赤ちゃんのうつ伏せ寝と日本の財政 〜「家計に例える」に潜むパターン化本能とは!?〜
“人間はいつも、何も考えずに物事をパターン化し、それをすべてに当てはめてしまうものだ。しかも無意識にやってしまう。偏見があるかどうかや、意識が高いかどうかは関係ない。人が生きていく上で、パターン化は欠かせない。それが思考の枠組みになる。どんな物事も、どんな状況も、すべてをまったく新しいものとしてとらえていたら、自分の周りの世界を言葉で伝えられなくなってしまう。 “
『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング著)より
さて、突然ですが、赤ちゃんをうつ伏せに寝かせてはいけません。
子育て経験のある方ならご存知のことかと思います。
子育て世代の味方、西松屋さんのサイトでは、赤ちゃんのうつ伏せ寝が危険である理由として、①窒息の恐れがあること、②乳幼児突然死症候群のリスクを高めることを解説しています。
https://www.24028.jp/mimistage/childcare/606/
厚生労働省も、うつ伏せ寝を避けること、つまり仰向けに寝かせることを推奨しています。
今では常識となっている「赤ちゃんのうつ伏せ寝はダメ」ということ。
しかし実は、「赤ちゃんのうつ伏せ寝」が推奨されていた時代があったことをご存知でしょうか?
冒頭に引用しました、ハンス・ロスリング著『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』という本にその経緯が書かれています。
医療関係者の方や、救命処置を学んだことのある方はご存知かと思いますが、意識障害がある患者の応急処置などにおいては、うつぶせの「回復体位」が世界標準となっています。
これは、患者が自身の吐瀉物で窒息しないようにするためです。
1970年代、この「成人の」「意識障害のある患者(または負傷した兵士など)」に適応すべき「うつ伏せの回復体位」が、当てはめてはいけないケースにまで当てはめられてしまいました。
「赤ちゃんは吐いて窒息してしまう危険があるので、あおむけに寝かせてはいけない、うつ伏せに寝かせたほうが良い」という指針が出たのです。
赤ちゃんも救命が必要な患者も、いっしょくたに考えられてしまったのです。
その結果、赤ちゃんの突然死は減るどころか増えていきました。
それを初めて指摘したのは香港の小児科医のグループで、1985年になってからでした。
そして、スウェーデンの医学界が間違いを認めて方針を変えたのは、それから7年も経ってからでした。
“意識のない兵士は、あおむけに寝かされると自分の吐しゃ物で窒息してしまう。だが、意識のない兵士と違って、寝ている赤ちゃんは反射神経がきちんと働いて、あおむけでも横を向いて吐き出せる。しかし、筋力がまだ十分に発達していない赤ちゃんの場合は、うつぶせになっていると、自力で重い頭を反り返らせて気道を確保することができない(とはいえ、うつぶせがあおむけよりも危険な理由がすべて解明されているわけではない)。 “
『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング著)より
これは、「救命が必要な患者」に適応できる考え方を、「他の例にも当てはまる」と思い込み、「赤ちゃん」に用い悲惨な結果を生んだ例です。
このような、「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込みを、ハンス・ロスリングはパターン化本能と呼んでいます。
間違った思い込みをやめ、事実に基づく世界の見方を手に入れるために、自覚し、乗り越える必要のあるものです。
現代日本にも似たような例があります。
それは、「日本の財政を家計に例えること」です。
個人や世帯の家計と国(政府)の財政は同じではありません。
それぞれ経済主体として有している機能が異なります。
ですから、「家計に適応できる考え方が、国(政府)の財政にも適応できる」と思い込んでしまうのは危険なのです。
パターン化本能による思い込みで事実に基づかない認識をしてしまうと、うつ伏せ寝の推奨で赤ちゃんの突然死が増加した時のように、悲惨な結果を招くかもしれません。
日本の財政を家計に例えてしまっていいのか?
それで「借金」に関する方針を決めてしまって良いのか?
パターン化本能に自覚的になり、考え方を見直す必要がありそうです。
実際、国の経済・財政政策は人の生死に関わります。
私たち主権者である国民一人一人が国の経済・財政政策について考え、手を取り合い、声をかけ合いながら、より良い社会を創っていきたいですね。
“健康より財政を優先させると、国の発展にとって最も重要な資源──すなわち国民──に危害が及ぶのである。”
“どの社会でも、最も大事な資源はその構成員、つまり人間である。したがって健康への投資は、好況時においては賢い選択であり、不況時には緊急かつ不可欠な選択となる。”
『経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策』(サンジェイ・バス 、デヴィッド・スタックラー著)より
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