「ポートフォリオ」「実績公開」はイラストレーターにとって何なのか、の話
暑いのは苦手ですが、さすがに雨が降りすぎて自家トマトみたいに病気になりそうです(今シーズンのトマトは史上最悪)。生活は無事とはいえ、野菜にも厳しい。梅雨明け待ち遠しい。
さて、ポートフォリオと実績公開の話です。これも最低これだけは書いておこうと考えている記事のうちのひとつなのですが。わたしはほとんどの場合必ずこれを確認します。特に直接受注においては、実績公開が不可でもポートフォリオ利用だけは許可いただけることを基本条件にしています。(※もちろん、内容的に無理なものもありますが)
「それって何がしたいの?」「どういう狙い?そんなに必要なもの?」
……と思われることもあるのかな、ということで書いてみます。どうなんでしょうか。一般の方にはあまり耳慣れない言葉かもしれないですし、わたしはイラスト発注経験のない方でもできるだけご要望はお受けしたいと思っていますので。
もしかすると「公開許可するとあとで何か良からぬ影響が?」と不安になるかもしれません。とりあえず断っておこう、とか(笑)。でも、依頼側にもけっこうメリットがあると思っています。
ポートフォリオは作品集。絵描きにとっては実績のすべて
ポートフォリオは作品をまとめたものです。美大生も常に作っていますし、就活用や営業用などターゲット別に作ったり、プリントして手作業でファイリングしたものから印刷製本する場合までありますが、現在はページ数や印刷代を気にせずネット上にたくさん画像を置けるのでとても便利ですね。
イラストレーターに限らず、作品をつくる職業は作品で次の仕事を取ります。こんなの作れます、と実際に見てもらうことで合う・合わないやできる・できないを判断してもらいます。逆に口先だけで「描けます!」とか言われても信用する材料にはならないですよね。案件によって求められるものも違うので、数も種類も多ければ多いほど良いのです。
そして、実績公開は具体的にどこでどういう仕事をしたかを公表することです。「○×プロジェクトのキャラクターを作りました」「△□会社のサイトのメインビジュアルを描きました」などですね。大きな案件ではやはり信用アップにつながりますが、とはいえお相手のネームバリューだけで上がる信用というものは限度があると思いますし(少なくとも自分は企業でも個人でも全力でやりますし……)、まあ「仕事というのは嘘じゃないんだな」とか「規模の大きな案件の経験もあるんだな」といった、どちらかというと補助的な信頼要素ととらえています。作品ビジュアルと合わせてこそ意味があると個人的には考えているので、わたしの優先順位はまず「ポートフォリオ」です。もちろん、両方許可いただければベスト。
また、実績公開できるということは当然フォロワーや身内への宣伝もできることになります。一見拡散力がなさそうでも、少ない繋がりのなかに拡散力を持つ人やオフラインの知人が多いひとがひとりふたりいれば案外3桁4桁以上の宣伝になる場合もあるので、草の根宣伝効果がほしい場合はそういったメリットも得られる可能性があります。
デザインとも、シンプル系イラストとも違う、絵描き系ならではの重要度
わたしがネットでイラスト受注を始めるにあたっては、まずポートフォリオに使えるサンプルをごりごり描くことから始めました。それと並行していろいろ案件にもアタックしつつ、それをきっかけに、エントリー用にまたサンプルを増やしたり。
依頼してもらう・信用してもらう材料はもちろん他にもありますが、やはり一番強いのは実際の作品と言えるでしょう。ネットでやりとりする場合は特に、作者の容姿や肩書きの情報はあまり先行せず主に作品で評価してもらえるので、個人的にはこれは気持ちのいいことだなと思っています。
裏を返せば、せっかく仕事をしてもポートフォリオに載せられないと確たる証明がなにも残らないことにもなります。これは痛いです……。クラウドソーシングでは案件ごとの評価が残ってくれたり、運営もいろいろそういった工夫はしてくれていますが、それはどちらかというと人間的信用の強化であって仕事内容の証明にはなりにくいです。特にイラストの場合は画風や手法などデザインよりもさらに幅が広く、依頼主が依頼したい仕事にマッチするかどうかはなかなか判然としません。また、自分のようにひとつひとつの作品が複雑・描き込み要素が多いなど、時間がかかるタイプのイラストが多いと制作数が増えにくいので尚更なのです。
隙あらば純粋なサンプルもいつでも増やしたいのですが、手の込んだものを描こうとするとその分ほかの仕事やプライベートに充てる時間を削ることになるし、簡単ではなかったりします。(……あと気軽に趣味の絵も描きたいし……)
ポートフォリオ利用を許可したほうが依頼者にも利点があると言える理由
絵描きの心情から想像してみるとどうでしょうか。
「これ描き終わっても、自分がやったことは言っても見せてもだめだからね」
と条件がついていた場合……モチベーションは上がりにくいと思うんですよね。言い換えると、名前が出ないことは気楽さがあるんです。担当者のOKさえ出れば良いので、そこをクリアすることだけ考えればいいわけです。もちろんひとつひとつすべて猛烈に熱意をもって取り組む人もいるでしょうし、これに関われるならそれだけで幸せ!という場合もあると思いますが。
「もうちょっと手も入れられるけど、要求はクリアしているからこれでいいな」とか、場合によっては「ああ、ここちょっと違ってるかもしれないけど……まあまず気付かれないところだしいいか」とか思ってしまうかもしれないですよね。
実際問題、仕事として制作をするとペース配分は大切ですし、必要ラインを超えていれば・クライアントが納得していればそれで合格です。(ブラック労働は禁物)しかし、得てして絵を描くような人間は作品に自意識もプライドもあるもので、日々もっといいものを描こうと変化しつつも、絵描き仲間や自分の憧れる作家に見せても「いいね!」と言ってもらえるような作品を描きたいわけです。
実績公開もポートフォリオ利用もできない仕事は、手を離れれば基本はそれきり。対して、ずっと残せる作品はそうはいかない。つまり、ポートフォリオ利用を許可すれば、描き手にはより責任感が増し、モチベーションが大幅にアップするはずなのです。
これって、依頼主にとってはなかなかお得じゃないでしょうか?少なくともわたしはかな~りいいプレッシャーを感じます(笑)。
ですから、イラストレーターの能力を引き出したい、がんばってほしい!と思うなら、ポートフォリオ利用や実績公開は差し支えない範囲で許可するのがいいと思います。もし、案件の内容や諸事情からいずれも不可の依頼をする場合は、そのぶん予算を考慮するとか、クラウドソーシング経由ならしっかり信頼につながるようなコメント付き評価を残してあげるとか、そういうことを考えてもらえると嬉しいと思います。
ちなみに、
はじめから権利もクライアントにすべて渡る前提で、名前の出ない分業体制の下請け作業(ゲーム関連とか。相手も発注慣れしているので指示内容がはっきりしていて楽)などはわたしの中で「決められた範囲だけきちっとやる仕事」で、スケジュールに余裕のある部分に入れるとちょうどいい案件、という感じです。こればかりをやるのは辛いですが、ほどよく織り交ぜていければいいなというところです。
とはいえ現実にはそうそう理想のバランスになどならないので偏っているし、自分はまだまだ安定には至らないのですが。あと、セーブ苦手で絶対気付かれないところまでついついやりすぎるほうの性格なので、なるべく指名買いのお仕事でやっていきたい……!ところではあります。