五感

昭和の時代、子供達はいろんなところで遊んだ。アメリカザリガニがいる沼、収穫が終わった田んぼ、秘密基地を作っていた空き地(トイレも常設)、公園の砂場。高度経済成長の真っ只中で、大人達は忙しくしていた。

子供達はどこでも遊び場にした。家に帰って来ると、砂ぼこりをかぶって、汗だく。風呂場に直行。母にシャンプーをアタマにぶっかけられ、ゴシゴシ洗われた事もあった。

冬のある日。突然雪が降って来た。子供達は収穫後の田んぼで、犬の様に駆け回り、天から降って来る雪を口で捕らえようとするのであった。

翌朝、残雪を集めて、雪だるまを作る。出来上がった雪だるまは至る所に土が付いていた。そして、ゆっくりと融けていくのが悲しかった。炭で描いた雪だるまの目と鼻が泣いているかの様に微妙に変化していった。

小学校の便所で、「大」をするのが恥ずかしかった。勇気が必要だった。一度、「大」を我慢して、小学校から自宅まで帰って来た事がある。家の横まで来た時、悲劇が僕を襲った。自宅を見てホッとしたのだろう。漏らしてしまったのである。出る瞬間は気持ち良かったが、後は悲惨だった。母を呼んで、救助してもらうしか、手は無かった。

友だちで、農家が肥料用の人糞を溜める「野壺」に落ちた奴がいた。野球のボールが「野壺」に落ちて、それを取りに行く。表面が固く見えるので、そのまま入って行った。首まで浸かった友だちは、母親に遠くからホースで水をかけられ、洗ってもらったそうだ。

五感を研ぎ澄ませて生きる。それが子供達の日常だったから。

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