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「またね。」にありったけの想いを込めて未来永劫への約束。

「勢勝丸漁業は令和6年、passionとexcitingをテーマに1年を精進して参ります。」

大好きだった叔父が死んだ。この言葉は、今年の新年の抱負にと彼が書いたもの。

享年60歳。今年の10月の誕生日で61歳となるはずだった。
静脈瘤破裂(2回吐血)肝硬変、脳梗塞、心内膜炎、コロナ罹患、脳卒中。など、43歳頃からずっと大病と共に歩んでいた。

悲壮感とか、悲観的な雰囲気はなくて、ユーモアと優しさと言葉足らずでぶっきらぼう。シャイな感じが、そのままずーっとある人で、私は、馬が合う人種だった。話すのが楽だったし、楽(らく)と楽しいは同じことなのかもとふと思う。

母の弟にあたる人で。母から聞く話では、様々なことを我慢させられ、断念させれれた人生でもあったようだ。なぜなら、彼が大切な大切な跡取りだからである。彼が生まれた時代はそうだったのだろう。

4人姉弟の末っ子長男。待望の男の子=絶対跡取り。それは、それは、可愛がられたそうだ。その反面自由も奪われていく。

中学生の頃は、柔道に憧れた。しかし、怪我をしては危ないと反対される。でも、どうしても柔道がしたくて、竹筒?のようなものに、「柔道をさせて下さい。」と彫って書いて、その竹筒を願掛けのように、たくさんたくさん部屋中にぶら下げていたそうだ。しかし、思いは断念される。

高校を卒業し、お洒落が好きだった彼は、美容師になりたい!と思った。しかし、それも、「男のなる仕事じゃない」と一蹴される。地元を離れ、都会で暮らしてみたいという思いも、もちろん跡取りなので叶うはずもなく。

幾度となく生死を彷徨う機会があり、何回目かの危機の際に、メッセージを送っていたら、「おいも、一度は都(みやこ)へ行くごたったなぁ」と呟いたこともある。

フラストレーションも多かったと推測され、私の祖父、つまり彼の父とは凄まじい壮絶な喧嘩を繰り広げていたこともあるそうだ。

ここまで、つらつらと綴ると、彼がものすごく不憫な人生だったと思う人も多いかもしれないが、写真の顔を見れば、それが間違いだとわかるはずだ。

人生は顔に出ると言われるが、いい顔をしていると私は思っている。

私の祖父がいつも網を編んでいた小屋があって、その小屋を改装し、彼は使っていた。ある時、私の家にあったロッキングチェアを彼にあげた。彼はそれを白く塗り直して、小屋の前に置いた。

小屋は、中学校のすぐそばで、通学時間に中学生が通る。

ある天気の良い、気持ちがいい日に、彼はその椅子に座って。ゆらゆら揺れながら、「おいげの親父は、ここで網ばしよって、中学生がおはようございますって挨拶しよった。おいもここで、親父のごてなるとばいなぁ。」と言った。はにかんだような笑みで、いい顔をしていた。

私は、ただ黙って聞いていて。心の深い真ん中にとても響いていた。

生き様を彼にはみせてもらった。

怒り、後悔、悲しみ、憎しみ、諦め、絶望、自己嫌悪、焦燥感、希望、喜び、快楽。様々な感情が渦巻く人生の波の中で、彼は希望を選んだように思う。

死期がどれ程までに、彼の近くにいたのかは私は、知らなかった。でも、いつ死んでもいい身体という感覚は持っていたのは確かである。

3年前の夏に炭酸水を飲みながら、「もう、なごなかで。きしか。」と冗談混じりに言っていたこともあるが、死というものを本気で認識していない私には、彼の感覚がわかるようでわからなかった。

彼はいつも死と隣り合わせだったから。自分が身を置く心の場所をとても大切にしていたように思う。

私が20歳の頃見た、映画「アメリカンヒストリーX」の中で

「怒りに任せるには、人生は短すぎる」という台詞がある。

そんな感じだ。とにかく、時間がないと思っていた。もともと、せっかちな性格でもあるし。だから、人生を彩る感情の一つ一つにじっくり向き合う時間がないことを知っていて、彼は、希望をチョイスしたのだ。そして、それをやめなかった。

有明海を綺麗にしたいし、一次産業をもっと活性化させたいし、南島原をもっと全国や世界に知らせたい、とっ散らかってはいたが、たくさんの希望を抱き締めていた。

急ぎすぎて、失敗したこともあるだろうけど。

「ノモレ」という本があって。アマゾンの先住民についてのノンフィクションである。「ノモレ」とは、仲間とか兄弟とか友という意味。

 あとがきに「先住民には私たちと違った時間が流れている」と書いた。明日のことは語らず、100年後や千年後の未来について雄弁に語る。そんな未来を信じようとする人を書きたいのだ、と。

https://book.asahi.com/article/11750543

「またね。国おじ。何度も言うけど、また会おう」

親愛と敬意を込めて。

Smiycle


Smiycleとは、smileとcycle​をかけ合わせた造語。笑顔は幸せの連鎖を作る。笑顔のサイクルを作りたいという思いから、浮かんだ言葉です。笑顔をプロデュースする活動や記事を続けていきます。サポート頂けたら、幸いです。https://twitter.com/smiycle