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056 2021年国内ゴルフ用品市場を振り返る

 先日、当社が集計・分析を行っているゴルフ用品小売店実売動向調査(国内約1,100店舗のゴルフ用品小売店の実売データを集計した調査データ)「YPSゴルフデータ」の2021年12月実績の集計が完了した。今回は2021年の年間累計データを集計しながら、2021年という年が国内ゴルフ用品産業にとって「どのような年」であったのかを振り返ってみたいと思う。

販売金額は2011年以降で最高を記録

 上述の「YPSゴルフデータ」の集計対象は以下の7カテゴリーである。

1.ウッドクラブ(ドライバー、フェアウェイウッド、ハイブリッド)
2.アイアンクラブ(単品ウエッジ、チッパー含む)
3.パタークラブ
4.ラウンドボール
5.ゴルフシューズ
6.キャディバッグ
7.ゴルフグローブ

 ゴルフクラブに次いで市場規模の大きいゴルフウエアが含まれていないが、ここから先は上記集計対象カテゴリーの動向を中心に分析を行うこととする。

(なお上述したカテゴリーの他「ゴルフ用ティー」「アフターマーケット市場におけるクラブ用グリップ」「ゴルフ用デジタルガジェット(飛距離測定器など)」も集計、分析を行っているが、今回は集計対象から除外する)

 下のグラフは、7カテゴリー合計の年間販売金額推移である。

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2021年がこの11年で最高額に

 一目瞭然であるが、2011年以降で過去最高の売上を記録した。新型コロナウイルス感染拡大が顕在化した2020年は過去最低の金額となっている。「コロナの影響で新規ゴルファーが増加した」など、2020年はゴルフ産業にとって「追い風」と表現できるような市場環境なのに過去最低?と思う人もいるかもしれないが、3月から5月にかけて大幅な需要減退に見舞われたこと、6月以降回復したものの3-5月のマイナスを取り戻すには至らなかった、というのが実情である。

しかしながら、販売数量は最高ではなかった

 「2011年以降で過去最高の売上高を記録」というと、さも「売れて売れて仕方なかったのか?」と思われがちだが、こと「販売数量実績」となると若干事情が異なる。一例としてウッドクラブの2011年~2021年販売数量推移グラフを見てみよう。

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あら?数は意外と出ていない

 実は販売数量は2020年比で微増、東日本大震災の影響を色濃く受けた2011年の実績をも下回っているのである。2011年から2021年までの11年間の中では「下から数えて2番目」という低水準であることが分かる。何故販売数量の水準は低かったのに、販売金額では11年で最高を記録できたのか?誰にでも分かる単純な話であるが、小売市場における平均実売価格が上昇したのである。その要因は以下の二点に集約される。

①マークダウン品の販売数量減少(=プロパー品の販売数量増加)
②プロパー品の値引率抑制

①マークダウン品の販売数量減少
 マークダウン品とは、所謂「特価処分品」のことである。あるメーカーから新製品が発売される際、その新製品発売の数ヶ月前からバトンタッチ対象となる商品を「マークダウン販売」して小売市場の在庫消化を促進し、来るべき新製品発売に備えて「売場を確保」することを主たる目的に行われる販売手法で、ゴルフ用品市場では恒常的にこのマークダウン販売が行われている。既にテーラーメイドから「ステルス」という新製品の2022年2月発売が発表されているが、それと共に2021年12月末よりバトンタッチ商品の「SIM2シリーズ」のマークダウン販売が始まっている、と言えば理解頂きやすいだろう。
(ちなみに当社ではマークダウン品の定義を「メーカー希望小売価格設定品はそこから40%引き以上で販売されたもの」「オープンプライス品は当社調査の実勢売価から25%引き以上で販売されたもの」としている)

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2021年のマークダウン品販売数は過去最少

 上のグラフは2011~2021年のドライバーのマークダウン品販売数量推移である。2021年の販売数量は「過去最少」、グラフ内のピークである2016年との比較では「51%程度」に止まっている。

