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引ったくりの犯人は頭のいい慈鳥(じちょう)10分間の恐怖。

家から車で30分の所に我が家のお墓がある。
お盆やお彼岸、命日の前には必ず掃除に行く。
山を削って作った墓所は見晴らしは良いが、
とにかく坂、坂、坂。

駐車場に車を止めて、その坂道を荷物片手に手摺り伝いに登って行く。

フーフー言いながら我が家のお墓に到着した頃には、
一仕事終わったかのような脱力感。

水分補給して掃除する前に休憩することにした。

辺りは何もなく、自然豊かで静かだ。

しかしこの日はヤケにカァカァと鳴き声がする。

見上げると、やはりカラスが2羽飛んでいる。

かなり高い場所の木から木へと飛び交っていたから、
私は一向に気にしなかった。

休憩も終わり、屈んで墓地の雑草を抜き始めた。


何やら視線を感じる…



ふと顔を上げてみたら、カラスと目が合った。


んっ?』


『えぇーーーーーーっ!!!』



カラスが墓石の上に止まり私を凝視していた。
いつの間にやって来たのか…
全く気づかなかった。

墓石は6柱、その内3柱に3羽…

完璧にロックオンされた。

1メートルの至近距離でカラスと見つめ合った経験は生まれて初めて。

カラスの大きさ、黒さ、口ばしのツヤ、爪の鋭さ。

もぉ〜怖くて動けない。

『な、な、何の用?』
震えながら声を出した。

払いどけたい気もしたが、
下手に騒ぐと攻撃されかねない。

1対3 襲われたら間違いなく大怪我だ。


カラスは微動だにせず、ジーっと私を見てる。

今まで墓掃除に、カラスが寄って来たことなんかないのに。

今日は何?
しかも3羽も…

『た、た、食べるものなんか持って来てないよ。』

『さっさとあっち行けぇ〜っ!』

『そ、そ、掃除の邪魔するなって。』

視線に耐えきれず口走ってみたものの怖い。

この状況どうなって行くの?
不安が襲って来る。

知らんふりして雑草抜いてみる?

いやいやぁ…ムリムリムリムリ…

目を逸らした途端、襲いかかって来るかも〜。

3羽は家族?親子?兄弟?
ただの仲間?
墓所を縄張りにしてるグループ?

もう変な事ばかり頭に浮かぶ…

今日のターゲットがもしや私ってこと?

それは不可解過ぎる。



右手にホウキを握りしめ、
ゆっくりゆっくりカラスを刺激しないように立ち上がった。

と、その瞬間…
バァサァ〜!っと羽根の音がした。

1羽が私の足元目掛けて飛んで来たかと思いきや、
空に向かって飛んで行った。

残りの2羽も1羽の後に続いて大空へ…

秒の出来事に何が起こったのか…

素早過ぎて一瞬の現実を記憶してない。

『えっ!ビニール袋?』

足元に置いていたビニール袋がない!

ひったくられた!

大空を飛ぶカラス3羽を見つめながら…

記憶を巻き戻しつつ、

しばらくして、状況を理解した。

カラスは駐車場から荷物片手に歩く私を、空から監視していたのだ。
私は確かに白いスーパーの袋を持っていた。
中身は雑巾と花切りバサミとゴム手袋だが、


食料が入ってると
カラスはそう思ったに違いない。

カァカァと鳴いて仲間に知らせていたんだ。


『食べモノみ〜つけたっ!』ってなわけだ。

あ〜怖かった、怖かった、
動悸がおさまらない。

花切りバサミを取られた事は悔しい!
けれど襲われずに済んだことは幸いだ。

しかしカラスの羽色は見事な黒だった。
なんかちょっと羨ましい…

掃除もそこそこに、その日はサッサと墓地を後にした。

ーーカラスの別名は慈鳥(じちょう)ーー

カラスにはカラスの子供が成長すると、その親に餌を運んで養うことから、「烏に反哺の孝あり」と言われ、慈鳥と言う別名を持つ。







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