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東日本大震災時のゴルフ産業を振り返る②

【前回のあらすじ】

■新型コロナによるゴルフ産業の今後に対する問い合わせが増えている

■東日本大震災発生時のデータを参考にしている

■2011年当時の「震災発生後のゴルフ産業に向けた」文章が出てきた

 ということで、当時の文章をこちらに再掲いたします。


【「2011年版スポーツ産業白書(修正版)ゴルフ用品市場動向】


<ゴルフ用品>
 ゴルフ用品の2011年国内出荷規模(修正値)は、対前年比84.1%の2,232億4千万円になることが予測される。修正前の取材及び調査に基づく予測値が対前年比100.0%の2,653億1千万円であったから、震災の影響によって約421億円、年率にして約16%もの「需要」が消失するという結果になった。


 震災後の市場動向であるが、震災直後の週末(3月12日、13日)は関東・東北地方を中心に壊滅的な状況であった。前年の同じ週の週末(2010年3月13日、14日)と比較すると、直接的被害のあった関東地方の小売店は概ね前年比20%台にて推移した。その後時間が経過するにつれて徐々に販売は回復傾向にあるものの、本来の需要曲線とは大きくかけ離れた水準にて推移、3月トータルでは全国で対前年比70%台中盤(小売店実売金額ベース)となった模様である。


 エリア別に見ると、言うまでもなく直接的被害の及んだ東北地方、関東地方の需要が大きく縮小した。特にゴルフ用品市場にとって最大の市場である関東地方の落ち込みが全体に与える影響は甚大であり、他の地方で健闘したとしてもその(関東地方の)マイナスを埋めることが実質的に不可能であることを、今回の震災によって改めて思い知らされる格好となった。一方、震災の直接的被害が及ばなかった中部以西地方についても、3月トータルでは概ね90%台前半にて推移した。後述するようにウッド市場では「ファイズ(ブリヂストン)」「R11(テーラーメイド)」「レイザー(キャロウェイ)」などドライバー新製品発売効果により「幾分マシだった(専門店筋)」カテゴリーも存在したものの、全体としては「震災の影響による自粛ムードの蔓延」「震災による生活防衛意識の高まり、それに伴う不要不急の消費財買い控え」により、全体的に低調に推移した。


 商品別に見ると、上述したようにドライバー新製品の発売効果もあって、全体的に低調に推移した中でもウッド市場(ドライバー、ユーティリティー)は他のカテゴリーと比較すると幾分好調に推移した。しかしながらそれでも「仮に震災がなかった場合に売れたであろう数と比較すれば、比べ物にならないほど低いレベル(量販店筋)」であるのが現実である。更に震災直後のガソリン不足により、関東地区のゴルファーが物理的にゴルフ場に行きづらくなってしまったこと、ゴルフ場においては法人のコンペが軒並みキャンセルとなったこと、即ち用品需要だけでなくプレー需要も急激に落ち込んだことにより、「ボール」「グローブ」といった消耗品に属するカテゴリーの販売が大きく落ち込んだ。

 4月に入っても関東地方では余震が続き、夜の繁華街は節電の影響により薄暗い状態が続いており、少なくとも「地震のことを忘れて明るく過ごす」というマインドになっていない。それでも震災直後と比べれば「過度な自粛は却ってマイナスになる」といった論調も目立ってきており、少しずつではあるが「今まで通りの生活」に戻ろうという状態になりつつある。ゴルフ業界も各業界団体や企業単位での復興支援、ゴルファーのプレー需要を喚起するための様々な施策が発表されており、徐々に需要は回復しつつある。今回修正値として発表した「対前年比84.1%の2,232億4千万円」という数値は、国民のマインドの回復、ゴルフ業界の復興支援やプレー促進支援策の実施を盛り込んだ数値となっている。つまり「時間が経過すれば、徐々にゴルファーはゴルフ場に戻ってくる」という前提に基づいて組み立てた数値、ということである。しかしながらもう一つのシナリオとして「今回の震災により、一部のコアゴルファーを除いては暫くの間市場には帰ってこない」という「最悪」のシナリオも考えられる。その場合、ゴルフ用品国内出荷市場規模は対前年比75%程度にまで縮小するものと予測される。「最悪のシナリオ」が実現してしまわないための業界の施策立案、実施が強く望まれる。


 今回の震災は我々日本国民に対し「レジャー、余暇の過ごし方」についての考え方を根本から考え直させるほど大きなインパクトを有しているといえる。つまり、ゴルファーの心の中にも「これから先ゴルフを趣味にしていて良いのだろうか」「東北地方の復興が進まない中、自分だけがゴルフをして豊かさを満喫していて良いのだろうか」という一種の「葛藤」を与えたと言える。しかしながらその一方で、「震災後にゴルフをしたが、改めてゴルフの素晴らしさ、大切さを認識した」「自分がプレーをすることで経済が循環し、結果としてそれが東北の復興、我が国の復興に繋がると感じた」とする声も、「ツイッター」や「フェースブック」などで数多く目にすることもできた。今回の震災で、多くのゴルファーから「ゴルフ」というものが忘れ去られ、その結果業界が衰退するのであれば、所詮この国にとってゴルフとは「その程度の存在だった」ということであるが、上述したようなエンドユーザーの声を聞く限り、ゴルフはこの国にとって「欠かせないスポーツ」であり「欠かせない“遊び”」であると確信する。震災により様々なストレスを抱えている人が多いことは想像に難くないが、だからこそ「人間が生きていく上で、“FUN(楽しさ、楽しみ)”は欠かせない」ということを認識した人も多い筈である。そう考えると今回の震災は、ゴルフ業界にとって「日本にゴルフ文化」を本格的に根付かせる転換期、大袈裟に表現するならば「チャンス」であるとも言えるだろう。このような際に必要なのは業界に携わる一人一人が「明るく前向き」なビジョンを持ち、それに向かって突き進む明確な強い意志を持つことであると考える。そしてその一つ一つの気持ちが繋がり業界としてのパワーを持ち得た時にこそ、この国に従来とは違う「新たなゴルフ文化」が生まれるのではないだろうか。「この先市場はどうなってしまうのだろう」という“負”の気持ちに囚われるのではなく、「こうなったらこの先の市場を俺たちが新しく作り変えるぞ」という気概を持って臨んでほしいものである。

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