に)軍事支援している今とそれほど変わらない

とんかつ

「カツはドイツ料理のシュニッツェルにヒントを得て19世紀に誕生しました。」

本書174頁

とんかつは、フランス料理のコートレットが元だと聞いたが?
コートレットが訛ってカツレツ、豚(トン)のカツレツでとんかつ


朝鮮出兵と豊臣家滅亡

「この悲惨な戦いの中で何千という朝鮮、中国、日本の兵士たちの命が失われました。朝鮮は荒れ果て、中国は弱体化し、日本でも豊臣家が滅亡へと追い込まれたのでした。」

本書205頁

朝鮮出兵のせいで豊臣家が滅亡?
まず、秀吉自身の死は、朝鮮出兵とは関係ない
その後にかなりの紆余曲折を経て最後、大坂夏の陣で豊臣家が滅びる過程を見ていると、朝鮮出兵が原因で豊臣家が滅びたというのはどうかと


読後の感想


取り上げたところ以外でも、屋台と出店の混同など細かい部分で多少違和感を感じるところはあった
ただ、上にも書いたが、外国人との交流に備えて英語で日本の文化歴史を紹介したい日本人、英語で日本の文化歴史を広く知りたい外国人向けのものとして、本書は総体的に見ればいい本
悪意があるというより、外国人だし、一次史料を自ら読み込んで突き詰めて日本の歴史を研究してきた人でもないし、(追記:「信長と弥助」を読むと、弥助関係では一次史料まで検討している。ただし、書いている内容は、本人の推測に基づく仮説を多々含む。)少し不正確だよね、という感じ
あくまで一般書籍であって、専門書ではないし

もう一度言うが、あくまでお互い言論の自由の中で、本に記載された事実等に言論として主張反論すべきで、無用な誹謗中傷、人格攻撃はやめましょう

これから「信長と弥助 本能寺を生き延びた黒人侍」(ロックリー・トーマス著、太田出版)の方も読むが、記事は書かないかな(ネットで「専門家」による一次史料を駆使したすさまじいバトルが繰り広げられているし、書くこと多そうだし)・・・


以上


よろしければサポートお願いします!