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067:eスポーツ

 今更の話かもしれないが、私は会社でスポーツ産業の市場調査を担当している。そんな私のところに数年前から増えているのが「eスポーツ」に関する問い合わせ。内容も多岐にわたっているが、その殆どが

■eスポーツの定義、範疇
■現状の市場規模
■将来の成長性
■「リアルスポーツ」との親和性、相乗効果

に関するものである。要するに「スポーツ」と名のつく新しい世界なので、矢野経済に聞けば何か分かるだろう、ということで問い合わせを頂いているということである。

 しかしながら私自身が「eスポーツ」を定義化できていなかったこともあり、上記のような問い合わせに明快な回答をすることができないでいた。寧ろ自分自身eスポーツに対し「スポーツと名が付いているだけで、リアルスポーツとは全くの別物」「要するにただのゲームでしょ?」という認識を持っており、どちらかというと否定的な見方をしていたのが事実。

KADOKAWAがeスポーツに積極投資することの意味は?

 そんな考えを持っていた自分に先日転機が訪れた。きっかけは神奈川県御殿場市の「時之栖」様で3月初旬に開催されたワーケーションイベント。宿泊した山羊の丘コテージで同室になった株式会社KADOKAWAの藤岡さん、梅山さんが同社のレクリエーション事業部でeスポーツを推進するお仕事をされていて、夜飲みながらeスポーツの現状と今後の(KADOKAWAとしての)事業戦略について深~いお話を頂いたのである。

 また偶然にもお二人の勤務地が新しくオープンした所沢の「サクラタウン」である、ということ(私の自宅がある西東京市からまあまあ近いこと)もあって「是非今度所沢で飲みながら、eスポーツとリアルスポーツの融合について語りましょう!」と意気投合した次第。この時にもお二人から名だたる様々な企業がeスポーツへの投資を推進しているという話を伺ったのだけれども、その時は未知なるeスポーツという世界の魅力を朧気ながら感じながらも、自分自身の理解不足から「何故KADOKAWAのような一流企業がeスポーツに対してそこまで前のめりなのか?」という点について“腹落ち”することができずにいた。

eスポーツ≒スポーツなのか?

 そんな私のところに、梅山さんから一通のメールが届いた。4月2日に所沢サクラタウン内に、KADOKAWA主宰のプロゲーミングチーム「FAV gaming」の活動拠点となるeスポーツ専用施設「FAV ZONE」がオープンするので、是非遊びに来てください、という内容。残念ながらこの日は息子と釣りに行ったためお伺いすることができなかったが、翌3日に西武線と武蔵野線を乗り継いで所沢サクラタウンへ向かった。ちなみに、サクラタウンの最寄駅は西武線所沢駅ではなく、JR武蔵野線東所沢駅。

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角川武蔵野ミュージアム

 会場で梅山さんと合流し、サクラタウン4階にオープンしたFAV ZONEに案内頂く。丁度伺った14時から、プロチーム「FAV gaming」がアマチュアゲーマーと交流するイベント「プロゲーマーとeスポーツに挑戦」が開催される、ということで会場内にお邪魔させて頂き見学させて頂くことに。

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プロ選手の紹介
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FAV gamingメンバー


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何をしているのか殆ど分からずw

 驚いたのは、イベントに参加したアマチュアゲーマー10名のうち4名が女性だったこと。アテンド頂いた藤岡さんによると女性の構成比は結構高いらしく、ゲームの種類によって性別構成比は異なっているそうである。リアルスポーツも種目によって性別構成比は大きく異なるが、そのあたりはeスポーツでも同じようで、「ゲーム = 男性の世界」というのは現代社会では完全に誤った価値観であることを知った。昭和の「ゲームセンター」世代である私にとってはこれだけでかなりのカルチャーショック。

 その後暫くアマチュアゲーマーが2グループに分かれてゲーム(確か「バロラント」とかいうゲームだった気が・・・)を進める様子を見学させて頂いた。殆どゲームの内容は理解できなかったのだけれど、多分「攻撃側」と「防御側」にチームが分かれていて、各々のキャラクターに特性があってプレイヤーは各々のスキルに合わせてそのキャラクターを選択し、その特性に合った武器を調達しながら攻防を繰り返す、的な内容だったのではないかと思う。詳しい人がこの陳腐な表現を見たら怒られそうだがw。

 見学していると、ところどころでプレーヤー同士で何らかの会話が行われる声や、「ナイス!」といったような掛け声があがっていた。恐らく、攻撃側防御側双方で個人的スキルだけでは突破することのできない「チームプレー」としてのスキルが求められるシーンがあるのではないか、などと好き勝手な妄想をしつつ、一時間ほどプレーを見学させて頂き会場を後にした。

