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082:チッパー販売動向

 現在8月末の「2022年版ゴルフ産業白書」発刊に向けた編集作業の追い込み時期で、まあまあメンタル的に追い詰められつつあるのだけれども、7月にピンから発売された「Chip R」を中心としたチッパー市場の動向がどーしても気になるので、過去のデータも含め改めて分析してみた。今回はその結果について記しておきたいと思う。

ピン「Chip R」発売により市場は急拡大

 ゴルフをしている人ならば「チッパー」がどういうクラブかご存じだと思うが、そのへんの説明をしてしまうと文章が長くなってしまうので割愛するけれど、2022年7月14日にピンから「Chip R」が発売されて以降チッパー市場は急激に拡大している。

 当社ゴルフ用品実売動向調査「YPSゴルフデータ(国内主要ゴルフ用品販売店のPOSデータを集計、分析したデータ)」の週次ベースのデータでは、「Chip R」発売前のアイアン市場におけるチッパークラブ販売数量構成比は僅か0.2%程度だった。1,000アイアンが売れたとして、その中でチッパーは僅か2本しか売れない、ということ。

売れてます

 上述の通り「Chip R」の発売日は2022年7月17日だが、それ以降のチッパークラブの販売数量構成比は1.7%にまで急拡大している。単純に考えるとChip R発売前と発売後とでは約10倍需要が拡大している、という計算になる。上記の例に当てはめると「100本のうち2本売れている」ということ。しかもこの「Chip R」はメーカーサイドもそれほど強気の生産計画を組んでいた訳ではないようで、全国のゴルフショップに潤沢に在庫が置いてある、という訳ではないらしい。つまり潤沢に在庫があればもっと数量構成比は上昇していたのではないかと思われる。とは言えアイアンの需要全体における構成比は一桁台前半の「ニッチ市場」であることに変わりはないのだけれど、たった一つの商品でここまで需要が拡大するというのはなかなかない話だったのも事実。

それ以前ではプロギア「R35」が市場を開拓

 チッパーというクラブ自体は、私がゴルフ業界の仕事に携わる遥か昔から存在する商材であり決して新規性の高い商材ではない。また用途がグリーン周りでのアプローチショット中心となること(14本のクラブ制限がある中で、それだけに特化したクラブをセッティングするという文化が醸成されなかったこと)、チッパーというクラブ自体が「お助けクラブ」的な要素が強く、それを持つこと自体「私はアプローチが苦手(下手)です」と言っているように見られることを「恥ずかしい」と思うゴルファーが多かった(であろう)ことにより、なかなか普及してこなかった。要するに「チッパーを持つこと、使うこと=カッコ悪い」というように考えるゴルファーが多かった、ということ。

 そんなある種の「常識」に疑問を呈して新たなチッパーを発売したメーカーがプロギアである。今を遡ること約16年前の2005年11月、これまでの「チッパー=カッコ悪い」というイメージを覆すチャレンジングな商品「R35ウエッジ」を発売したのである。なおこのモデルは、2010年に新溝に対応すべくマイナーチェンジを行って以降、現在でも現役バリバリのカタログモデルとして販売されている超ロングセラー商品である。

プロギアR35ウエッジ

2006年当時のチッパー販売構成比は?

 では「R35」が発売された後の2005年11月以降、アイアン市場におけるチッパーの販売はどのような形で推移したのか。当時のデータを集計すると以下のような結果となった(アイアン市場における月別チッパー販売数量構成比)。

2005年11月(R35発売初回月):1.00%
12月:0.59%
2006年1月:1.12%
2月:0.99%
3月:0.78%
4月:0.95%
5月:0.73%
6月:0.69%
7月:0.62%
8月:0.61%
9月:0.58%
10月:0.61%
11月:0.58%
12月:0.41%
2005年11月-2006年12月平均値:0.74%

以上のような結果となった。上述した「Chip R発売前」の構成比と比べると水準は高いけれど、時が経つにつれて少しずつ需要が減退している様が見て取れる。これに関しては、当時プロギアの他に追随するメーカーがなかったこと、換言すれば「用品業界全体でマーケットを創造することができなかったこと」も関係しているのではないかと思う。

「14本のうち、何を抜いて」チッパーを入れているのか?

 定量的な分析では、過去の数字と比べて足下の市場ではチッパーのマーケットが「盛り上がっている」ことが明らかとなったけれど、個人的には「Chip R」を購入したゴルファーのセッティングの変化に興味がある。具体的には「何のクラブ(番手)を抜いてChip Rを入れているのか」ということ。これまで14本未満のクラブセッティングだった人は純粋に「プラスオン」となるが、14本ギリギリのセッティングの人は何か1本を抜いてChip Rを入れる必要がある。ウエッジを1本抜くのか、それともフェアウェイウッドやハイブリッドクラブ(のうち使用頻度の低い番手)を抜くのか、または上の番手のアイアンを抜くのか。このあたりはどこかのタイミングで消費者調査を実施して可視化してみたいところ(クライアント企業の皆様、調査のオファーお待ちしておりますw)。

 そしてもっと興味があるのは、チッパーを購入して使用しているゴルファーのスコアが「使用前」と「使用後」で果たして変化しているのか?という点。イマドキの言葉で言うならば、チッパーを入れたことによる「エビデンスの検証」というような表現になるだろうかしら。要するに、そのゴルファーの「ゴルフライフの更なる充実(しあわせゴルフ)にチッパーがどれだけ貢献できているのか?」という話。

 そのあたりが可視化できたならば(そういった視点でのマーケティング戦略が確立されれば)、現状ニッチマーケットであるチッパー市場の更なる成長、持続的な市場確立にも繋がるんじゃないかしらと思った次第。



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