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栗の実

家の裏に栗の木があった
もう伐採してしまってないのだが

秋になるとぴかぴか茶色に光る栗が
よく地面に沢山落ちていて
風が吹いて栗が落ちたかなと
思っては裏に廻って
栗を拾っていたっけ

ビニール袋に栗を入れ
屈んでは拾いしていた
あの頃

不思議なことに
あんなかたい筈の栗の実に
穴が空いている
虫食いだ
ずっと、どんな厳めしい鋭い口をした虫が
栗を喰うのかと思っていたら

ある日拾った栗の実をよく見ると
ナメクジがまるくなって吸い付いていた
あのぐにゃぐにゃのナメクジが
かたい栗の実を食べていたのだ

歯なんてあるのだろうか
ナメクジに
きっと時間をかけて
穴をあけていくに違いない

風で揺れた枝から落ちた
イガからこぼれる栗の実

湿った地面から
顔を出したナメクジは
近寄り
吸い付く
一晩かけて
じんわりじんわり栗の実に穴を開け
中身を食べてゆく

虫食いの栗は拾わずにナメクジに食べさせてやる

栗があった
ナメクジとだって栗を分けあって食べていた

あの頃