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"パントマイムが出来ます"の違和感 #5

【パントマイム】という言葉を聞いて、どんなイメージをもつだろうか。言葉すら知らないという人も中にはいるだろうが(実際ちょくちょくいらっしゃる…)、大半は「あ〜、あの壁とかピエロのやつね〜」というくらいには認知していることと思う

だが、これがパントマイムなんですよと説明することは結構難しかったりする。何をもってパントマイムと呼んでいるのかが人によって異なるからだ。

一般の方からすれば壁などのテクニックのことかもしれないし、喋らないという特徴や、ピエロなどの見た目を指してそう呼んでいるのかもしれない。しかし、実際に取り組んでいる人、よく観に来てくださるお客さん、そして一般の方々、それぞれがもっているパントマイムという言葉の解釈は一致していない。

では、実際はどの部分のことをパントマイムと呼ぶのだろう。

結論から言うと、パントマイムとは特定の動きやスタイルを指し示した言葉ではなく、一つのジャンルを示す言葉である。

パントマイムはジャンルを示す言葉

パントマイムは演劇やミュージカル、歌舞伎やバレエのような全体のジャンルを示す言葉だ。パントマイムというジャンルの中に《壁》というテクニックがあり、ピエロみたいな役割があり、チャップリンのような黙劇が存在し、舞台芸術として作品がある。それらを内包したジャンルを示す言葉がパントマイムなのだ

しかし、現実問題としてパントマイムの認知はそのように受け止められてはいない。どこまでいっても、テクニックやビックリ人間のような技や見た目を指して”パントマイム”と呼ばれているように感じる。なんならプレイヤーの中にもそういう認識でパントマイムに取り組んでいる方もいるだろう

”パントマイムが出来ます”の違和感

なので本来は「パントマイムが出来ます」という言葉はおかしい。「演劇が出来ます」「ミュージカルが出来ます」とは言わないように。正しく言葉にするなら「パントマイムをやってます」になる。

では、なぜ出来ますという言葉を用いてしまうのか、それはやはりパントマイムをテクニック主体で捉えているからだろう。壁やトランクなどのテクニックが上達した時に、それ自体がパントマイムであると認識すると”パントマイムが出来る”という受け取り方をしてしまう。しかし、それは間違いだ。それは壁やトランクの技が上達しただけであり、パントマイムが出来るようになった訳ではない。”パントマイムが出来る”は壮大すぎる物言いだなと自分は感じている

しかし一般的な認知に合わせた言葉を用いるとなると、伝わりやすいのは”パントマイムが出来ます”なのだろうなとも思う。コミュニケーションにおいては相手の理解に合わせた言葉選びをする必要がある。なので自分はジャンルのことだと理解していても、伝わりやすいように”パントマイムが出来ます”という言葉で表現することもあるかもしれない

一般的な認知と文化

ややこしい話をしている。この辺は「パントマイムの教科書」という書き物をしている私の解釈がある話だ。時代が変われば言葉も変わる。受け取り手の認識や求められているもの(テクニックや不思議な動き)がそこにあるのであれば、本来はこうだよなんていうことを前面に押し出しても喜んでは貰えないだろう。

「エスカレーターは片側に並ばず両面に並んで乗りましょう」という運動を鉄道会社が近年積極的に訴えているが、一向に広まらないのと同じだ。本来は並んで立つのが正しい乗り方だったとしても、そう認知されていなければ共通の理解にすることは難しい。

テクニックはカッコよく、目を引き、作品の演出において欠かせない要素の一つではあるが、20年以上前に書かれた諸先輩方の本の中でも、一様にテクニック屋さんになるなと警鐘を鳴らしている。パントマイムを身近なものにする入り口として活用したいものの、忘年会の出し物的な認識で拡散したくはないというジレンマはこれからもついて回りそうだ。

芸事が達することはない

芸事が達することなどない。極めただの、出来るだのはおこがましい言葉だ。人生の全てをかけて、他のことを全て投げ売ってようやく到達できるような至高の領域、それが達するということだ。60歳を越えてようやく「半人前です。」と挨拶出来るような歌舞伎役者さんのように。

千の日をもって鍛、万の日をもって錬、総じて鍛錬。それくらいのお稽古をしてようやくスタートラインに立てる。芸事とはそういう世界ではないだろうか。もちろん誰でもチャレンジして良いし、上達しなければダメということもない。しかし、パントマイムをテクニックのことだと思ってしまうと、少しのテクニックが出来るようになっただけで勘違いしてしまう。一つのジャンルに対して出来るなどという言葉は使うものではない。

自身も今だ半人前、現場に立つ度、公演を打つ度に未熟さを恥じている。それでも人生をかけて少しでも高みに向かいたい、”パントマイムが出来る”などとは一生言えないだろう。どこまで行っても「パントマイムを演らせて頂いております。」がいいとこだ

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