 実際にeスポーツの現場を見て、これまで自分の中で不明瞭だったものがだいぶ可視化されたような気がした。スポーツ産業界では「eスポーツはスポーツと言えるのか?」といった「リアルスポーツ上位」的な思考に立脚した議論がなされることがある。中には「あんなものはスポーツではない」といった「リアルスポーツ至上主義」的な発言もあるようだが、今回自分がeスポーツの現場を見て感じたことは、eスポーツは「eスポーツ」という新たに確立された産業であり、それをリアルスポーツと並列で考えること自体がナンセンスである、ということ。但し「ファン(視聴者)目線」で見た場合、リアルスポーツとの共通項も多数あるような気がした。具体的には、

■「憧れ」の醸成機能:上記FAV gamingの他にも、国内では既に幾つかのプロチームが結成されている。そのプロに憧れて将来の職業を「プロゲーマー」とする子どもたちも増えているらしい。プロ野球選手、Jリーガーなどと構図は同様。プロを頂点とした「トップダウン」の構造が構築されつつある

■チームプレー:上述したようにeスポーツで採用されているゲームの多くが「チームでのプレー」を前提としているようである。つまりプロチームは個人のスキルを磨くだけではなく、チームとしてのトータルパフォーマンスを向上させるためのトレーニングを行うことが必須なのである(多分)。このあたりもリアルスポーツにおけるチームスポーツと同様と言える

■視聴コンテンツ:これも聞きかじりの話なので詳しくは分からないのだが、世界的にはeスポーツの試合が視聴コンテンツとしてかなりの市場を有しているそうである。要するに「他人がゲームする姿をお金を出して視聴する熱狂的なファン層」が存在する、ということである。また、eスポーツの試合が視聴コンテンツとして成立するか、盛り上がるかどうかは「実況と解説のスキル」に依るところが非常に大きいそうで、プロゲーマー以外にもeスポーツの実況と解説という職業が成立しているそうである

といった点が共通項として括ることができるのではないかと感じた。eスポーツの今後について語れるほど知識がある訳ではないが、プロ選手の「(いち人間としての)育成制度」とeスポーツ自体の「社会的認知向上」がカギなのではないかと感じた次第。

 恐らく私がeスポーツ産業について専門的な調査、研究に足を踏み入れることはないと思うけれど、eスポーツ、リアルスポーツ双方の相乗効果を見出すためのチャレンジはしてみたいなあ、と感じている。

 FAV ZONEは今後FAV gamingの活動拠点としてだけではなく、地域の子供たちに向けたイベントなどで活用することでeスポーツの普及を目指してゆくとのこと。またチームの練習風景などを一般公開することにより底辺拡大の機能も担っていくようだ。今後のKADOKAWAさんの事業展開が何とも楽しみ。

 今回も「百聞は一見に如かず」「ヒントは現場にあり」を実感。

※追記
 ゴルフ産業内ではしばしば、ゴルフゲームを新規ゴルファー創出のフックとして活用してはどうか?というアイデアが提案されるが、その可能性についてお二人に問い合わせたところ、現時点で「みんゴル」などのゴルフゲームがeスポーツとして成立する可能性はゼロに近いとのことだった。

 プロゲーマーにとって現状のゴルフゲームは簡単過ぎて競技として成立しない、というのがその主たる理由とのことであった。またこれは私の勝手な想像ではあるが、上述の通り現在eスポーツで採用されているゲームはチームで戦うものが主流のようであり、基本個人競技(ゲーム)であるゴルフとの親和性があまり高くないのも理由の一つなのではないかと思う。

 だからと言ってゴルフとeスポーツの関連性が全て否定されるという話ではなく、簡単に言えばeスポーツとして成立するゴルフゲームやそのフォーマットを模索して開発すれば良いだけの話ではないかと思う。ゴルフ産業の現状を考えるとそうした新たな領域にチャレンジするような文化が醸成されているとは残念ながら言えないが、もしそれが実現できたならば既存のゴルフ産業にも新たなビジネス領域が生まれるのではないかと思う。個人的には、リアルゴルフの難しさ(ショットの難しさ、プレーヤーに合わせたクラブ選びの難しさ)がゲームでも実現できれば、十分にeスポーツとして成立するのではないか?と考えている。矢野経済入社直後に企画した「リアルみんゴル」を今こそ陽に当てるべきか?w

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