ショートショート 高橋さんは妹にならない

「高橋。折り入って頼みがある」
「聞こうか」
「俺、妹が欲しいんだ」
「親に頼むやつ。なんでまた」
「今まで黙ってたんだが、実は俺、妹萌えなんだ」
「墓場まで持ってってくれればよかったのに。それで?」
「俺の妹になってくれないか?」
「うわあ」



「えっと……どうしよう。幼馴染の乱心を止めてあげたい。そうは思いますけど」
「高橋が妹になってくれればそれでいいんだ」
「ちょっと黙ってて」
「はい」
「うん、はい。まずね、なれないと思うんだけどね。物理的にね。私、あなたの幼馴染なわけよ。家族でないわけ」
「そこは大丈夫だ。半分家族みたいなもんだから」
「ううーん。そう来るぅ……? それいろんな意味で複雑なんですけどぉ……?」
「なんでだ? 俺は高橋と家族みたいに仲良しで嬉しいぞ」
「さい」
「さい?」
「なんでもない。複雑な感情で変な声が出ただけ」
「オンボロなロボットみたいだな」
「黙れ」
「さい」



「家族だとしてだ」
「無理があるなぁ」
「何歳か若返ってくれれば」
「無理があるなぁ」
「大丈夫。気の持ちようだ。心が妹であってくれれば。俺も心が兄であるから」
「無駄に名言ポイント高めなのうざいな。え? 気持ち若返ればいい感じ? それ意味なくない?」
「そんなことないさ。大事なのは気持ちだ」
「いいことっぽく言うな」
「とりあえず、お兄ちゃんって呼んでみてくれないか」
「え、普通にいやですけど……」
「なぜだ」
「い、妹じゃないから?」
「もっと真剣になってくれないか」
「なれるかんなもん」


「あのさ。まず、そしたら、あんたが私を名字で呼ぶのがおかしくない?」
「一理ある。じゃあ奈緒子」
「きゃっ」
「きゃっ?」
「急に呼ぶねい」
「ねい?」
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん!」
「しまった。なんか流れで」
「お兄ちゃん!」
「うるさい」



「いまのなし」
「なんでだ」
「なんでも」
「そうか……残念だ……じゃあ高橋、次だ」
「あ、戻すんだ……ふーん」
「どうした高橋」
「どうもしてない。なにバカななじみ」
「妹の気持ちになってみよう」
「なんか私が指導されてるみたいなの、腹立つんですけど?」
「妹はお兄ちゃんが好きだ」
「偏見の塊。全妹に怒られろ」
「妹はお兄ちゃんを頼りにする」
「兄妹によると思うよ」
「でもな、お兄ちゃんも実は妹が優しくて、いつも頼りにしてくれるのが、心の支えになってるんだよ」
「こいつよく喋るなあ」



「ちなみにさ。私があんたのことを好きで、頼りにしていたら、それは私は妹ってことになるの?」
「ん?」
「ん?」
「どうだろうか。そんなこと、あるのか?」
「私が妹という可能性よりは、あるかもね」
「ふむ。ならないな。高橋は高橋だ」
「あらまあ。自分で気づけたわこの子。むかつくことにちょっと感動的でさえある」
「急にほめるな」
「ほめてないわ」



「そうか。高橋は俺の妹にはなれなかったか……」
「え? なんで私がだめだったみたいな言われよう?」
「そしたら一緒に妹、探してくれないか?」
「そしたらじゃないが。いやだが。探して見つかるものかなぁ」
「どう思う?」
「知らんが。はあ……まあ、たまにさ、気が向いたら、呼んであげるから。お兄ちゃんって。それで我慢しなよ」
「高橋……やっぱりいいやつだなお前。持つべきものは幼馴染だな」
「そうだろうそうだろう。ちょっと癪に障るけど。でさ、代わりにあんたは私のこと、ちゃんと名前で」
「うん。でもやっぱり高橋は俺の妹じゃないもんな。さっき分かったからな。遠慮しておく」
「くそが」
「どうした高橋。口が汚いぞ」
「うるさいバカ」
「たしかに妹はツンデレだがもう高橋はやらなくていいんだぞ」
「うるさいバカ」

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