もてなしたいねん、本当は。

朝ふと目を覚ますと、向こうはもう半分起き上がっていて、なんだか帰ってほしくなくって、バナナを食べたり、パンを食べたりする。食べてほしいと思ってせっかく作ったポテトサラダも忘れてしまっていたし、一緒に読みたかったマンガも読むのを忘れてしまっていた。目の前にするといつも色んなことを忘れてしまって、ああ今日も何にも出来ない女だった、ふがいなかった、次こそは、なんて思うのだ。

部屋に入るとふわっと香るあの人のにおいが、また嬉しくて。

紅茶をいれて階段をのぼるとき、ふと蝉の鳴き声がきこえて立ち止まる。それはシンクに水が流れる音、勢いよく水道から水が出る時の音、だったのだけれど、蝉がなく頃には、今の生活が終わっていたりするのだろうか。日記に書かれてあった、演劇である以上公演より早い段階から皆が集まって稽古を重ねる必要がある、という言葉を思い出す。私の中の夏は、3月15日の前後で意味が変わってしまった。だから、正直に言って、今年の公演を絶対にこの目で確かめたい、という気持ちと、ええい、この、みたいな気持ちが、多少なりともどちらも存在していることも事実である。5月カレンダーに登録した、稽古開始の四文字を眺める。

晩ご飯どき、ごま油の匂いがする。幼い頃の記憶が思い出される。絵本みたいな月と星がでていた。

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