 その一方でプロパー品の販売数量は高水準にて着地した。下のグラフはドライバープロパー品の販売数量推移であるが、2018年及び2017年の水準には及ばないものの、この11年間で3番目に高い水準である。

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ビジネスの中身が良くなりました

 マークダウン品の販売数量が減少した要因であるが、メーカーサイドの戦略転換に依るところが大きい、というのが私の見立てである。年別のプロパー品とマークダウン品の販売数量を見れば分かるが、簡単に言うと「マークダウン品販売数量の多い年はプロパー品の販売が少なく」なるのである。マークダウン品の販売数量(構成比)が増えれば、それだけ客単価は下落しメーカー及び小売店の「儲け」も少なくなる。更に言えば、マークダウン品の販売量が増えることで「総売上数」が増えればまだマシであるが、過去の歴史を振り返る限り「需要総量」はさして変わらなかったのである。

 それを理解した業界サイドが「マークダウン品の販売をいつまでも引っ張ること」や「見かけ上のシェアを獲得するためのマークダウン品販売」を見直した結果、2021年は高水準の金額ベースでの売上高を実現したのである。

過度な「値引き販売」も抑制

 もう一つの要因が、「プロパー品市場における値引率の抑制」である。平たい言い方をすれば「ムダな(無茶な)安売り競争が抑制された」ことにより平均実売価格が上昇したのである。

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値引率はこの2年で急激に改善、「震災前」のレベルに

 上の折れ線グラフは、ドライバー(プロパー品のみ)市場における2011~2021年の平均値引率推移であるが、2021年は平均24.3%と2011年以降で「最も値引が抑えられた」年となっている。値引が最も激しかったのは2019年の32.0%であるが、それと比べると7.7ポイントも「改善」されている。この数字をもう少し具体的に計算してみると、例えば1本78,000円(税別)のドライバーが1本売れたとして

●2019年の実売価格:53,020円
●2021年の実売価格:59,068円

と、同じ商品であっても1本あたり約6,000円もの「売上高の差」が生じる計算となるのである。仮に年間100本のドライバーを販売する店であれば約60万円、500本売る店であれば約300万円、1,000本売る店であれば約600万円もの「売上高の差」が生じるという計算になる。

 ここまでの話を簡単にまとめると、2021年の国内ゴルフ用品市場は「産業の健全化が推進されたことにより、収益体制が改善された」一年であったと総括することができる(但しこれらは、メーカーサイドの原価率上昇や販管費、小売サイドの掛率など諸条件の変化や販管費の変化といったP/L上の変化を一切加味していな話ではあるが)。

レディース市場の活性化

 2021年市場の特徴のもう一点が「レディース市場の活性化」である。下の表は、YPSゴルフデータ集計カテゴリーにおけるレディース用品の販売金額推移である。2011年以降で過去最高を記録しているのは(メンズ市場も含めた)市場全体と同様であるが、2011年から2020年までの10年間の平均値との比較で142.7%という極めて高水準の金額を記録している。「2011年から2020年までの平均販売額よりも約1.4倍売れた」ということである。

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 2021年当初は業界の中でも「(レディース市場の好調は)どこまで続くのか?」「一時的、バブル的な動きで終わるのでは」という声が支配的であったと言って良いが、この数字を見る限り(図らずもコロナによってゴルフを始めた、またはゴルフを再開した)女性ゴルファーは「定着」していると言って良いのではないだろうか。これも「市場の健全化」と共にゴルフ業界にとっては好材料といえる。

 果たして2022年もこのような「健全な市場環境」は続くのか?現在でもゴルフクラブ市場を中心に一部メーカーの商品の供給は滞っている模様だ。それがゴルファーの購買意欲に冷や水を浴びせるようなことになるリスクもある。また小売企業間の「商品取り合い」的な過剰発注による在庫過多・値崩れリスクも無いとは言い切れない(現在の生産状況をメーカーから聞いている限りではその可能性は低そうだが)。

 何よりもコロナの感染状況がどうなるかによって市場環境は大きく変わるだろうが、短期的にはポジティブな状態が続きそうだ。








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