掴み切れない3歳男子

喘息持ちのハル兄は、最低でも月に1回は病院に行く。

何も症状がなければ、簡単な診察をして決まったお薬をもらうだけなので、
病院へ行くのをぐずることはなく、むしろちょっと楽しみにしている。


名前を呼ばれると診察室に入り、
聴診器で胸と背中の音を聞いて、
最後は大きな口を開けて喉を見てもらう。

診察が終わって待合室で少し待つと、受付からまた名前を呼ばれ、
お金を渡して処方箋をもらう。

毎回同じことを繰り返すうち、完璧に流れを覚えてしまった。

「今日、病院行くでー」と言うと、
「ポンポン、あー」と言いながら、聴診器を胸にあて大きな口を開けるしぐさをし、「いくいく」と乗り気なので病院嫌いにならず助かっている。


先日、お気に入りのウルトラマンのフィギュアを持って診察に行くと、先生が「ウルトラマンやん!」と話しかけてくれた。
なかなかウルトラマンのキャラクターがちゃんと分かる大人は少なく、セブンもタロウもコスモスも一括りに「ウルトラマン」と言われたり、仮面ライダーやレンジャーものと間違われることも多い。

病院の先生は、ウルトラマンがドンピシャ世代なのか、的確にキャラクターの名前を言い当ててくれたので、ハル兄は照れながらも興奮し何とも嬉しそうな表情をしていた。

セイちゃんの病院の付き添いにも、また別のフィギュアを持っていき、
「先生はセブンが一番好き!」と言われると、次の機会にはしっかりセブンを握りしめて持って行った。

病院に入るときには、受付の前まで歌いながら上機嫌なのに、
話し相手になってくれる先生の前では、ニヤニヤしながらフィギュアを見せるだけで自分からお喋りするわけではない。
無邪気なのか恥ずかしがりやなのか、未だに掴み切れないところがある。


保育園の送迎ラッシュの時間帯に、駐車場を整備するおじいちゃんがいる。
園児一人ひとりの名前を憶えていて、車で送迎している親の車種やナンバーまでしっかり記憶しているようなので、駐車場のプロと勝手に呼んでいる。

「おはよう、ハルくん。いってらっしゃい!」
「お帰り、気を付けてね!」
「今日は雨が降りそうやから早く帰り!」
「寄り道したらあかんで」

そんなやりとりも3年目になり、おじいちゃんが忙しそうにしていても
「いくいく!」とぐずり毎回声をかけにいかないと気が済まない。
横断歩道を渡る前から姿が見えると、「あーーーー!」と大きな声を出して、ベビーカーから立ち上がる勢いでアピールする。

こんなに積極的なくせに、いざ対面し「いってらっしゃい」と言われても、
黙ったまま。
「タッチ!」と手を差し出されてもぷいと横を向く。


いったい何なんだ。
あんなに絡みたがっていたくせに。
絶対にハイタッチをしないしバイバイと手も振らない。

照れ屋というか、ツンデレというか、あまのじゃくというか。
しっかり自分の個性を発揮し、大きくなったなと成長を感じる喜びもありつつ、どう出るか分からない3歳男子を相手に、母は未だ翻弄され続けている。




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