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夢に生きる者共の

窓の鍵をしめてから
蛾の存在に気づいた

パタパタと鏡のような
夜の窓ガラスにぶつかるかと思うと
今度は電灯に向かって飛んだ

殺虫剤でころすまでもない
そう思い電灯を消して
布団にもぐった

ずっと独りだった部屋
今夜は蛾の貴婦人がいる

わたしの呼吸を聞いているのか
蛾はどこかにとまっているのか
音もしない

ずっと独りでいた部屋にある
異物感

何かがいるという

どうか真夜中に騒いで
起こさないでくれと願いながら

夢の中に落ちていく
落ちていく

誰も蛾の死は望んでいない
だが夜が明けると

蛾は窓枠のそばで死んでいた
夢の中に入れなかったのだ

いや、わたしの部屋の存在が
夢だったのかもしれない

夢の中で生きられない
哀れな蛾

一晩中夢を見ていたわたしは
鍵を開けると
蛾を放った